2025.09.03
産業データ連携がもたらす未来
(6)サプライヤーと協働
鈴木 裕一郎

本連載ではデータ連携の意義・目的をはじめ、現在取り組みが進むデータ連携の具体的なユースケースや推進方法、未来展望などを解説します。
※本記事は、日刊工業新聞の週次連載「産業データ連携がもたらす未来」の第6回(2025年5月27日)の内容を転載しています。
納期・品質で信頼関係築く
今回はデータ連携の主要な対象となるサプライヤーとの協働を深めるユースケースを紹介する。近年、環境や人権配慮、地政学リスクへの備えなどに加え、顧客ニーズ多様化に伴うカスタマイゼーションやパーソナライゼーションが求められており、納期や品質を確実に守るためにはサプライヤーとの関係をデータでつなぐことが不可欠だ。これは、電子データ交換(EDI)のような調達の効率化にとどまらず、企業の競争力や持続可能性、サプライチェーン(供給網)全体のレジリエンス(復元力)といった観点でも極めて重要な意味を持つ。
サプライヤーとの連携に関するユースケースとして「生産需給調整」や「リアルタイム品質管理」「設計や試作段階でのデジタルツイン」がある。生産需給調整は各社が生産計画や在庫・出荷予定といった情報を共有し合うことで、部品の過不足を抑え、全体最適な供給バランスの維持を目指すものだ。リアルタイム品質管理は製品ごとの検査結果や納入時の状態、遅延リスクなどの情報をリアルタイムにやりとりすることで、不具合の早期是正や対応判断の迅速化を図る。設計や試作段階でのデジタルツインは設計データや要求仕様、シミュレーション結果などをデジタル空間上で共有し、開発期間の短縮や調整の効率化につなげるものである。
さらに今後は企業エコシステム構築の観点から、要求仕様を一定範囲で公開し、サプライヤーが自発的に応札する「オークション形式での調達」や、リアルタイムの需給状況に応じて価格が変動する「ダイナミックプライシング」の導入といったユースケースの可能性も考えられる。バイヤー側の効率化だけでなく、サプライヤー側の柔軟性や即応性が販売機会を高めるチャンスになる。
一部のユースケースは、欧州発の製造業向けのデータ連携の取り組みである「マニュファクチャリングX」で実現に向けた検討が進められている。こうした変化はバイヤー側だけでなく、サプライヤー側にとっても大きな影響を与える。今後は納期順守や品質安定性、環境負荷などの評価項目に関して、客観的なデータをいかに正確かつ継続的に提示できるか、すなわちデータでつながること自体が取引先としての信頼や選定の価値基準となるだろう。
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