QUNIE

2020.04.21

デジタルトランスフォーメーション(DX)への第一歩 ~DX推進編~

【第3回】成果を生むAIを導入するためには(後編)

失敗しないAI導入プロセスとは

小倉 英一郎 

前編ではAIの導入に失敗する企業が何を見落としているかについて、AIの特徴やAI固有の課題という観点から説明した。後編ではそれらを踏まえた「失敗しないAI導入方法」について解説する。
AI導入で成果を得るためには、AIの特徴・固有の課題を踏まえたAI特有の企画・開発タスクを実行することが重要だ。それらのタスクを組み入れ、システム導入プロセスをAI技術に即してアップデートすることにより、企業は無意味で不要なAI導入や、導入後の本来必要のない苦労、AI導入による企業ガバナンスの低下などを避けることが可能となる。
AI技術に関する調査やデータ利用に関する検討を行うフェーズ、導入前のPoC(Proof of Concept、概念実証)のフェーズを設けることは必須だ。さらに、業務課題解決のための手段として、AIは本当に最適なのか、AI導入プロジェクトは続行するべきなのか、それらを適切なタイミングで見極めることがポイントとなる。これらを確実に実行することで、AI導入の成功確度は格段に高まるだろう。

AI導入で欠かせないステップ

前編で記載したとおり、失敗するAI導入プロジェクトはいずれもAIの特徴や固有の課題を理解しないまま、通常のシステム開発プロセスを用いてAIを導入してしまっている。つまり、成功させるためには、特徴・課題を踏まえた検討・導入プロセスを用いる必要がある。

とはいえ、通常のシステム開発とまったく異なるプロセスを導入する必要はない。通常のシステム開発プロセスにAIを成功裏に導入するために必要なステップを追加することで、失敗の回避が可能だ。具体的には、導入するAIに関する十分な企画検討を行うためのステップ、構築したAIの効果を確認するステップ、実際に業務に導入するか否かを判断するステップを追加する。

AIの導入には、AIの特徴や固有の課題を踏まえた導入プロセスを用いる

 

なお、場合によっては「AIの導入を見送る」という意思決定を行うことも重要だ。プロジェクトの本来的な課題に立ち返って検討や実証を行う中で、必ずしもAIが必要ではない、という結論に至ることもあるためである。そのため、AI導入においては各ステップの終了時に継続判定を行い、継続条件を満たさない場合はプロジェクトを終了できるようにすることが望ましい。このような判定を行うことにより、必要がないAI、効果がないAI、業務上動かすことが難しいAIを導入してしまう、また、その導入時期を見誤るといったリスクを避けることができる。

以下、各ステップに関する説明を行っていくが、通常のシステム開発プロジェクトでも実施する業務については簡単な記載に留め、AI導入プロジェクト固有のステップについてそのポイントを解説していく。

企画系ステップのタスクとポイント

①プロジェクト企画

プロジェクト企画フェーズではそもそもの業務課題に立ち返る。このフェーズでは、業務課題を引き起こす真因や現状の把握、あるべき姿の定義および現状とのギャップを明らかにし、その実現手段の検討や導入計画を立案していく。ポイントはAIの利用を暗黙の前提としないことである。AIはあくまで手段であり、選択肢の一つでしかない。あるべき姿を実現するための手段としてAIが最善であれば、AI導入のための検討を進めていく。AI以外の解決策が有効である場合、導入は見合わせ、解決策に合わせた形でプロジェクトを推進する必要がある。

AIはあらゆる課題を解決するわけではない。課題に即した技術を利用することが重要である

 

とはいえ、AIの導入ありきでプロジェクトが立ち上がり、AIを選択肢から外せないこともあるであろう。その場合、後述するPoCにおいてはAI導入の実証だけではなく、AI以外の解決策による変革などもスモールに実施・実証できるよう検証計画を立て、そのパフォーマンスを比較することが効果的である。そのような比較検討が実施できるよう、プランの段階からコントロールしていくことが重要だ。

②AI企画

AI企画フェーズでは、導入するAIとその利用に関する理解を深め、最適なAI導入形態を定めていく。ポイントは、導入するAIとその導入タイミングを見極めること、データ利用にあたっての情報セキュリティや社内ガバナンスに係る各種の懸念を明らかにし、取り払っておくことの2点だ。

AIのような成長段階の技術を業務に導入するにあたっては、その特徴や限界について深く理解し、それらの理解に基づき、求める成果や効果を定めていく必要がある。技術的にどの程度のことができるかを把握することはもちろん、当該技術をアプリケーションやSaaSとして提供しようとしているベンダーやスタートアップの動向も押さえるべきだ。1~2年後にどの程度までそのAIが進展するのか、技術の観点とサービスの観点の両面で見当がついていると望ましい。そのうえで、自社がどのようにAIを活用したいのかを明らかにし、今がそのAIの導入タイミングとして適しているかを判断することが重要である。この判断を誤ると、導入した途端に陳腐化するという事態を招いてしまう。

例えば、ある業務に適用したAI技術について、現時点では基礎技術しか存在しないが、翌年にはクラウドサービスとして提供されることがわかったとする。この場合、「すぐに自社開発して業務に組み込む」、もしくは「今は内製せず翌年まで待つ」といった戦略的なオプションを持つことが可能となる。自社開発についても、「開発コストを回収できるか」といった近視眼的な話ではなく、「自社開発AIは市場競争における差別化要素になるか」、「差別化要素ではないならば、既製品を利用するのが適切か」など、よりハイレベルな観点からAI導入の是非を判断していくことができるようになる。

業界やAI種別によっては独自にAIのレベルを定義し、AIによる高度化の度合いを分類していることがある。例として次のようなものがある。

リテールAIレベル5 [1]

 

デジタルレイバーのクラス分類[2]

 

これらのレベリングを用いて現在発表されている技術や商品の分類を行い、AIが高度化していくスピードや各レベルへの到達時期などを整理し、自社の課題と照らし合わせるだけでも、導入タイミング検討の目安になるだろう。

また、AI企画フェーズにおけるもう一つの検討ポイントは、各種規定やルールに違反しないためのデータ利用はどのようなものなのかを明らかにしておくことである。どれだけ優れたAIであっても、学習データの作成や投入方法が社内のデータ利用規則に違反する場合、利用することはできない。

AI導入では、PoCなどによるスモールスタートが多いため、その段階から法律やコンプライアンス、情報セキュリティなどの観点を考慮すべきだ。導入するAIが明らかになれば、学習に用いるデータ種別の大まかな見当をつけることができる。このタイミングでデータの棚卸しを行い、社内のデータ取り扱い区分に照らして不適切なデータが含まれていないかを確認する。加えて、データ収集・メンテナンスのコストを把握し、ある程度の精度で持続可能なAI利用モデルを描いておくことが望ましい。導入時点でデータ観点の運用計画を立案することは、AI維持フェーズでの失敗回避に大きく貢献する。

データ利活用のための検討観点の整理、およびデータ活用体制整備にあたっては、DMBOK2などの知識体系を参照しながら進めていくことが有効である。

データマネジメントの知識領域を定義するDAMAホイール図[3]

 

投入するデータの候補が多い場合や、データ所有者のプロジェクト参画のタイミングなどにより、この時点でデータの棚卸しやデータ運用設計を行うことが現実的ではない場合は、後段の設計ステップやPoCステップなど、利用するデータが絞り込めた段階で棚卸しを実施することが重要である。いずれにしても、データの取り扱いにおけるコンプライアンスを逸脱してしまったり、データに関する検討の不備が原因でそれまでの作業が無駄になってしまったりすることがないよう、適切なタイミングでデータの取り計らいに関する検討・調整を進めていくことが肝要だ。

開発系ステップのタスクとポイント

③設計・実装

設計・実装ステップでは、AIを利用した業務そのものと、AIシステムの設計と構築を行う。PoCの結果により業務への組み込みが見送られる可能性もあるため、システムやアプリケーションはPoC実施に必要な最小の構成にすることが望ましい。この段階で過剰に作りこんでしまうと、PoCで明らかになった課題に対して柔軟に対応することが難しくなるためである。

また、導入見送りの場合の影響を小さくするため、既存システムと疎結合になるような構成とすることも重要である。ただし、PoCにおいて必要十分な検証を行うため、AIモデルやAI利用に関するインターフェイスなどは、可能な限り実業務を想定して開発しなければならない。業務とAIのフィッティングを考えると、これらの検討作業はスパイラルに進めていくことが望ましい。

業務とAIシステムの設計完了後、その運用方法を検討のうえ、最後にPoCの検討を行う。

④PoC

PoCではAIを実験的に業務に組み込み、限定的な範囲でAI導入効果を確認する。AIの精度検証も重要だが、その側面ばかりを重視して、業務への組み込みに関する検討が疎かなままPoCに入ってしまうことも少なくない。しかし、PoCではAIの精度だけではなく、業務の適応性なども確認することが重要である。

PoCにあたっては、AIを新たなアプリケーションとして提供するのか、何かしらの既存アプリケーションに組み込んで使用するのか、といった提供方法の検討が必要だ。また、後者の場合は、既存アプリケーションとAIシステムの接続可否、データの連携可否などの確認を忘れてはいけない。

PoC期間では大きな問題が出ないことがあるが、AIを継続的に利用する場合、AIの再学習は否応なく発生するものであるため、作り直すプロセスやメンテナンスなどを仮実施し、データ取得や加工、再学習などのために発生する時間やコストを確認しておくことが望ましい。

導入系ステップのタスクとポイント

⑤結果確認

結果確認では、AIを導入したことによる効果を確認し、実際にAIの導入要否判断を行う。判断には定量的な効果を用いることが有効だが、AIを導入することによる業務への定性的な影響も勘案することが必要である。

また、業務への導入を行う場合、PoCの結果を踏まえて、当初検討していたAIや業務を改めてブラッシュアップすることも重要だ。そうすることにより、AIの導入成果をより高めることが可能となる。

⑥業務組み込み

AIを実際に業務に組み込む。AIの社内情報システムへの移設や、AI利用に関する種々の規定の交付、利用者へのレクチャー、メンテナンスする人物への引継ぎなどを行う。データを用いた業務や経営を重要視するのであれば、AIのメンテナンスは自社人材で担うことが望ましく、データサイエンティストやAIエンジニアの育成制度や学習支援を通じて人材育成を図っていくことが有効である。

最後に

逆説的になるが、AI利用が大きな可能性を秘めているのは、それが成長途上の技術であり、ベストプラクティスでもコモディティでもないためである。AIの導入にあたっては、通常のシステム開発とは異なる課題やリスクに向き合う必要があるが、これはAIが技術としてまだ枯れていないためである。

このような技術が存在している期間は、業務や市場を作り替える好機でもある。AIを用いて業務変革を仕掛けていくことで、さまざまな市場拡大・市場獲得のオプションを得ることが可能であろう。一方で、AIが枯れてコモディティとなってしまった段階では、市場に対する打ち手やその効果も限られてしまい、固定化したシェア構造を大きくひっくり返すことは難しいだろう。

今現在は、AIをてこに大きなビジネス変革や市場競争を仕掛けることができる貴重な期間であり、AIの導入にはさまざまなチャンスや可能性が秘められている。

本稿が参考となり、貴社AI導入の成功確度が少しでも高まれば幸いである。

* 以下出典に記載のない図表は筆者作成。

  1. [1] リテールAI研究会の定義をもとに筆者作成
  2. [2] KPMGの定義をもとに筆者作成
  3. [3] DAMA Japan Chapter http://www.dama-japan.org/Introduction.html, (参照 2020年4月20日)

小倉 英一郎

ITマネジメント/デジタルラボ担当

シニアコンサルタント

企業情報システムやコーポレートサイトの企画・構築・運用、デジタルマーケティング戦略の立案・実行などの業務経験を経てQUNIEに入社。QUNIEでは複数の企業において、データ戦略・デジタル戦略の策定・実行、デジタルソリューションの企画・導入に関わる。組織変革・サービスデザイン・アジャイルソフトウェア開発・データアナリティクス・データジャーナリズムに関する専門書(英語)の翻訳に携わる。

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