2023.07.05

ChatGPTがもたらす未来の変化

【第3回】企業におけるChatGPT活用の最新ユースケース

佐々木 新 星野 隆人 徐 智和 

ChatGPTは、OpenAIが開発した自然言語処理技術であり、幅広い分野におけるユーザーの問いかけに対し、まるで人が書いたかのような自然な文章での応答を実現している。この革新的なサービスは2022年11月30日の公開から約半年で瞬く間に普及し、執筆現在(2023年6月)、日本人の約1割が利用したことがあるとされている[1]。個人だけでなく企業での活用も盛んに検討され、すでに運用開始されているサービスも少なくない。
そこで本稿では、特に非エンジニアに向け、企業内でChatGPTを利用するにあたって最新のツールやプラグインを駆使することでどのようなユースケースが実現可能かについて、なるべく専門的な用語や数式等を用いずに分かりやすく解説したい。
なお、本稿ではChatGPTのモデル間における違いについて細かく触れず、基本的にはGPT-3.5 ファミリーモデルのgpt-3.5-turboモデルについて言及しているものとする。ただし、モデルの違いによって本稿で解説している内容が大きく異なることはないため、ご安心いただきたい。

ブラウザ版・アプリ版ChatGPTと“企業内ChatGPT”でできることの違い

2023年6月現在、日本でChatGPTを利用する方法は主に以下の4通りである。

  • ブラウザ版ChatGPT
  • アプリ版ChatGPT
  • ChatGPT APIを使用したシステム・サービス(BingAI等)
  • Azure OpenAI Service

上記を踏まえ、本稿において“企業内ChatGPT”とは、ChatGPT APIもしくはAzure OpenAI Serviceを利用して企業内で構築されるシステムを指すこととする。(現在すでに企業内ChatGPTを活用している企業のほとんどがAzure OpenAI Serviceを利用している)
企業内ChatGPTでは、例えば顧客の商品に関する質問や社内情報についての質問など、特定の場面に応じた/詳細な回答が求められることが多いと考えられる。そこで“企業内ChatGPT”に「プロンプトエンジニアリング」、「ツール/プラグイン」、「ファインチューニング」という3つの技術を用いることで可能となる機能面や性能面のアップデートについて簡単に解説する。また、これらの技術についてすでに理解しているという方は、本章を飛ばして次章へ進んでいただいて構わない。
 
1. プロンプトエンジニアリング
1つ目に挙げるプロンプトエンジニアリングは、ChatGPTに入力するテキスト(=プロンプト)を工夫し、ChatGPTが回答するにあたっての詳細な条件や回答して欲しい立場等をプロンプトに含めることで、回答の精度や具体性を向上させる技術(どちらかというとテクニックに近い)である。これは企業における利用に関わらず、ChatGPT全般に通ずる非常に使い勝手の良い技術であり、すでに多くの媒体にさまざまな解説が掲載されている。そのため、本稿では企業内ChatGPTの活用検討に必要な、特徴的な部分に絞って解説したい。
企業内ChatGPTにおけるプロンプトエンジニアリングの特徴は、利用者が比較的大雑把な質問(=プロンプト)を入力しても、システム側で質問内容に応じて補足(=プロンプトエンジニアリング)し、ChatGPTに問いかけ可能ということにある[2]。つまり、利用者にプロンプトを作成するためのスキルが無くとも、あらかじめ企業内ChatGPTのシステムにプロンプトエンジニアリングを行っておくことで、利用者はより高い質の回答が得られるということになる。
また企業内ChatGPTは質問の文字数(トークン)の制限が緩やかなため、プロンプト内に要約して欲しい文章や回答の前提となる情報を含めることで、ChatGPTが学習していない情報について回答を行わせることも可能である。
 
2. ツール/プラグイン
2つ目の技術は、ChatGPTに新しい機能を追加するためのツールやプラグインである。執筆現在、そうしたツールやプラグインは多数存在するが、その中でもLangChainやWolframは機能面や使い勝手で優れているとされている。本稿では特に、これらがどのような機能をChatGPTに追加できるかについて解説していく。
LangChainやWolframを導入することで大きく変化する点として、今までChatGPTが苦手としていた計算問題の処理や図表の作成、ChatGPTが学習していない最新情報や非公開情報へのアクセスが可能になることが挙げられる。他には、複数のタスクを行う必要がある複雑な指示に対しても、ChatGPTの自然言語理解能力をもとにChatGPTが複雑な指示を分解し、各ツールに個々のタスクを順番に処理させることが可能になる[3][4]。
ここでは一部の機能紹介に留め、次章にてこれらのツールやプラグインを用いることでどのようなことが実現可能になるか、具体的なユースケースを通じて見ていただきたい。
 
3. ファインチューニング
3つ目の技術は、企業の用途に特化したChatGPTモデルを作成するファインチューニングである。元来ChatGPTにはいくつかのモデルが存在し、よく耳にするGPT-3.5やGPT-4といったモデルは、それぞれ別のデータを学習し、別のパラメーターを持つ独立したモデルである。ファインチューニングとは、これら基となるモデルに対して少量の学習データ(社内のナレッジ等)を追加で学習させ、オリジナルのモデルを作成することである。つまりファインチューニングを行うことで、企業の用途に応じた新しいオリジナルのモデルを生成することが可能になる。これによって、プロンプトに参照して欲しい情報を含めて質問しなくとも、社内のナレッジ等を参照して回答させることができる。さらに、オリジナルモデルであれば従来のOpenAIが開発・公開しているChatGPTのモデルではできなかった新しい推論やタスクを学習させることも可能になる。
ただし、ファインチューニングに必要な質の高い学習データの選定・作成は非常にコストのかかる作業になるため、ファインチューニングで新しいモデルを作成することは前項の2つの技術では解決できないタスクを実行させるための最終手段とされている。まずはプロンプトエンジニアリングやツールやプラグインを用いて実現を試みることが推奨される[5]。
 
以上、企業内ChatGPTに特定の場面に応じた、詳細な回答をさせるための3つの技術について紹介した。これら3つの技術によって実現が可能になることをまとめたものが下図(図1)になる。

図1:企業内ChatGPTでできること

※本稿はエンジニア向けではなく一般のビジネスパーソン向けの内容を目指しているため、技術的な解説を大きく割愛・意訳している点について、あらかじめご了承いただきたい。

上図の通り、プロンプトエンジニアリングやツールやプラグイン、ファインチューニングといった技術を導入することによってChatGPTの能力は大きく拡張・向上する。次章では企業内ChatGPTとこれらの技術を駆使することによって、企業内ChatGPTが実際の業務においてどのように活用することができるかのユースケースを紹介したい。

企業内ChatGPTの最新ユースケース

執筆現在でもすでにいくつもの企業で企業内ChatGPTが活用されており、今後もますます増えていくことが想定される。ここですでに公表されている企業内ChatGPTのユースケースについて、業界ごとの利用事例を簡単に紹介したい。

表1:企業におけるChatGPT利用事例

 
表1に示したように現在多様な業種業界で企業内ChatGPTの導入が検討・開発されており、自社内だけでの活用ではなく、一般消費者向けのサービスも登場している。そこで、本稿ではすでに登場しているユースケースだけでなく、企業内ChatGPTが実現可能なユースケースについて、企業内ChatGPTの機能を大きく5つに分類して整理した(図2)。

図2:企業内ChatGPTのユースケース

 
1. 文章/画像生成
■主に活用する技術:プロンプトエンジニアリング
マーケティングや商品開発などクリエイティブなアイデアを要求される場面において、ChatGPTは優れたアイデアパーソンとなり得る。また、クリエイティブな思考が要求される場面だけでなく、目的やゴールを提示することで会議進行や資料作成の方向性を提案してもらうことも可能である。
例えば、商品の特徴を入力することで文章や画像を生成させるだけでなく、すでに作成したアイデアを基に新しく文章や画像を考えさせることも可能であるため、人力だけでアイデアを考えていた従来よりも効率的な創作活動が可能となる。
 
2. 対話・自動応答
■主に活用する技術:プロンプトエンジニアリング、ツール/プラグイン、(ファインチューニング※タスクにより
顧客のニーズや不満点を正しく理解し、新しい商品や改善策の提案が可能である。また、顧客の状況を把握し、適切な担当部署へ連絡することも可能である。
例えば、下図のように顧客から抽象的な質問を投げかけられた場合でも、ChatGPTが回答のためのタスクを分解し、適切な検索や計算を行うことで顧客の要望に合った提案が可能である。

図3:顧客のニーズに合わせた商品提案 対応イメージ

 
また、ファインチューニングを行うことで、例えば症状から考えられる病名の推測や処方箋の作成補助、また判例調査や内容証明文章の作成補助など、高度な専門知識に基づいた回答を引き出すことも不可能ではない。(現状は非常にコストがかかるものの、汎用ChatGPTよりも精度の高い回答が可能とされている[5])
 
3. 検索
■主に活用する技術:プロンプトエンジニアリング、ツール/プラグイン
社内にある資料をあらかじめChatGPTに要約させ、その要約を基に詳しい情報が保管されている場所をChatGPTが自ら探し出すといったことが可能である。例えば、社内ナレッジや社内規定などについてデータをあらかじめ整理することで、適切なデータを瞬時に検索・要約して回答することができるようになる[5]。
また、ChatGPTが学習していない2021年9月以降のインターネット上の情報についてもChatGPTに検索させ、最新のWebページやニュース記事などの情報を収集させることが可能になる。
 
4. 要約・分析
■主に活用する技術:プロンプトエンジニアリング、ツール/プラグイン
Web上や企業内に存在する膨大なデータに対しても、適切な粒度の要約・分析を行うことが可能である。主に人の手では整理できない情報を読み込ませ、用途に合わせた分析結果を出力させることが可能であり、今まで見落とされていたデータを発見できる可能性がある。
例えば、Twitter上にある自社製品や競合製品についてのレビューを定期的に収集して要約させることで、自社製品の改善につなげることが可能である。また、自社製品についての否定的な意見がどれだけ拡散されているかを検知し、炎上を防止するといった使い方も考えられる。
 
5. コード作成・翻訳
■主に活用する技術:プロンプトエンジニアリング
プログラミングの経験がない社員でも自然言語で簡単なプログラムを作成させることが可能である。また、プログラムのエラー検知やコードの意味を分かりやすく翻訳させることも可能なため、全くプログラミング言語についての知見がなくとも、プログラム内部の処理を理解することが可能になる。
 
以上、企業内ChatGPTで実現できる5つの機能についてユースケースを交えて紹介した。これらは必ずしも独立して存在しているわけではなく、必要に応じて組み合わせることでより高度なタスクを実行させることが可能である。
例えば、「アイデア出し」で出したアイデアを「検索」で検索させて他社事例を列挙し、その内容を「要約・分析」で要約させ、さらに「コード作成・翻訳」でそのアイデアを実行するためのプログラムを作成するといったことも可能になる。

まとめ

本稿で紹介しているユースケースはどのような企業にもある一般的な業務を対象とした、主に社内だけでの利用を想定したものとなっている。前述のとおり、企業内ChatGPTを活用した一般消費者向けのサービスもさまざま業界に登場している。今後の連載では、業界ごとの業務特化、および外部向けサービスとしての企業内ChatGPTのユースケースについて触れていきたい。

  1. [1] 株式会社野村総合研究所, “日本のChatGPT利用動向”, https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2023/cc/0526_1(参照2023年6月1日)
  2. [2] DAIR.AI, “Prompt Engineering Guide”, https://www.promptingguide.ai/jp(参照2023年6月1日)
  3. [3] LangChain, Inc., “LangChain 0.0.190”, https://python.langchain.com/en/latest/index.html(参照2023年6月1日)
  4. [4] Wolfram, “Wolfram Plugin for ChatGPT”, https://www.wolfram.com/wolfram-plugin-chatgpt/(参照2023年6月1日)
  5. [5] Microsoft Partner Network Japan, “Azure OpenAI Developers セミナー”, https://youtu.be/tFgqdHKsOME(参照2023年6月1日)

佐々木 新

通信・メディア業界担当

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※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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