2025.07.30
産業データ連携がもたらす未来
(3)生き残りへ課題解決
鶴見 泰輔

本連載では、データ連携の意義・目的をはじめ、現在取り組みが進むデータ連携の具体的なユースケースや推進方法、未来展望などを解説します。
※本記事は、日刊工業新聞の週次連載「産業データ連携がもたらす未来」の第3回(2025年4月29日)の内容を転載しています。
前回、データ連携は規制対応のみならず、企業価値向上につながると述べた。今回は、製造業を取り巻く課題の解決にデータ連携がどう寄与するかを説明していきたい。
現在の製造業では、環境への配慮で求められる水準が高まっている。加えて製品のコモディティー化が進む中でも付加価値を提供するため、多様なニーズへの対応が求められる。この状況下で製造業の企業が生き残るためには①環境負荷を最小限に抑えて低コストで製造する②ユーザーが高い価値を感じる製品を企画・販売するという二つの課題を継続的にクリアしていかなければならない。
まず①について、製造コストを低く抑えることが企業の利益確保のために重要なのは言うまでもないが、今後は温室効果ガス(GHG)排出量以外の環境負荷も炭素税のような形で製造時のコストに上乗せされていくと予想されるため、環境負荷の低減も併せて考える必要がある。例えば、物流や電力消費を最適化し、コストと環境負荷を低減する取り組みが重要となるが、自社と直接の取引先の範囲での個別最適でなく、サプライチェーン(供給網)全体や業界横断など広範な最適化を図るべく、多くの企業間で需給やリソースのデータを連携することが必要不可欠である。
②の消費者に製品の価値を伝える上でも、サプライチェーン上の企業間でのデータ連携の重要性が増している。従来の品質の観点に加え、環境保護や資源循環、人権といったサステナビリティー(持続可能性)の観点では、原料までさかのぼってデータを収集し、製品にひも付けてファクトとして開示することが求められる。また、消費者が売価以上の価値を実感できるよう、消費者のニーズを把握し、タイムリーかつ継続的に満たしていくことが必要となる。
例えば、自動車は運転データを基にユーザーのブレーキや加減速、車間距離の取り方などの傾向を学習し、自動運転モデルに反映させるといった、製品を個人に合わせてパーソナライズして価値を高めることが行われている。今後は、消費者に関するデータを自社の製品にとどまらず他社の製品などとも連携しながら取得し、製品のパーソナライズ、アップデートに活用する、もしくは次の企画に生かすといった営みを続け、製品の価値を継続的に高めていくことが重要となる。
次回は、企業間データ連携によって、モノづくりにどのような変革がもたらされるかについて掘り下げていく。

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