2025.06.25
デジタル技術が牽引するカーボンニュートラル
第7次エネルギー基本計画から読み解く、企業に求められる対応
中川 日菜子 御手洗 佑美

2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、2040年度に向けた日本のエネルギー政策の新たな指針を示した。具体的にはAIやデータセンターの普及に伴う電力需要の増加を見据え、2040年度の電源構成を再検討した。結果、再生可能エネルギー(再エネ)を全体の40~50%へ拡大することを目標とし、その実現にはデジタル技術の活用が不可欠と位置付けている。GX(グリーントランスフォーメーション)を目指す企業にとって、デジタル技術を活用したソリューションの戦略的活用は、政策対応とGX推進の両立の実現につながる。
本稿では第7次エネルギー基本計画におけるデジタル技術の位置付けと、企業が直面するGX推進の課題解決に向けた実践的なアプローチを解説する。
1. 第7次エネルギー基本計画の概要とデジタル技術の位置付け
エネルギー基本計画は、2003年に制定されたエネルギー政策基本法に基づき、日本のエネルギー政策の基本的方向性を示す重要な政策文書である。約3〜4年ごとに見直されており、「S+3E」の原則*を基本に置いている。
*第7次エネルギー基本計画における「S+3E」
・安全性(Safety):すべてのエネルギー源において最優先事項。原子力をはじめ全エネルギー源において、「いかなる事情よりも安全性を最優先」に徹し、国民の不安解消に全力を注ぐ
・安定供給(Energy Security):輸入依存度の高い日本のエネルギー自給率(2022年度時点;約12.6%)向上を目指し、省エネ・エネルギー調達元の多様化・電源分散化を推進する
・経済効率性(Economic Efficiency):国際競争力を維持するため、製造業など多消費産業に対して「国際的に遜色ないエネルギー価格」の実現を重視する
・環境適合性(Environment):エネルギー由来のCO2がGHG排出の8割以上を占める現状を踏まえ、2040年度73%削減(2013年度比)という野心的目標を掲げ、世界の1.5℃(気温上昇抑制)目標と整合させて脱炭素化を進める
第7次エネルギー基本計画では、ロシアのウクライナ侵攻などの国際情勢の変化が反映され、以下の点で第6次エネルギー基本計画(2021年)から大きな転換が示唆されている。
■第6次エネルギー基本計画と比較した第7次エネルギー基本計画の主要変更点
- 再エネ比率の引き上げ:2040年度に電源構成の40〜50%を再エネに
- 原子力政策について、「依存度低減」から「約2割程度の維持・活用」へ方針変更
- 地政学リスクを踏まえたエネルギー安全保障の強化、資源確保戦略の見直し
- GXにおける脱炭素と経済成長の両立を重視
上記変更点のうち、企業にとって課題またはビジネスチャンスとして大きく影響する点が、再エネ比率を大幅に引き上げた電源構成目標である。この目標は、国際的な脱炭素化の流れに沿った上で、日本のエネルギー自給率向上という安全保障上の課題への対応も示唆している。具体的には、本計画では2040年度の電源構成において、再エネを現状の約22%(2022年度)から40〜50%へと倍増させる野心的な目標が設定されており、特に太陽光の構成割合が最も高い見通しとなっている(表 1)。
表1:2040年度エネルギー需給の見通しにおける再エネの内訳

経済産業省「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」[1]を基にクニエ作成
また、原子力発電の比重を約20%にまで増やし、火力発電は水素・アンモニア等の新技術による脱炭素化を進めつつ、3〜4割程度まで低減することが示されている(図 1)。

図1:日本国内における発電電力量の見通し
経済産業省 資源エネルギー庁「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」[1]を基にクニエ作成
今後の課題として、再エネの大量導入に伴う需給調整や系統整備、蓄電池・スマートグリッドの活用など技術革新を進めながら、エネルギーの安定供給と脱炭素化の両立が求められている。
第7次エネルギー基本計画におけるデジタル技術の位置付け
企業のDXとGXが同時に進展する中で、日本のエネルギー需給構造は大きな転換点を迎えている。第7次エネルギー基本計画では、この二つの変革が電力需要に与える影響が示される。
近年、生成AIの普及やデータセンター・半導体工場の増設を背景にして電力需要は増加傾向に転じている。従来の省エネ対策だけでは対応しきれない、構造的な需要増加が見込まれていると考えられる。特に、生成AI技術の進化によって膨大なデータ処理が求められるようになったことは、電力消費を押し上げる要因となっている。
国際エネルギー機関(IEA)の『World Energy Outlook 2024』によれば、世界の電力需要は2023年から2035年にかけて年率約3%で増加すると予測されている。この増加の主要因の一つとして、データセンター需要の拡大が挙げられている[2]。同書によれば、2024年から2030年にかけての部門別電力使用量増加要因として、データセンターは第5位になると予測されている。これは前期間(2014-2024年)の第7位から大きく順位を上げており、AI技術の普及等のデジタル技術の急速な成長を反映している(表2)。
表2:IEAのシナリオにおける部門ごとの電力使用量の増加

IEA「Energy and AI」[3]を基にクニエ作成
日本国内においても人口減少や従来型の省エネ効果が続く一方で、経済成長や国内データセンター・半導体工場の新増設に伴い、2024年度以降は電力需要が増加に転じて、2034年度まで増加傾向が続くと見込まれている(図2)。

図2:日本国内の電力需要量(想定)
※現時点でのデータセンター・半導体工場の申し込み状況をもとに想定した結果、2031年度を境に伸びが減少しているが、将来の新増設申し込みの動向により変わる可能性がある。
OCCTO(電力広域的運営推進機関)「全国及び供給区域ごとの需要想定(2025年度)」[4]を基にクニエ作成
一方で、デジタル技術を活用した電力使用を抑えるための効率化も着実に進んでいることを踏まえると、DXとGXの推進における二面性として、「電力需要を増加させる側面」と「効率化によって電力需要を削減する側面」が見えてくる。今後の電力需要を見通すには、こうした相反する動きを丁寧に見極める必要がある。
2. 企業のためのデジタル×GX推進戦略
企業がGXを実現するための道のりには、エネルギーシステム、サプライチェーン、資源管理、財務戦略など多岐にわたる課題が存在し、その対応が必要となる。
以下に企業が直面するGXに向けた主な課題を示す。
GHG排出量の削減
まず挙げられる課題はGHG排出量の削減である。日本政府が掲げる2050年カーボンニュートラル実現に向けては、企業のScope1(自社の直接排出)だけでなく、Scope2(エネルギー使用に伴う間接排出)、Scope3(サプライチェーン全体からの排出)に至るまで、包括的な削減が要求される。
特に、鉄鋼、化学、セメント、紙・パルプといったCO2多排出産業に関しては抜本的な製造プロセス転換が不可欠とされている。例えば、鉄鋼業では高炉から電炉への転換や水素還元製鉄技術の導入、化学産業では燃料・原料転換、セメント産業では燃料転換に加えCO2回収・利用(CCUS)技術の導入、紙・パルプ産業では燃料転換とバイオマスを原料として燃料、化学品、プラスチックなどを製造するバイオリファイナリー産業への事業展開などが具体的な課題として挙げられる。
加えて、排出量を正確に測定・報告・検証(MRV)する体制の構築も重要な課題となる。特にScope 3排出量は算定が複雑であり、サプライチェーン全体でのデータ収集・連携が不可欠だ。経済産業省はこの課題への対応策の一つとして「GXリーグ」を設置し、参加企業による排出量データの収集・開示や将来の排出量取引制度の基盤整備を進めている。
エネルギー転換
エネルギー分野における課題は、エネルギー消費量の削減・効率化(省エネ)とエネルギー供給源の脱炭素化(再エネ導入)で構成される。
省エネの推進は、企業にとってまず取り組むべき基本的な課題である。具体的には産業プロセスのエネルギー効率改善策として、エネルギー管理システム(EMS)の導入や省エネ設備への更新、運転管理の最適化などが挙げられる。これらの取り組みは、エネルギーコスト削減や生産性向上といった企業利益にも直結するため、企業として積極的に取り組む場合が多い。
一方、再エネの導入には多様な調達方法の確保とコスト・経済合理性の課題が存在する。脱炭素社会の早期実現に取り組む企業グループである日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)グローバルは、“安価・安定的な再エネ調達は企業にとって「死活問題」”と明言している[5]。昨今、サプライチェーン全体で脱炭素化要請が高まりを見せる中、企業の競争力維持のためにも再エネ電源の確保は一刻を争う状況であり、各国で再エネ導入量の拡大が進んでいる。一方、日本の再エネ導入量は伸び悩んでおり(図 3)、このままでは企業の再エネ調達が困難な局面を迎え脱炭素要請に対応できなくなることで、競争力喪失が懸念される。

図3:諸外国の再エネ導入容量(GW)
IRENA「Renewable capacity statistics2040」[6]よりクニエ作成
また再エネ導入の重要な課題として、DXの進展を支えるデータセンターの増加による新たな電力需要が挙げられる。この増加する需要をいかにグリーンな電力で賄うかが、DXとGXを両立させる上での鍵となる。
資源循環とサーキュラーエコノミーへの移行
従来の「採取・製造・廃棄」という直線的な経済モデルから「サーキュラーエコノミー」への移行も、GXの重要な柱である。サーキュラーエコノミーは資源の有効活用だけでなく、廃棄物処理に伴うGHG排出量削減にも寄与する。
具体的な取り組みとしては、プラスチック資源循環の促進、バイオマス資源の活用、使用済み太陽光パネルのリサイクル体制構築、地域における資源循環モデルの構築、製品寿命の延長やシェアリングエコノミーの推進などが挙げられる。政府は「プラスチック資源循環促進法」などの法整備や先進的なリサイクル設備導入への補助を通じて、企業の取り組みを支援している。
投資資金の確保とコスト管理
上記に挙げたGXへ向けた課題の解決には、革新的な技術開発、大規模な設備投資、プロセスの変更などに伴う莫大な資金が必要となる。また同時に、DX推進に伴うITインフラの刷新やデジタル技術導入にもコストがかかる。企業はこれらの資金負担と移行期間中における競争力の維持といった課題に直面することになる。特に初期段階では脱炭素技術のコストが高いため、投資回収の見通しが立てにくい。
コストの課題に対して政府は、2兆円規模の「グリーンイノベーション基金」による研究開発・社会実装支援や各種補助金(再エネ・省エネ設備導入、断熱改修等)、税制優遇措置、GX経済移行債を活用した先行投資支援など、多様な資金面での支援策を講じている。また、企業の投資インセンティブを高めることを目的に公共調達などを通じたグリーン市場の創出も行っている。
デジタル技術を活用したGX推進事例
複雑に絡み合うGXの課題に光をもたらすのが、革新的なデジタル技術である。測定・可視化、最適化、新たなビジネスモデルの創出まで、デジタル技術は単なるツールではなくGX実現の架け橋として企業変革を支えている。例えば、IoTとAIを活用した高度なエネルギー需要予測やサプライチェーン全体のGHG排出量算定・管理を実現するためのデジタルプラットフォーム、ロボティクスによる効率的な物理オペレーション、デジタルツインによる効果的な生産プロセス改善や省エネ設備への更新などさまざまなことが考えられる。GX課題解消に向けた、各デジタル技術の活用例を表 3に示した。
AIを活用した代表的な事例として、白井グループによる「GHG排出量の削減」に関する取り組みを紹介しよう。
廃棄物の収集・運搬を行う白井グループは、約3,000の事業者の廃棄物回収を担うことから、収集車の運行効率の最大化が課題となっていた。そこでAI配車シミュレーションシステムを自社開発し運用を開始した。本システムはごみの種類や回収時間・曜日、車両当たりの積載量、作業の所要時間など廃棄物収集に関する基礎情報を基にAIが最適な収集コースを算出し、巡回コースの最適化を行うものだ。本システムにより、東京都内を走行する約5,000台の収集車両のうち約15%を削減、それに伴い年間約9,000トンのCO2削減効果が期待されている(表3)。
表3:企業のGX課題解消に向けたデジタル技術の活用例

各種資料[7][8][9][10][11]よりクニエ作成
3. デジタル×GXの今後:企業がとるべき3つの戦略的アプローチ
GXへの取り組みは、もはや企業の社会的責任という側面に留まらない。将来導入されるカーボンプライシングなどの規制への対応、投資家や消費者からの要求、そしてグリーン市場における新たな成長機会の獲得といった観点から、GXは企業の競争力と持続可能性を左右する経営戦略そのものである。
この文脈において、デジタル技術をGX戦略に積極的に統合することは、企業にとって選択肢ではなく戦略的な必須事項となっている。デジタル技術を活用することで、企業は環境パフォーマンスの向上と業務効率化や新たな価値創造といった事業上のメリットを同時に追求することが可能となる。これを実現するためには、単に技術を導入するだけでなく、社内のデジタルリテラシー向上、データ分析能力の強化、そして必要に応じて外部の技術パートナーとの連携が求められる。
今後の日本企業のGX推進においては、以下の3点が重要となる。
データ基盤への優先投資
企業が効果的なGX戦略を策定するにあたって、まず着手するのが環境負荷の可視化である。IoTインフラやデータプラットフォーム、分析ツール等のデータ基盤への投資により、企業は環境負荷を正確かつ詳細に把握できるようになる。単なる全社レベルのデータではなく、事業部門、製品ライン、サプライチェーン全体まで細分化されたデータを用いることで、GXに向けた投資判断や戦略の立案に関する意思決定の高度化に寄与する。
例えば、多くの企業にとって全体の環境負荷の大部分を占めているScope3排出量を把握・評価する際に、サプライヤーのESGデータを統合・分析できる高度なデータ基盤を利用すれば、リスクの高いサプライヤーの特定やサプライチェーン全体での環境負荷低減戦略の策定が可能となる。また、製品のライフサイクル全体での環境影響を分析することで、設計段階から環境配慮した製品開発の推進が期待できる。
統合的GX-DX戦略の策定
環境目標達成と事業価値向上の両立を目指し、DX戦略とGX戦略を個別に進めるのではなく、初期段階から統合的に計画・実行することが重要である。この統合において鍵となるのは、「部門横断型のガバナンス体制」と「共通KPIの設定」である。先進企業はサステナビリティ部門とデジタル部門が共同で中期経営計画に関与し、経営トップが両部門のKPIを統合的に評価する仕組みを導入している。例えば、DX投資の評価指標にGHG削減効果を含め、逆にGX投資にはデジタル活用度や業務効率化指標を組み込むなど、両者を相互補完的に捉える視点が重要となるだろう。
政府支援策の戦略的活用
DXおよびGXに向けては大規模な投資が伴う。グリーンイノベーション基金、各種補助金、GXリーグへの参画など、政府が提供する多様な支援策を戦略的に活用することが、投資負担の軽減と取り組みの加速につながる。支援策を活用する際は、自社の長期戦略との整合性が重要だ。例えば5年計画で段階的なGX実現を目指す企業が、初年度に最終段階の取り組みに対する支援に申請しても効果は薄い。まずは自社のDX/GX戦略のうち優先課題と時間軸を明確化にし、それに合った支援策を選ぶことがポイントとなる。
また見落としがちなのが支援終了後の事業継続性である。補助金頼みのプロジェクト設計では、支援終了後間もなくで頓挫する危険をはらむ。将来の市場競争力や収益性を見据えたプロジェクト設計することが、企業価値を高めるDX/GX投資の本質的要件である。
4. おわりに
日本が目指すカーボンニュートラルと持続的な経済成長の両立は、DXとGXの効果的な融合にかかっている。企業がデジタル技術を駆使してGXの課題に対し果敢に挑戦することが、日本の未来の経済的強靭性と地球規模でのグリーン移行におけるリーダーシップを確立するための鍵となるだろう。
関連サービス
クニエGXソリューション
https://www.qunie.com/gx_solution/
-
[1]
経済産業省(2025), “2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)”,
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20250218_03.pdf(参照2025年4月30日) - [2] IEA(2024), “World Energy Outlook 2024”, https://www.iea.org/reports/world-energy-outlook-2024(参照2025年4月30日)
- [3] IEA(2025), “Energy and AI”, https://www.iea.org/reports/energy-and-ai(参照2025年4月30日)
- [4] 電力広域的運営推進機関(2025), “全国及び供給区域ごとの需要想定(2025年度)”, https://www.occto.or.jp/juyousoutei/2024/files/250122_juyousoutei.pdf(参照2025年4月30日)
- [5] 日本気候リーダーズ・パートナーシップ(2024), “需要企業からみた再エネ調達の課題と求める施策”, https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/068_03_00.pdf(参照2025年5月1日)
- [6] IRENA(2024), “Renewable capacity statistics 2024”, https://www.irena.org/Publications/2024/Mar/Renewable-capacity-statistics-2024(参考2025年5月1日)
- [7] 環境省(2021), “産業廃棄物処理におけるAI・IoT等の導入事例集”, https://www.env.go.jp/content/900535534.pdf(参照2025年5月1日)
- [8] 経済産業省(2024), “更なる省エネ・非化石転換・DRの促進 に向けた政策について”, https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/045_04_00.pdf(参照2025年5月1日)
- [9] NEDO(2022), “地熱発電所のトラブル発生率を20%以上抑制した予兆診断システムを完成―ビッグデータ解析技術を活用したシステムで実用化に成功―”, https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101561.html(参照2025年5月1日)
- [10] 環境省(2025), “サプライヤーエンゲージメント事例集 バリューチェーン全体の脱炭素化に向けての「要請」と「支援」の事例”, https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/guide/supplier_engagement.pdf(参照2025年5月1日)
- [11] NEDO(2024), “グリーンイノベーション基金事業、「次世代デジタルインフラの構築」で新たなテーマに着手―IoTセンシングプラットフォームの構築で消費電力40%削減を目指す―”, https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101713.html(参照2025年5月1日)
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