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2021.02.01

70歳までの就業機会確保と人材戦略

変革促進と長期雇用を同時に求められる時代に、人事が取るべき施策とは

三沢 直之 

Summary

  • 2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの雇用確保の義務化が現実的になってきた
  • コロナ禍におけるDXの推進と業績悪化の影響もあり、特定職務の人不足と、中高年社員を中心とした人余りの状態がさらに加速した
  • こうした状況の中、自社の現状を把握し、課題を整理した上で、具体的な施策を展開することが組織の持続的発展のために求められる

70歳までの就業確保措置が努力義務に

2021年4月1日に改正高年齢者雇用安定法が施行される。8年ぶりとなる本改正では新たに努力義務として「高年齢者就業確保措置」が追加され、企業に対し70歳までの雇用などを促すこととなる。

あくまで努力義務ではあるが、過去を振り返ると、高年齢者雇用安定法で努力義務とされた制度のほとんどが後に義務化されている。そのため、高年齢者就業確保措置についても将来的な義務化が予想され、今のうちから措置を講ずる準備をしておくことが望ましい。実際、70歳までの就業確保に向けた問い合わせが昨年末より筆者のもとにも来ており、今後さらに本格化することが予想される。

本改正ではフリーランス契約や起業支援につながる創業支援等措置が話題となっているが、本稿では、それらの法律に関する詳細ではなく、時代・社会の要請に対し、人事が押さえるべきポイントや施策を紹介したい。

人不足と人余りの同時進行がより顕著に

電通デジタルの調査[1]によれば、2020年、日本企業のDXはコロナ禍で加速したが、DX人材の不足が変革推進上の最も大きな障壁となっていた。他の調査でも表れているが、特定職務では明らかに人不足が生じており、特にデジタル変革に対応し得る人材の中途採用の動きが活発化している。

他方で、東京商工リサーチ[2]によれば、2020年12月7日までに上場企業の早期・希望退職者募集が90社に達した。これはリーマンショック直後の2009年に次ぐ高水準である。募集人数は、判明分で1万7,697人を数え、2012年とほぼ並び、募集社数と同様、通年では2009年に次ぐ水準となることが確実となった。

募集企業の内訳は、コロナ禍での業績悪化に伴う従来型の「赤字リストラ」が約半分程度で、業績はそれほど悪くないが中高年層の高い人件費削減を目的とする、将来的なリスクに備えた「黒字リストラ」が前年同様継続していると言われている。

このように、人不足と人余りが同時進行する状況がコロナ禍で加速する中、70歳までの就業確保措置の努力義務化が施行される。どのようにバランスを取りながら持続可能な組織を形成するのか、正面から取り組む企業とそうでない企業との間には大きな差が生まれるだろう。人事が果たす役割がますます大きくなる。

まず行うべきは自社の現状分析である。今後の人員・人件費予測は当然として、企業戦略に照らし必要な人材がどの程度確保できているかを具体的に確認する。そして課題を整理し成果目標を設定した上で、施策に展開する。ここでは現状分析後に取るべき主な施策を3つ(活用施策・代謝施策・共創施策)に分けて解説する。

Ⅰ.活用施策:シニアの活用について本腰を入れて考える

まず、法改正への直接対応として「活用施策」を取り上げる。60歳以上のシニア社員をどう活用するか悩む企業は多い。また役職定年制を導入している企業の多くは、役職を外れた社員の取り扱いに頭を抱えている。管理職だった人の定年後の取り扱いが一番大変だと本音をもらす人事に何度となく出会ってきた。そして実態は、何の対策もできず60歳前後で、仕事内容に変化もなく、無為に同じ仕事を続けさせているケースが多い。一方、シニア社員が活躍できる業務を探索する取り組みとして、各部署に働きかけ業務を洗い出す企業もある。シニア社員を活かす業務にはどのようなものがあるか下記に示す。
 

表1:シニア社員を活かす主な業務

業務としては、本人の経験を活かせるものが第一に優先されるべきであり、次にシニア社員が培ってきた経験を踏まえ、経営目線から取り組むべき業務をあえて担ってもらうことも有効である。あとは雇用維持の要素が強くなるが、人手不足を解消する観点から、スキルがなくても対応できる定型業務を担ってもらうこともある。それぞれ注意すべきポイントを表内備考欄に記載した。

また、詳細は別途とするが、活用施策で大事なことが評価と処遇である。頑張っても頑張らなくてもフィードバックがない仕事はモチベーションを維持するのが難しく、その状態を70歳まで続けるのは、本人はもちろん企業にとっても良好とはいえない。

なお、企業が業務を探索すること自体には限界がある。シニア社員にも自ら動き、どう働くかを考えてもらう必要がある。研修などの場を通じ、自分は何に貢献したいのか、活かせる能力・知識・経験は何かを確認し、仕事のプロとして企業への貢献テーマを設定してもらい、その実現条件や実行課題を整理していくことが重要である。

Ⅱ.代謝施策:人員構成のバランスを整える

本来であれば、年齢に関係なく、全ての社員に能力を最大限発揮してもらい、事業活動に貢献してもらうのが望ましい。ただ、人員・人件費の将来予測を行うと、多くの場合、歪(いびつ)な姿が浮かび上がってくる。将来予測はこれまで65歳退職を前提に計算することが多かったが、今後は70歳まで在籍する前提で行う必要があり、さらに歪さが増す可能性がある。すると若手の採用や登用と同時に、中高年社員の構成比率を抑えるという課題が議題に上がってくる。

コロナ禍において、中高年社員を主な対象とする一時的な早期・希望退職が多く行われている。しかし単年度で人員構成の歪みを解消するのは難しく、定常的に中高年社員に退職を促す以下のような「代謝施策」を設ける企業もある。

図1:代謝を促す施策例

 

50歳前後から研修や個別フォローを行い、役職定年を設定しつつ、60歳以降の就業以外の選択肢を示す。そこに特別退職金を付加し転進支援サポートを付けた早期退職優遇施策を組み込む。個別交渉や業務改善を要望する取り組みを同時に行う場合もある。

複合的に施策を絡めながら人員構成のバランスを調整していく方法だが、実際は想定通りにいかないことも多い。残ってほしい人から辞めてしまったり、あまり手が挙がらなかったりといった課題がある。中高年になってから、突然自身のキャリアを考えるように言われても、生活の「現実」に目がいってしまい、代謝を促す施策としては限界があるのだろう。

Ⅲ.共創施策:個人と組織が共に成長する

再度の言及となるが、事業活動に貢献する社員であれば、本来なら年齢に関係なく活躍してほしい。ただ人は年を取ると体力や記憶力が落ちる。同じ職場にいると組織適応度ばかり高くなり、思考の柔軟性や新しいことへの挑戦心が失われていく。結果として給料に見合った働きができなくなり、個人と組織双方にとってよい関係ではなくなる。

人の幸せの形はいろいろあるが、組織に所属する個人が幸せで、組織と良好な関係を築くために企業が取り組むべきことは、社員のキャリア自律を促すことだと考える。社員一人ひとりに自身のキャリアを意識させ自分事にする。同時にローテーションや研修などの成長機会を提供し、社員は挑戦し、パフォーマンスを最大化させながら、自身のキャリアの在りたい姿をさらに模索する。その延長に選択の機会を設け、自らの意思で異動や転進を選べる状態を作る。そして社員は自分のキャリア・人生を自らの足で歩いている感覚、やりがいを得ると同時に、企業は高いパフォーマンスを通じた業績向上を享受することができる。このように個人と組織が良好な関係を築き、共に成長する取り組みが「共創施策」である。SDGsの8番目のゴール「働きがいも、経済成長も」の目指す姿と言える。主な取り組みには以下のようなものがある。

図2:共創施策の各種取り組み

 

①自律的キャリアの形成
共創施策で最も大事な取り組みである。代謝施策でも登場したキャリア研修を活用することが多いが、対象は中高年社員だけでなく、20代から継続的に行うのがよい。自分の意志と能力の棚卸を行い、自身のキャリアを定期的に見直す機会を設け、次に何を行動するべきかを考えさせる。そうすることでキャリア自律を促し、他の取り組みに結び付けていく。

②選択的教育機会の提供
キャリア自律が進むと、自分は何を学ぶべきかが見えてくる。これは若い時期だけでなく60代でも起こり得る。その学びたい欲求に対し、教育機会を提示し、自ら選択できる仕掛けを用意する。自分で受けようと思った学びは本気度と吸収力が違う。

③労働市場の形成
キャリア自律に成長が伴うと、今の部署や仕事内容に限界を感じることも出てくる。そこで、公募制やFA(フリーエージェント)制といった社内労働市場や、副業・兼業さらには業務委託といった社外労働市場への道を準備する。企業の異動命令に従うだけの社員には生まれない挑戦心や創造力が発揮され、DXをはじめとした変革につながる芽が生まれる。DX人材の採用が難しい中、自社の社員の育成・登用により人材を確保することができるかもしれない。

④仕事と処遇の一致
各種取り組みによりキャリア自律が高まると、貢献意欲も高まる。自分はこの組織で何をするべきかを考え、新しいことにも挑戦し、パフォーマンスの向上につながりやすくなる。組織の活性化にもつながり、何かを実現したいと思う人にとって魅力的な企業にもなる。

ただ貢献意欲の高い者にとって貢献度合いに応じたフィードバック(処遇含む)がない場合、物足りなさを感じるだろう。「やってもやらなくても変わらない」と感じさせる年功序列的な処遇の企業では、外に目が向いてしまう可能性が高くなる。他方、貢献意欲がそれほど高くない人は処遇が自然と上がる制度だと居心地がよく、代謝施策の対象となるような中高年社員になりかねない。

キャリア自律を高め、活躍する人材を増やすためには仕事と処遇の一致が大事である。これは「ジョブ型」というキーワードが昨年バズワード化したこととも関連する。どの企業も人事制度をジョブ型にするべきだとは筆者は思わないが、一部を除き、仕事と処遇の一致はシニア社員も含めた社員に適用すべきだと考える。

⑤早期退職機会の提供
キャリア自律が進むと、社外での就業機会を求める社員も出てくる。ただ退職の決断を恐れる者も多い。決断できず悶々と仕事に取り組むのは個人にとっても組織にとっても良好とはいえない。組織での貢献を自身のキャリアの在りたい姿だと捉え、熱心に学び業務に取り組んでくれる社員は年齢に関わらず居てもらえばよい。ただ、揺れる者には決断を促すべく早期退職優遇制度を定常的施策として設定する。

なお、早期退職優遇制度は対象を絞ることが多い。年齢だと45歳や50歳以上が多いが、個人的には40歳前後から始めるのがよいと考える。50歳近くになると転進にリスクを感じる度合いが強くなる。若い頃にしっかりと成長の機会を提供した上で、他でもやれると感じる40歳前後から制度を適用するのが、個人のためにもよいだろう。また細かい話だが、一定年齢以上を対象とする制度が多い中、44歳、47歳、50歳とタイミングを限定する方法もある。毎年決断するタイミングがあるより何年かに一度の方が真剣にキャリアについて考えるのではないだろうか。

おわりに

今後義務化が想定される70歳までの雇用確保に対し、手を打つのであれば早い方がよい。まずは自社のシニア社員の活用について現状分析・課題の整理を進めた上で各施策に取り組むことを推奨する。その際、活用施策・代謝施策が必要な場面も多いが、同時に共創施策も視野に入れて取り組んでほしい。社員一人ひとりの持てる力を高め、発揮してもらうことで、多くの企業が先の見えない「現状」を乗り越えていくことを祈念する。

  1. [1] 電通デジタル(2020), ”日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査”, https://www.dentsudigital.co.jp/release/2020/1218-000737/,(参照2021年1月21日)
  2. [2] 東京商工リサーチ(2020), ”上場企業の早期・希望退職者募集状況”, https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20201209_02.html,(参照2021年1月21日)

三沢 直之

ヒューマンキャピタルマネジメント担当

シニアマネージャー

戦略系コンサルティングファームにて経営全般のコンサルティングに従事後、人材系ベンチャーにて事業企画室の室長、および現場のマネジメントに従事。銀行系シンクタンクにて人事全般のコンサルティングサービスを提供後、2018年より現職。社会保険労務士。

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