2022.02.08

なぜファイナンス領域はDXが進みにくいのか

財務経理部門が“DX Finance”を成功させるための3つのポイント

ファイナンシャルマネジメント担当 

昨今、不連続な変化による加速度的な成長が期待され続ける中、その取り組みとしてこのキーワードを聞かないことはないというほどに、“DX(デジタルトランスフォーメーション)”が企業の直面するテーマとなっている。実際、DXという言葉を掲げ自主的に取り組みを進める企業も多くある一方で、単なるITシステムのリプレイスとちょっとした業務改善にとどまっているケースも散見される。
そこで本稿では、財務経理部門に特化した、DXの考え方と組織の成功に向けた要諦について考察する。

ファイナンス領域におけるDXとは

今一度DXについて定義をすると、経済産業省は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」[1]と定義している。これを筆者は、2つの変革について定義したものと解釈している。
1つ目は、“デジタル技術を活用したビジネスモデルの転換”という事業領域の改革である。フィンテックやビッグデータ技術によるデジタルマーケティングにもとづいたサービス設計などが、これに当たるであろう。
2つ目は、“デジタル技術による業務やプロセス、あるいは働き方そのものの転換”というバックオフィス領域も含めた変革である。
ファイナンス領域も含めたバックオフィス業務のDXは、この2つ目を重要視した取り組みとなることは自然であろう。これを、財務経理部門に限定した取り組みとして“DX Finance”と呼称し考察を深めていく。

DX Financeの変革パターンと施策例

先に挙げた、“デジタル技術による業務やプロセス、あるいは働き方そのものの転換”をふまえ、具体的にとりうるDX Financeについて3つの変革パターンと共に例示していく。

1. デジタルツールの力で業務を変革していく

新たな業務支援機能を備えたデジタルツールが多く生み出されている。それらを組み合わせ活用していくことで、業務のデジタル化による変革を目指す。

例)紙業務のペーパーレス/デジタル化、見込みのAI予測、経理問い合わせのチャットボット化、API連携の強化によるマニュアル作業の廃止

2. 働き方から見直していく

コミュニケーションの取り方や協業の仕方を変える、またリモートワークやその環境下でのチームマネジメントに対応していくパターンがこれにあたる。

例)コラボレーションツールによるタスクの可視化、ワークシートのオンライン同時編集

3. 今までにない新たな仕掛けを生み出す

最新テクノロジーを活用し、時には外部を巻き込んで、今までにない業務プロセスやファイナンスの仕組みを創出する。

例)会社間共通取引基盤による債権債務の同時計上、ブロックチェーンを使った社債管理

1. の例でも挙げたペーパーレス化を筆頭に、上記のような取り組みを既に開始している企業も少なくはないだろう。その一方で、消費者行動を蓄積しマーケティング活動へ活用していくようなビッグデータの例は、一般的なアイデアとして浸透しているものの、DX Financeとしてあまり華々しい成功事例が少ないのも事実であろう。
実際には、水面下では経営管理の世界でデジタルツインを実現しようとする動きや、ファイナンスと周辺領域を統合した連続性・強い関係性を保持し、AIを活用した経営管理を実現しようとする動きなどが進んでいる。しかし、前述した通り成功事例が聞こえてこないのは、財務経理部門が今までと同じ意識でDX Financeにもチャレンジしようとしているからではないかと考えている。

DX Financeを推進するために

では、財務経理部門においてDXを推進するにあたって、今までと変えるべき点はどこにあるか。3つのポイントについて考察する。

まず1つ目は、ITリテラシーである。
かつてERPや会計システム、管理会計/経営管理システムなど会計情報をつかさどるシステム構築プロジェクトは、情報システム部門が主となり、業務メンバーとして財務経理部門が参画する体制をとることが多かった。もともと会計とITとは距離があることに加え、プロジェクトの主幹とならないことで、財務経理部門の中でITリテラシーに秀でた人材、社内システムに精通した人材が育たないという状況になっているケースが多く見られる。そのため、世の中にDXという変革の波がきていても、その波に乗り切れないでいることが多い。
結果として、DX Financeを企画する人材、“Will”をもって推進する人材が不足し、成功事例の積み上げが不十分となる要因の1つになっている。特に財務経理部門は、決算情報という対外数値や経営管理として使われる意思決定のための数値、あるいは業績管理としてパフォーマンス測定のための数値など、経営において重要な指標を扱っているにもかかわらずだ。
わかりやすい例を挙げると、会計データは、安易にデータといっても貸借の概念や仕訳として意味のある単位など、容易に二次利用できるデータではないことが多い。そういった些細な点からきちんと会計とITを理解し、DXを企画できるような、ITリテラシーを十分に備えた人材を育成・確保することが重要であろう。

次に、2つ目としてオーナーシップが挙げられる。
今まで財務経理部門が関わってきたITプロジェクトに、どこまでオーナーシップをもって参画してきただろうか。筆者の経験においても、打ち合わせに呼ばれてヒアリングを受け、IT部門やシステムベンダーの仮案にYes/Noを伝えるのみという、お客様状態の財務経理部門を幾多と見てきた。
しかし、昨今のDXブームや、経済産業省が提言した「2025年の崖[2]」でいわれるように、IT人材は枯渇気味であり、DXに対して受け身でいるといつまでたってもチャレンジする機会を作れずに、競争力を高める機会を逸してしまう可能性がある。実際、IT部門からすると業績改善やコストリダクションのようなわかりやすい成果が得にくいDX Financeは、ややとっつきにくい領域だという声も聞こえてくる。
財務経理部門の価値を高め、経営に貢献できる組織にするためにも、積極的にオーナーシップをもって自発的な取り組みを推進し、必要十分なIT部門の協力を得られるような体制を作っていくことが重要であろう。

最後に、3つ目として風土の問題が挙げられる。
ファイナンスそのものは比較的専門性が高い領域であるため、十分なファイナンススキルをもった人材は財務経理部門に長年籍を置くことが多く、組織としては人材が硬直化しがちである。結果的に、業務や知見が人に依存して生き字引のような集団となることで、個別最適(個人最適)が進むため、はたから見ると変化が小さく保守的な組織として見られることが多い。
しかし、DX Financeを推進していく上では、今までの仕事の仕方、業務のやり方が大きく変わることもありえ、その覚悟をもってチャレンジしていくべきだと考える。そして、そういった変化を受け入れる風土がないと、最終的にはマイナーチェンジ止まりとなってしまい、期待した変革が成し遂げられないリスクがある。
理想としては財務経理部門として変化を創造できる風土であってほしいが、最低限、変化を受け入れられる風土を保っておく必要があるだろう。しかし、一朝一夕で築き上げられるものではないため、しっかりと役職者、場合によってはCFOクラスが錦の御旗を掲げ、変化していくという意思を発信し続け、風土として根付かせることが重要だ。

おわりに

今回は、財務経理部門におけるDXとはどういったものか考察を深めつつ、DX Financeを成功させるために重要なポイントとして以下3点について述べた。

  • ITリテラシーをもった人材を確保すべき
  • 財務経理部門がオーナーとなり自らの意思で推進すべき
  • DXによる変化を受け入れる風土を醸成すべき

昨今の変革においては当たり前となった、DXを成功に導くためのヒントを提示したものの、どれも長い時間を要するポイントばかりである。現実的には、完全な準備が整う前にDX Financeへチャレンジすることとなるだろう。しかし、成果を得続けるためには必要な要素であり、DX Financeと並行して重要な3点が備えられるよう中長期的に取り組んでいくべきだと考える。
本稿が、今後DXへ取り組もうとしている財務経理部門の参考となれば幸いである。

  1. [1] 経済産業省(2019), “「DX 推進指標」とそのガイダンス”, https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf, (参照2022年1月31日)
  2. [2] 経済産業省(2018), “DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~”, https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf, (参照2022年1月31日)

ファイナンシャルマネジメント担当

ESG経営、コンプライアンス、グローバル経営管理、業績評価制度などの分野で、
業務およびシステムの両面から、お客様の企業文化に即したコンサルティングを行うことに強みを持つ。

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