QUNIE

2020.03.16

ポスト2020年の人材戦略

人不足と人余りの同時進行にどう立ち向かうのか

喜島 忠典 

「2020年以降の世界が激変する」という仮説は経営の様々な分野に及んでいるが、組織と人材はその激震地の一つである。「従来型の人材戦略では、もう事業が立ち行かない」――。経営の現場からは、そんな悲鳴にも似た声が上がっている。競争環境の複雑化 → 求められる戦略の高度化 → 必要な人材の高度化といったサイクルが高速に回っている。その一方、現実に実行を担える人材の慢性的な不足と、「賞味期限」が切れて配属先に困る人材の増加。組織内の人材の需給ギャップが歪むことによる、従来型の人材戦略の機能不全。斬新な事業コンセプトでも、すぐに陳腐化してしまう環境下において、組織・人材マネジメントの巧拙が企業の競争力の源泉になる。

※当コンテンツは、雑誌Wedge 2019年3月号掲載のPR記事を再構成したものです。

加速するスキルの陳腐化により中間層が“不良在庫化”する

企業が人材不足に喘ぐ中、国の労働政策は大転換期に差し掛かっている。国のこれまでの社会保障政策の失敗を企業に肩代わりさせている側面も見え隠れするが、「同一労働・同一賃金」や「シニア活用の促進」などは、事実、企業経営にとてつもないインパクトを与える話だ。誰もが長く働き続けられるのは個人にとっては良い話かもしれないが、企業にとってはメリットばかりではない。もちろん人件費負担の増加も頭が痛い問題なのだが、もっと難しいのは高齢者が働く場所を作り出すことにある。

典型的な日本企業の姿としては、50代に差し掛かると徐々に「引退モード」を強いられ、本人も徐々にそのような態度を決め込んでいくことが多い。しかし65歳、70歳まで働くとなれば、50歳から15年、20年働き続けなければならない。そして、企業はその人材を不良在庫化させずに、活用し続けなければいけない。しかし、往々にして彼らのスキルセットは時代遅れとなっており、働ける場自体が限られている。そのため、企業は「仕事のために人を活用する」のではなく、「人のために仕事をつくる」努力を強いられている。

実は、これはシルバー人材だけの話ではない。目まぐるしい環境変化により事業戦略が複雑化する現在、スキルの陳腐化は急速に進み、人材の賞味期限が短期化する傾向が強まっている。今後は、ITの最先端分野では3~5年、それ以外の分野でも10~15年程度でスキルは陳腐化すると言われている。つまり新卒で入社した人材も、意図的に鍛え続けないと30~40代で“不良在庫化”が始まるということだ。

日本企業の美徳として「雇用を守る」ことを標榜する企業は多く、それ自体は素晴らしいことだ。しかし、そのために必要な投資は、これまでとは比較にならないほど高くなる。即ち、持続的な人材開発、現有人材の最適配置の追求、多様な人材を柔軟に活用する枠組みの構築など、これまでの人材マネジメントでは見て見ぬふりをしてきた課題がリスクとして現出する。2~3年の短期スパンではハンドルできない世界に、日本企業は既に足を踏み入れているのだ。

もちろん、日本企業が直面している課題は人余りだけではないことは周知のとおりだ。事業の鍵を握るようなキーパーソンと、工場のラインやサービス業のオペレーションを担う人材不足の深刻さも止まらない。DX(デジタルトランスフォーメーション)関連の人材は、考えられないほどに高い報酬を積み上げても獲得できない状態だ。

これは、世界が多様性にあふれ、事業戦略やモデルの斬新さで争っているように見えながら、その優位性が持続しないことから原因が考えられる。結局のところ、似たような戦略、アプローチ、プラットフォームに勝ち筋が収斂しがちなのである。そうなれば、自然と求める人材のスキル、コンピテンシー、経験等のタイプも収斂し、人材市場の逼迫が生じるのも必然だ。そしてこの傾向は、大幅な景気の悪化でもない限り当分続くだろう。また、サービス従事者や技術者などの顧客接点に近いところで業務を行う人材の逼迫が終わりそうにないことも深刻だ。こちらは、多くの場合、業界全体の人材のサプライチェーンが破綻していることが理由だ。破綻箇所として顕著な例は、いわゆる専門学校などから、安価で若い労働力が安定的に供給されることを前提に経営している業界などであり、危機的な人材不足に陥っているケースも少なくない。若い人材の志向も雇用マーケットも大きく変化しているのだ。

企業の中では人材の人余りと人不足が同時進行で起き始めているといえる。長期雇用を宣言しても、そこにある真のリスクを理解している企業は少ない。若い世代を不良在庫化させず、同時に増加するシニア世代を十分活用できる基盤の構築に取り組まなければ、組織は簡単に足元から崩れていく。

 

競争力の源泉となるキーパーソンには“健全なエコひいき”も必要

では、ポスト2020を勝ち抜くための人材戦略のポイントは何か。人材戦略というと、人事制度や教育研修に目が行きがちだが、大事なのは、事業を成長軌道に乗せるために必要な人材の需給ギャップを明確にし、それを埋めるための戦略をデザインすることだ。

課題はさまざまあるだろうが、まず推奨しているのは、”健全なエコひいき”である。従来の人事は公平・公正を重視することに、ともすると寄りがちな部分があった。しかし、そのような平等主義人事のスピード感では間に合わない時代になっている。優秀人材への集中投資と徹底活用で、その力を最大化しなくては組織が勝ち残ることは難しい。日本企業は優秀人材がいないのではなく、優秀な人材を効率的に育成・活用する力が不十分なのだ。

さまざまな組織から、人材レベルのアセスメントの依頼を受けることがしばしばある。しかし経営層が思うほど、人材は枯渇しているようには感じない。正確に言えば、優秀な人材はどの企業にも一定数存在する。しかし、思考力、行動力、各種スキルなど諸々が磨かれていない状態だ。優秀であっても単調な業務を繰り返して20代から30代前半を過ごさせてしまったら、本人の持っているリソースは開花しない。日本企業が好む「現場を知る」ことの重要性を否定する気はない。しかし、何をどこまで知ればいいかの意図も目標もない中で、現場に押し込めているのでは、”金をドブに捨てている”のと同じである。結局、そのような選択の根本にも公平・公正意識がある。「若いから」「外部から来たから」「自社のことを良く知らないから」などのよくある発言も同根であり、結果として構造的に人材難を生み出している。まさしく自縄自縛である。そのような状況で、健全なエコひいきは組織を変える特効薬になりうる。

また最適配置による現有人材の活用も外せないテーマだ。これからの人材不況期に、自社にいない人材は採用すればよいと考えても、そこにあまりリアリティはなく、理想の人材には出会えないと思った方が賢明である。それぞれの人材に何をさせるべきなのか、そしてどのようなチームをつくると良いのか、各人の力を引き出すために必要なマネジメントの在り方とはどういったものなのか。重要なのは、このような組織としての人材活用スキルやノウハウを磨き込むことである。人材マネジメントの力点は、人材採用から人材活用へと既に移り変わっている。それをできる組織だけが、この転換期を勝ち抜くことができるだろう。

 

組織における人材マネジメント機能を再構築する

ポスト2020年の人材戦略に求められる変化に関して、主に人材の需給面から考察した。QUNIEのヒューマンキャピタルマネジメント担当の調査では、今後、人材マネジメントに関するこれまでの思考のフレームワークから、各種施策の実行方法まで幅広く変更していく必要があることが明らかになっている。その際の最重要論点になるのは、結局は人事部の機能改革である。従来型の人事機能を見直し、今後の新しい環境変化に対応できるようにすることが必要だ。ただ、これは人事部というひとつの組織の問題にとどまらない。経営と人事と現場のセンターラインの在り方を改めて考え直し、これからの環境に即応できるようにすることが必要だ。

喜島 忠典

ヒューマンキャピタルマネジメント担当

マネージングディレクター

大手コンサルティングファーム、商社の事業企画、人材サービス企業などを経て現職。「企業の戦略実行力強化」をテーマに、数多くの組織・人事改革のプロジェクトに従事。変革期における組織・人材戦略のデザイン、各種人材マネジメントの仕組設計、およびチェンジマネジメントなどを多数手掛けている。

  • facebook

ページ先頭へ戻る

CLOSE