2024.04.01

当事者目線で考える女性活躍推進の在り方とは

【第2回】ワーキングママ・パパの活躍を支える施策

冨谷 侑加  

こんなにも育児が、育児と仕事の両立が大変だとは想像していなかった。
筆者は昨年4月に復職し、この約1年間、日々分刻みで育児・仕事・家事に追われる生活を送っている。子供を寝かしつけた後が唯一の自分時間となるのだが、残っている仕事や家事に時間を使うため、純粋な自分の時間=睡眠時間のみという生活である。ただでさえ心身共に疲労が蓄積し続けている中で、子供の体調不良による急な早退や休暇取得、自身の体調不良も重なった場合には、さらに状況は厳しいものとなる。これまで何度も絶望感や罪悪感を抱いてきたのだが、未就学児を抱える家庭は皆このような生活や感情を抱いているのではないだろうか。

本連載では、女性活躍推進はどうあるべきかを3回にわたり解説する。今回は第1回の続きとして、女性活躍推進の実現に向けた基本的な進め方「STEP3施策・制度設計の進め方」について解説し、後半では子育て中の筆者らの実体験を基に「ワーキングママ・パパの活躍を支えるために有効な施策」に関して提言したい。

女性活躍推進の「施策・制度設計の進め方」

第1回では、女性活躍推進の実現に向けた基本的な進め方4ステップ(図1)のうち、Step1、2について述べた。第2回では、Step3「施策・制度設計」を解説する。

図1:女性活躍推進の進め方4ステップ

 

まず、Step1、2の「目的・あるべき姿の定義」および「KPIの設定」が完了したら、次にその達成に向けて具体的な施策や制度を検討する。
表1は、女性活躍推進に関する制度・施策の一例だ。対象となる施策・制度は、各種人事制度の見直しの他、人材マネジメントの在り方、働き方・業務の進め方の見直し、社員の意識改革等、多岐にわたる。実施すべき施策や実施施策の優先度は、各社の状況によって異なるが、以下3つのポイントに留意し検討していく必要がある。

  1. 人事制度の設計だけでなく、女性本人・上司・同僚等、職場の意識醸成に関する施策も併せて設計する
  2. 施策・制度の内容だけでなく、定着・継続運用に向けたロードマップや今後の進め方等、実施計画も併せて策定する
  3. 当事者にとって有効な施策・制度となっているか、必要に応じて当事者の意見を聞きながら設計する

表1:女性活躍推進に関する制度・施策(例)

 

特にポイント③の「当事者の視点」は抜けている場合が多く、当事者の視点が抜けた制度・施策はやがて形骸化するため、考慮漏れがないように注意が必要だ。制度・施策には、会社・人事部門視点で検討した方が良いものと、当事者視点で検討した方が良いものがあるため、後者については、当事者へのヒアリングやワークショップ等によりその意見を聞いた上で設計を進めていくことが望ましい。ここでワーキングママ・パパ当事者の視点から「ワーキングママ・パパの活躍を支えるために有効な施策」を提言したい。

ワーキングママ・パパの活躍を支えるために有効な施策

育児の大変さは、3つの要素(①子どもの特性 ②親のキャパシティ ③周囲のサポート)で決定すると考えている(図2)。人によって育児の大変さは大きく異なるが、企業が打ち出す施策は「周囲のサポート」の要素(図2の赤枠部分)に有効である。今回は、この「周囲のサポート」の要素に関して、各家庭により共通して有効だと考える施策に言及したい。

図2:育児の大変さを決定する3つの要素

 

育児と仕事を両立する上で、周囲(両親等の頼れる人、企業、自治体、政府等)のサポートは必要不可欠である。こども家庭庁は、2024年2月13日、企業の従業員向けのベビーシッター割引券(ベビーシッターを利用した際の費用を一部補助する割引券)について、前年度の1.8倍にあたる約70万枚を発行することを発表した。とにかく時間がないワーキングママ・パパにとって、育児や家事をサポートしてくれる施策は非常に有効である。

1.育児に対する支援

時間に制約のある当事者が、柔軟な働き方をしながらも生産性を維持するためには、当事者だけでなく、上司や同僚を含めた職場全体での働き方・業務の進め方の見直しが必要である。

①働き方:社員が自身の状況に応じて、働く場所・時間を柔軟に選べる制度を導入する。

  • 働く場所:リモートワーク、コワーキングスペース、サテライトオフィス等、オフィス以外での勤務を社員が選択できるようにすることで、通勤時間を家事や仕事に充てることができる。また通勤による疲労・ストレスの軽減により、時間・精神的・肉体的な余裕が生まれる。当事者にとっては、5~10分の短時間でも非常に貴重であり、このような余裕は生産性の向上に繋がる。
  • 働く時間:短時間勤務やフレックスタイム制を導入することで、子どもの送迎や家事に余裕を持って対応できる等、ワークライフバランスを保った社員の都合に合わせた柔軟な働き方ができるため、就業継続率の向上に繋がる。

②業務の進め方:ワークシェアリングが可能な環境を整備する(業務の非属人化)。
復職後、保育園入園後に子どもが短期間で感染症等に罹り、早退や休暇取得を余儀なくされることも多いだろう。自分の都合だけで時間をコントロールできないワーキングママ・パパにとって、急な事態にもサポートし合える環境の整備が必要だ。まずは、ワークシェアリングが可能な業務を洗い出し、対象となる業務のマニュアル化を実施する。業務は複数人でシェアすると共に、自身の業務状況(担当している作業内容、進捗状況、業務遂行に必要な資料の格納場所等)は常に上司や同僚とシェアできる仕組みを整備することで、スムーズな引き継ぎや作業分担が可能な状況を実現する。

2.育児以外に対する支援

実効的な福利厚生制度として、家事代行・ハウスクリーニングサービスの無料・割引利用制度を導入する。
日々育児と仕事が待ったなしの状況の中で、生活に余裕を生み出すためには、育児・仕事以外の「家庭での時間」へのアプローチも必要である。その時間の多くを占めているのが、日々発生する家事に要する時間だ(睡眠時間は除く)。必ず発生し、かつ代替が可能な雑務は、家事代行・ハウスクリーニングサービスを利用することで削減し、その時間を子どもとコミュニケーションを図る時間・残っている仕事をこなす時間・自分時間(休息時間)・睡眠時間に充てること、また対応時に消耗するエネルギーを削減することで、ストレスや疲労の軽減に繋がり、結果として生産性や就業継続率の向上に繋がる。

3.当事者の心に対する支援

当事者同士が必要に応じてサポートし合える環境を整備する。
当事者に共通しているのは、上記施策にて言及している「とにかく時間がないこと(時間を自分でコントロールできないこと)」「時間がないことによる精神的・肉体的疲労」に加えて、「これらの状況が理解されないことへのつらさ」だと考えている。職場全体でのチェンジマネジメントに向けた取り組みを推進している企業は多いが、これに併せ当事者の心のケアへのアプローチも必要である。当事者が利用できるDBを構築し、DBには、実効性の高い施策・制度の案内、先輩ママ・パパのノウハウ等各種情報の掲載や、当事者同士が気軽にコミュニケーションを図れるチャットスペースを整備する。育児の大変さを経験している当事者だからこそ分かる悩みや不安に関してサポートし合い、心の不調に上手く対処してくことは、就業継続率の向上に繋がる。

おわりに

本稿では、ワーキングママ・パパの活躍を支える施策を3つの視点で提言したが、当事者が仕事と育児を両立し働きやすい環境を整備することは、介護が必要な社員等、その他社員にとっても働きやすい環境の実現に繋がる。労働人口が減少し優秀な人材の確保が難しい現在において、誰もが働きやすい環境を整備し、退職を防ぐことは非常に重要である。
次回の第3回では、制度・施策の活用・定着を支えるために必要なチェンジマネジメントについて解説する。

冨谷 侑加

人材マネジメント担当

シニアコンサルタント

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