2020.11.20

今、ローコード・ノーコード開発を推進すべきその理由

時代の変化に追随するスピード開発の実現

坂本 毅 

ローコード開発・ノーコード開発(以下、ローコード開発)が注目を集めている。IT関連のメディアのみならず、一般的なメディアでも取り上げられることが増えてきており、まさにローコード開発花盛りである。
ローコード開発とは、最低限のソースコードを書くだけで、あるいは全くコードを書かずにシステムを開発する手法のことである。ローコード開発ツールまたはプラットフォーム(以下、ローコード開発ツール)にシステムの設計情報を定義すると、ツールは設計情報に基づいてプログラムを生成する、あるいは、設計情報に基づいてシステムを実行環境でそのまま動作させるので、ソースコードを生成する工数を限りなく少なく、またはゼロにすることができる。

ローコード開発のメリット

ローコード開発により、一般的には以下のようなメリットを得られると考えられる。

1.システム開発に要する工数を削減できる
ローコード開発により、ソースコードを生成する工数を削減できる。その分、システム開発に要する工数を削減できる。

2.システム開発の期間を短縮できる
ローコード開発ツールがソースコードを生成するため、人間のソースコード生成時間に比べて短時間でソースコードを生成する。これにより、システム開発期間を短縮し、早くユーザーへシステムを提供することができる。

3.品質の高いシステムを開発できる
ローコード開発ツールがソースコードを生成するため、人間がソースコードを生成するより遥かにプログラミングミスを抑制できる。これにより、バグの少ないシステムを開発でき、障害が起きにくい品質の高いシステムを開発できる。

4.ユーザー満足度の高いシステムを開発できる
システムを短期間で、かつ障害の少ない高品質なシステムをユーザーへ提供できるため、ユーザーの満足度は高くなる。ユーザーがシステム投資を負担する場合、システム開発に要する工数を削減することで想定より少ない金額でシステムが開発されるため、投資額の抑制もユーザー満足度を高める要因となる。

「今」ローコード開発に注目が集まっている背景

ところで、なぜ「今」これほどローコード開発に注目が集まっているのだろうか。その背景を、需要と供給の観点から考察してみる。

需要の観点

ITを活用したい領域の拡大
企業がITを活用する領域は、急速に拡大している。企業の基幹業務を支えるシステムや顧客と接点を持つWebシステムだけではなく、従来はExcelで行っていた、蓄積したデータを分析して示唆を導き出すデータ系システム、紙と印鑑で進めていた承認プロセスを電子ワークフロー化するシステムなど、スプレッドシートやアナログで進めていた業務は全てITで実現する対象となった。
加えて、新型コロナウイルス感染症対策の給付金支給システムのように“目的を果たせばなくなる業務”にも、ITを活用することが不可欠となった。ITを活用する領域は急速に拡大しており、そのため、より効率的にシステムを開発できるローコード開発のような新しい手法が求められるようになった。

システムの開発者の拡大
今までは、システム開発はIT部門が担当し、IT部門から委託を受けたIT企業がシステムを直接開発することが大多数であった。しかし、ITを活用したい領域が拡大すると、IT部門およびIT企業で全てのシステム開発をカバーすることが難しくなってきた。人材面では、日本のIT需要は非常に旺盛であり、IT人材不足は非常に顕著となっている。業務面では、あらゆる業務がITを活用する対象となるため、IT部門またはIT企業だけで全ての業務プロセスを間違いなく理解し、システム化することは困難である。
そこで、エンジニアではなく、業務部門のシステム利用者自らシステムを開発する「シチズンデベロッパー」のように、従来のシステム開発スキルを持たずにシステムを開発する人々が現れるようになった。シチズンデベロッパーはソースコードを生成してシステムを作る手法を取らず、ローコード開発のような、より簡易で迅速な手法で、実現したいシステムを開発するようになった。

短納期でのスピード開発
現在は、急激かつ非連続に変化する時代である。iPhoneが登場してガラケーからスマートフォンへコミュニケーション手段が非連続に変化する、新型コロナウイルス感染症の影響によってテレワークが急激に普及するなど、取り巻く環境が目まぐるしく変わるのはごく当たり前となった。そのような状況下では、システム開発のスピードもより高速化が求められるようになり、新しいサービスをITによってすぐにリリースすることが要求される時代となった。そのためには、今までのシステム開発手法では限界があり、ローコード開発のようなシステム開発を高速化できる新しい手法に転換することが求められるようになった。

供給の観点

ローコード開発ツールの拡大
ローコードという言葉が定義されたのは、2014年と言われている。その頃と比べて、ローコード開発を実現するツールの種類は格段に増えている。現在では、全世界で数百社程のローコード開発ツールベンダーが存在するとも言われている。

ローコード開発ツールの領域の拡大
ローコード開発ツールが実現するシステムの領域も広がっている。企業活動を支える業務アプリケーション、消費者や市民に企業・団体・個人が情報を発信する外部向けWebサイト、商品の販売を実現するECサイト、システム同士やデータを繋ぐデータ・システム連携など、多様なシステムをローコード開発で実現できるようになった。
また、Salesforceに代表されるようなSaaS型のアプリケーションも、ローコード開発の概念に含まれると筆者は考える。なぜならば、ソースコードを生成することなく、CRM等のシステムを実現しているからである。

ローコード開発を行うIT企業の拡大
ローコード開発を行うIT企業も増加している。日本でローコード開発の普及活動を行っているローコード開発コミュニティによると、コミュニティのツールベンダー・SIerの正会員は37社に上る[1]。それ以外のIT企業でも、各社の公式サイトではローコード開発に関するサービス、ソリューション、ツールを紹介していることが多く、ローコード開発を行うIT企業が拡大していることがわかる。

ローコード開発を推進するためのハードル

ローコード開発が普及する需要・供給面の素地は、十分にできている。一方、日本で開発されるシステムのうち、ローコード開発で生み出されたシステムはどれぐらいあるだろうか。比率で言えば、まだまだ小さいのではないかと筆者は考える。ローコード開発の普及は緒についたばかりというのが現状ではないだろうか。
ローコード開発が進まなかった要因は、以下のようなものが挙げられる。

1.開発手法の変化に対する抵抗
ローコード開発を採用することは、今までのプログラマがソースコードを作成する手法から、ツールに設計情報を定義してソースコードを生成する手法に転換することを意味する。今まで慣れ親しんだ手法を捨てることには、一定の抵抗感があることが多いと考えられる。

2.開発スキルの空洞化に対する懸念
ソースコードをツールが自動生成することで、プログラマがソースコードを生成しなくなる。それにより、開発の現場では、プログラムの生成・解読スキルが失われ、翻ってシステム開発スキルが空洞化するという懸念を持っていたのではないだろうか。

3.総論賛成、各論反対
ローコード開発による開発工数削減効果やユーザー満足度の高いシステムを提供できることがわかったとき、その効果を認めて総論は賛成となる。一方、最初に自分が担当するシステムでローコード開発を行うとなると、開発手法の転換による見えないリスクを伴うため二の足を踏むというケースも少なくない。

4.具体的な適用方法が不明
ローコード開発を採用することは、今までの開発手法から転換することを意味する。具体的にどのようなシステム開発で適用すればよいか、どのようなステップでローコード開発を行えばよいか、未知の領域である。具体的な適用方法が不明なままローコード開発を検討するのは、大きな不安要素であったと推察される。

ローコード開発のハードルを乗り越えるための提言

筆者は、ローコード開発のハードルを乗り越えるために、以下のように提言したい。

1.変化しなければ、取り残される
上述した通り、現在は、急激かつ非連続に変化する時代であり、システム開発に求められるスピード感も、今までと比べて速くなっている。今までの開発手法でそのスピード感を達成するのは極めて困難である。ローコード開発を採用することでスピード開発を実現し、時代の変化に追随することが必要である。

2.ローコード開発スキルを身に着けて、IT人材としての市場価値を高める
システムを作ることが目的ではなく、システムで早くユーザーに価値を届けることを目的とすると、必要となるスキルも変わってくる。プログラミングスキルも保持しながら、より早くシステムを開発するスキルを習得することで、IT人材としての市場価値が高まると考える。すなわち、ローコード開発スキルの習得は、スキルの空洞化ではなくむしろシステム開発の能力を高めることとなる。

3.最初に挑戦したものがリーダーとなれる
ローコード開発は、システム開発の生産性の向上、システム品質の向上、ユーザー満足度の高いシステムの開発など、得られるメリットが大きい。それに最初に挑戦することで、企業のシステム開発の変革を推進するリーダーになれるのではないだろうか。リーダーシップを取ることができれば、挑戦した者の企業内での位置づけは大いに向上するものと考える。

4.ローコード開発事例は多く存在している
日本でローコード開発が大きく取り上げられたのは、2012年3月15日号の日経コンピュータ「超高速開発」特集である。そこから長年にわたり、数多くのローコード開発事例が生み出されている。開発事例から、どのようにローコード開発を適用するかのヒントが得られるものと考える。

おわりに

本稿は、筆者の作成したリサーチレポート「ローコード・ノーコード開発の効果と推進ステップ」をもとに執筆した。本リサーチレポートでは、ローコード開発をこれから検討する方々、特にCIOやIT部門長などIT部門の目線で、どのような開発ツール・事例があり、どのような適用ステップを踏めばよいか、わかりやすく整理している。
最も関心が高いと思われる開発事例については、6つ用意し、業界・採用ツール・開発者など、可能な限り重複しないよう工夫した。
また、実際の開発事例を踏まえ、ローコード開発で得られるシステム開発の工数削減効果、品質・ユーザー満足度向上効果はどの程度なのか検証した。加えて、ローコード開発を推進するうえで検討すべき考慮点も記載した。ローコード開発の考慮点を予め認識することで、実際にローコード開発を推進する上でのハードルを少しでも下げることが狙いである。
さらに、ローコード開発で論点となる人材確保、どの開発工程にローコード開発を適用するべきか、ITガバナンスの観点からも言及している。レポート終盤の「ローコード開発を進めるステップ」と併せて、本リサーチが各企業・団体のローコード開発の指針として活用できるように執筆した。
本リサーチレポートを活用することで、付加価値の高いシステムがスピード感を持って開発され、企業・団体活動の価値向上に貢献できれば幸いである。

資料をダウンロード>>ローコード・ノーコード開発の効果と推進ステップ

*文中の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。

  1. [1] ローコード開発コミュニティ, “理念・ミッション・活動”, https://www.x-rad.jp/org.html, (参照 2020年11月13日)

坂本 毅

CIOサポート担当

マネージャー

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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