2025.07.23

産業データ連携がもたらす未来

(2)企業価値向上

渡邉康平 

本連載では、データ連携の意義・目的をはじめ、現在取り組みが進むデータ連携の具体的なユースケースや推進方法、未来展望などを解説します。
※本記事は、日刊工業新聞の週次連載「産業データ連携がもたらす未来」の第2回(2025年4月22日)の内容を転載しています。

品質・コスト・供給力を最適化

グローバル規模での環境・人権保護の機運の高まりや経済安全保障など、社会が一丸となって取り組むべき課題が着目される中、欧州をはじめとしてそれらの推進を法令・規則などで強力に推進する傾向がみられる。代表的なものに「欧州電池規則」や「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」などが挙げられる。これらの規則では製造時の情報開示から、製品の使用時、廃棄時の情報開示へと段階的に拡大していく方針が示されている。

まずは上市される製品・サービスを起点として、サプライチェーン(供給網)全体で発生した環境負荷などの情報を積み上げて開示することなどが求められる。日本の製造業においても、これらの規制対応として、サプライチェーン全体でデータを連携する動きが始まっており、川下企業(自社製品の販売先)から、情報提供を求められるケースも増えているのではないだろうか。

こうした流れは今後の規制強化・拡大に伴い、さらに広がっていくと推測される。データ連携への対応力は品質・コスト・供給力と並ぶ調達先評価の一つの軸として今後重視され、対応できなければサプライチェーンから排斥されてしまうリスクもあると考えられる。

一方、調達環境や販売市場が急激に変化する中で、固定的な取引関係だけでは事業継続性の確保が難しくなるケースや、製品特性の変化に伴い、新規取引先の開拓が必要になるケースなどが増え、サプライチェーンの流動性が高まってきている。データ連携への対応力は、新たな取引関係を構築する上での競争力にもつながる。

加えて、データを受領する立場で考えると、入手したデータを利活用することで、製造にかかわる品質・コスト・供給力を最適化できる。また、流通するデータはサプライチェーン上のデータにとどまらず、上市後の製品の利用・稼働状況などのデータにまで広がっていくと考えられ、データを活用した新たな製品価値やサービス創出の後押しとなる。

データ連携は単なる規制対応ではなく、企業価値向上につながる活動と捉えて取り組んでいく必要がある。こうしたデータ連携の効用は、各国で産学官一体となった検討が進んでおり、これを実現する場としてのデータスペースも一部運用が始まっている。次回は製造業が生き残るために留意すべき二つの課題について解説する。

 

渡邉康平

重工・造船、機械・装置産業担当

ディレクター

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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