2025.08.18

産業データ連携がもたらす未来

(4)供給網の流動性向上

渡邉 康平 

本連載では、データ連携の意義・目的をはじめ、現在取り組みが進むデータ連携の具体的なユースケースや推進方法、未来展望などを解説します。
※本記事は、日刊工業新聞の週次連載「産業データ連携がもたらす未来」の第4回(2025年5月13日)の内容を転載しています

地政学リスク対応を強化

製造業における企業間データ連携の加速は、モノづくりにどのような変革をもたらすのだろうか。前回記事でも触れた通り、データ連携による企業価値の向上には製造プロセスの最適化と、顧客価値向上の二つの側面がある。
 
これまでも製造業各社は製品とサービスのQCD(品質・コスト・供給力)を最大化するためにサプライチェーン(供給網)を構築し、QCDのさらなる向上に向けて取り組みを進めてきた。既に需給調整データの企業間連携などは進んでいるが、サイバーフィジカルシステムが普及する中、シミュレーションデータや素材、組成情報など連携されるデータはさらなる広がりを見せている。

これまで秘匿性の高い情報の連携は、既存のサプライチェーン内に閉じていたが、チェーン外のプレーヤーとの連携へと拡大できるよう、データ連携技術も進化している。これによりサプライチェーンの流動性を上げることができるようになり、キャパシティー制約の解消や、製品構成の変化に迅速に対応することも可能になる。
 
一方で、これまでサプライチェーンを流動的にするとトレーサビリティー(履歴管理)の確保が難しかったが、企業間データ連携の加速はこれも解決できる。今後は製品の環境負荷やサプライチェーンのクリーンさのトレーサビリティーも重要となり、これらを明示できることは、エシカル(倫理的)な消費行動を望むユーザーの付加価値の向上にもつながる。
 
また製品のIoT(モノのインターネット)化により、上市時の静的な情報だけでなく、上市後の利用、流通の過程で発生する動的なデータを連携することで、上市後の継続的な製品進化が見られていることは前回の記事でも触れた通りだ。さらに製品が利用されるシーンや、利用方法などの情報を連携してユーザーごとにパーソナライズされたサービス提供へと展開していくことで、モノ売りからコト売りへのビジネス転換も可能になる。
 
昨今話題となっている米トランプ関税などの地政学リスクによるサプライチェーン混乱に対応するためにも、データ連携を推進してサプライチェーンの柔軟性を高め、モノの流れに影響を受けにくいサービスへシフトしていくことは強い製造業の実現に向けて欠かせない取り組みとなるだろう。
 

渡邉 康平

重工・造船、機械・装置産業担当

ディレクター

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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