2023.04.17

ChatGPTがもたらす未来の変化

【第2回】ChatGPTの社会的インパクトと可能性

佐々木 新 星野 隆人 

第1回では、ChatGPTを含む大規模言語モデル(LLM)全般について、そのポテンシャルやビジネスでの利用におけるメリット、そしてコスト面に関する課題を解説した。一方、LLMの中でも特に飛躍的な進歩を遂げ注目されるChatGPTの活用には、現状、技術的な制約や倫理的な問題といった現実的な課題や懸念点も存在する。ChatGPTがもたらす革新的な価値を十分に享受するためには、その課題やリスクを正しく理解し、適切な対策を講じることが重要である。
第2回では、ChatGPTを効果的に活用し、ビジネスや組織で導入を検討する際の参考となるよう、ChatGPTの課題と対処法、今後の展望について解説していく。

ChatGPTの影響力

2022年に登場したChatGPTは世界に衝撃を与えた。第1回で見てきたように、LLMを業務などに用いることで飛躍的に効率性やクリエティブ能力の向上を図れる可能性があり、ChatGPTの登場によって現在、以下のような変化が起きている。

1. 機械翻訳の大幅な進歩
ChatGPTの登場で機械翻訳技術が大きく進化した。従来の機械翻訳は単語や短いフレーズに基づくものであったが、ChatGPTは文脈を理解し、より自然な翻訳が可能になった。また、莫大な数のコーパス(辞書のようなもの)や文書を生成するTransformerにより、言語に依らない自然な文章生成が可能になってきている。これにより、国際コミュニケーションの壁が低下し、ビジネスや学術の分野で大きな利益をもたらし始めている。

2. コンテンツ生成の革命
ChatGPTは、高品質な文章生成が可能であり、Webコンテンツ、ブログ記事、広告コピーなどの制作の効率化を実現する可能性が高い。コンテンツ制作のコストと時間が削減され、個人や企業がより短時間で多様なコンテンツを生成できるようになってきている。すでに小説や論文、企業のプレゼンテーションを作成している事例が多数出ている。

3. チャットボットの高度化
ChatGPTを活用したチャットボットは、従来のものと比較して、高度な自然言語理解(NLU)能力を持っている。これにより、顧客対応やサポート業務の効率化が図られ、企業のオペレーションコストが削減されている。また、高度な対話能力を持つチャットボットは、ユーザーとのエンゲージメントを高めることができる。自社の情報と組み合わせて適切な回答を行うチャットボットが出現し始めている。

4. コード生成・プログラミング支援
ChatGPTは、複数プログラム言語のコード生成やプログラミングに関する質問に対応することができる。これにより、開発者がコードの生成やデバッグを効率化し、より短時間で高品質なプログラムを作成することが可能になった。また、プログラミング初学者にとっても、ChatGPTは有益なリソースとなっている。

ChatGPTの応用例と可能性

ChatGPTにはさまざまな分野での活用が期待される。ここからは今後、ChaptGPTの活用が進むであろう分野と、社会に与える変化について見ていこう。

1. 教育・研究分野への貢献
質問に対する回答や課題解決のアシスト、論文や報告書の作成支援などが挙げられる。また、多様な分野の知識を学習しているため、専門家以外の人々にも専門知識のアクセスが容易にできる。ただし、課題論文をChatGPTに書かせる「不届き者」には注意しなければならず、レポートや論文での利用を禁止するなど、大学での対策が相次いで進んでいる。

2. エンターテインメント・ゲームでの活用
対話型の物語やキャラクターの生成、プレイヤーとのインタラクションが向上し、より没入感のあるゲーム体験が実現される。すでにChatGPTを利用した対話型ゲームの上市も検討されている。

3. マーケティング・広告での活用
ターゲットに合わせた効果的な広告コピーの生成や、市場分析、消費者のニーズを把握するためのデータ解析などが可能だ。動画のシナリオやタイトル、効果的なサムネイルなどの作成で用いられている。

4. 医療・健康管理での応用
症状や患者履歴から診断や治療提案をサポートし、医師の労働負担を軽減する。また、健康管理に関する情報提供やアドバイス、患者とのコミュニケーションを助けることができる。個人の秘匿性の高い病状などを問い合わせるセキュリティの高い仕組みが検討されている。またメンタルヘルスの領域での活用検討も進んでいる。

5. ロボット・IoTデバイスのインタラクション向上
自然言語理解能力を活用して、ユーザーの指示や要望を理解し、適切なアクションを実行することができる。今までのプログラムによる動作指示、ノンプログラミングでのユーザーインターフェース(UI)などから、文章や口述での動作指示に移行する。これにより人間の負担も少なく、デバイスもスムーズに作動するため、人間らしいインタラクションが実現される。

6. グローバルコミュニケーションの促進
異文化間の理解を深めるための背景情報を基にした文章生成や、ビジネスや教育の場での自然な対話を行うことが可能になる。また音声ツールとの組み合わせにより、口語での自然なコミュニケーション実現に近づく。

ChatGPTは、このように多様な分野での応用が期待され、活用が進むことで、未来の社会に大きな変化をもたらすことが予測されている。今後、ビジネスでの活用を検討していく中でChatGPTの適応例や可能性、さらには費用対効果を含め継続的に探求していくことが求められる。

ChatGPTの能力と限界:万能ではないAIとしての側面

ChatGPTは、高度な自然言語処理能力により、多くのビジネス用途で活用されているが、その能力には限界があり、いくつかの課題やリスクが顕在化および懸念されている。本項では、ChatGPTの有効性と限界について検証し、ビジネス利用上の注意点や対策について解説する。

1. 学習データの制限
リサーチで利用したい場合、ChatGPTは、本稿執筆時点で最新のモデル(GPT-4)を含め、2021年9月までの情報に基づいて学習しており、それ以降の情報については正確に答えられない。利用者は、最新情報が必要な場合は、他の情報源を参照することが求められる。

2. 不正確な情報の恐れ
カスタマーサポートやFAQ作成に利用したい場合、ChatGPTは不正確な情報を回答する恐れがある。これは、Webなどから収集した学習データに含まれる誤った情報や検証されていない事実に基づいた内容が存在し、それを基に回答が生成されることが原因だ。このため、ChatGPTの回答は絶対的な真実として受け止めず、必要に応じて他の情報源と照らし合わせながらファインチューニングさせる必要がある。

3. 質問の意図の把握の難しさ(質問力が重要)
ビジネスミーティングでのアジェンダ管理の効率化等に活用したい場合、ChatGPTは質問の意図を完全に把握することが難しい場合があり、そのため質問力が非常に重要だ。曖昧な質問や誤解を招くような表現に対しては、予期しない回答が導き出される可能性がある。そのため、質問の意図をChatGPTが理解しやすいよう、人間側の質問力を向上させることで、より適切な回答が得られる可能性が大幅に向上する。

4. 著作権侵害のリスク
マーケティングコンテンツの作成等に活用したい場合、ChatGPTが生成した文章が既存の著作物と酷似してしまうケースがあり、著作権を侵害する恐れがある。この問題に対処するためには、生成結果のチェックや著作権法に関する知識が必要となる。
現在OpenAIはChatGPTで生成された文章などの著作物に対して権利保有を主張している。ただしAIが生成する文章など著作物の権利(著作財産権)に関しては今後、議論や法整備が行われるものと考えられる。

5. 不適切な言動や差別的な表現
ソーシャルメディアマーケティング等で利用する場合、インターネットなどの一般情報が学習材料やコーパスとなっているため、一部に不適切、差別的な文章が生成される問題が発生している。これらの問題に対処するために、データのクレンジングやモデルの改善が求められる。OpenAIをはじめ、LLM各社ではこの問題を非常に重要視し、クレンジングに関するアルゴリズムの開発を進めている。

6. データセキュリティの課題
顧客サポートシステム等で利用したい場合、ChatGPTが個人情報や機密情報にアクセスする恐れがあり、プライバシー保護や情報漏えいのリスクが懸念されている。これに対処するために、適切なデータ管理ポリシーの策定やアクセス制限、データ暗号化技術の利用、そしてデータの分離・匿名化など、データの取り扱いに関するガイドラインやセキュリティ対策を実施することが重要となる。

総じて、ChatGPTは多くの分野で優れたパフォーマンスを発揮するが、現在ではその能力には限界があるといえる。その限界を理解し、適切な使い方をすることで、ChatGPTを有益なツールとして活用していくことが望まれる。最新情報や確かな知識が求められる場合においては、他の情報源と併せてファクトをきちんと確認・理解して、上手に利用することが賢明だ。

AIに対する社会的な問題

AI技術の発展は、多くの分野で革新をもたらす一方で、社会的な問題も引き起こしている。バイアス、倫理、各種権利、コストなど、さまざまな課題が存在し、それらに対処するためには、今後の取り組みや社会的ルールの整備が不可欠である。筆者らは、AIに関連する社会的問題に焦点を当て、課題解決に向けた取り組みやルール整備の必要性を検討した。ここで、具体的な10の項目を提案し、これらを通じて、AI技術の持続可能で公平な発展を実現するための道筋を示す。

(1)データバイアスと公平性
  バイアスのないデータセットとアルゴリズムの透明性が重要
(2)情報セキュリティとプライバシー保護
  適切なデータ管理とセキュリティ対策が必要
(3)著作権・知的財産権の課題
  現行法の見直しと法的枠組みの整備が求められる
(4)雇用への影響とスキル再編
  労働市場の変化に対応するためのスキルの再編成と再教育が重要
(5) 教育・研修の必要性と新カリキュラム
  AI知識、倫理、データ解析スキルを含む教育が必要
(6) 情報フィルタリングと偽情報への対処
  誤った情報の拡散リスクに対する適切な対策が求められる
(7) エネルギー消費と環境への影響
  データセンターとAIシステムの省エネルギー化、持続可能なエネルギー利用が重要
(8) AI技術の民主化とアクセスの平等性
  民主化、アクセス平等性、オープンソース技術、教育プログラム普及がデジタル格差縮小に重要
(9) 国際協力と規制の標準化
  各国の政策・法制度調整と国際ルール策定がAI技術のグローバル発展に重要
(10) 倫理ガイドラインとAI開発の責任
  倫理ガイドライン策定と開発者・企業の責任を持つ適切な取り組みが重要

AIがもつ社会的な各課題に対処し、社会的ルールを整備することで、人工知能が持続可能で公正な社会に貢献できるよう、現在関係者が議論を進めている。今後の取り組みや法制度の整備が、この分野の発展に不可欠であり、国内の法整備も進むものと考えている。

まとめ

AI技術は急速に進化し、ビジネスにおいても多くの分野でその応用が拡大し、新たなビジネスが日々生み出されている。さらに、汎用AI(AGI)の発展により、人間のような知能を持つ機械がさまざまなタスクをこなすことで、従来のビジネスモデルへの革新的な変化がが期待される。ロボットがまるで人間のように話したり、絵を描き壁に映し出したり、街中の写真を使って、まるで一緒に歩いているかのようにわかりやすく道案内をするような日も遠くないであろう。

しかし、利便性とともにデータバイアスや情報セキュリティ、著作権・知的財産権、雇用への影響など、ビジネスにおけるさまざまな課題が浮き彫りになっている。これらの課題に対し、企業は社会的ルールや倫理規範を遵守し、法制度や業界の取り組みを常に注視しながらビジネス創出、創造を図っていくことが重要だ。
本稿が、ChatGPTをはじめLLMをビジネスに活用するうえで、注意点や対策を踏まえた最適な戦略立案の一助となれば幸いである。
 

佐々木 新

通信・メディア業界担当

マネージャー

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

星野 隆人

通信・メディア業界担当

コンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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