2024.04.25

当事者目線で考える女性活躍推進の在り方とは

【第3回】女性活躍推進を成功させる“意識改革・チェンジマネジメント”

辰巳 綾夏 

17時30分。読者にとって何を思い描く時間だろうか。
日が沈む?終業時間?帰路の電車のスマホタイム?自己啓発の時間?今日最後の会議?
いや、私を含め、未就学児を持つ多くのワーキングパパ・ママにとっては、夜育児開始のゴングが鳴る時間である。
多くの保育園の標準預り時間は18時まで。お迎え~寝かしつけるまで、また今夜も全力疾走のスタートだ。

さて、育児当事者における17時30分以降のこの姿は、読者の“意識”の中に当然のものとしてあっただろうか?
“意識改革”には、 このような日々の小さな“意識の違いを埋めていくこと”が肝要である。

【はじめに】女性活躍推進の「施策・制度設計の進め方」の振り返り

女性活躍推進の進め方は、図1のように大きく4ステップある。Step1、2については連載第1回、Step3については第2回の記事で解説した。最終回となる本稿では、Step4「チェンジマネジメント」に焦点を当てる。

図1:女性活躍推進の進め方4ステップ

 
 
このような話をよく耳にする。
「目的・あるべき姿の定義およびKPIの設定、具体的な施策や制度の検討も完了、導入した。でも思うように成果が上がらない。家事や育児・介護等、諸所の事情がある女性でも活躍できるような仕組みを整えているはずなのに」
さて、成果が上がらない理由は何だろうか。

【女性活躍推進が進まない!最大の要因】:役割バイアス

最大の阻害要因が、上記の「家事や育児・介護等、諸所の事情がある女性でも」の表現に含まれていることに、読者は気づいただろうか。従来の日本社会における男女の役割バイアスのない人は、違和感を覚えたはずだ。
筆者の意見としては、「男は外で働き、女は家を守る」という、日本の昔からの男女の役割分担は合理性が高いと考えている。但し、その合理性は「女が外で働かない」場合に有効であり、共働きであれば「男女共に外で働き、男女共に家を守る」ように役割の切り方が変わる。ただ日本で共働き世帯が急増したのはここ数年であるため、そもそもこれらを役割バイアスであるとして認識できていない管理職もまだまだ多いことだろう。
女性活躍推進の制度や施策は、役割バイアスがかかったまま作られている社内の制度を是正し、性差による「不当な遅れ」「不当な扱い」を是正する機能だと筆者は理解している。

しかし、ここにもひとつ問題がある。それは、上述した通り、この「役割バイアス是正制度」を推進する権限を持った現管理職世代に、バイアスを認識していない= “自身でバイアスを外せない”人が多数存在することだ。
 
筆者が女性の友人たちから聞いたある企業の例を伝えたいと思う。両企業とも、女性活躍推進に取り組んでいる。

  • A企業:一般職→総合職への転換を推進している企業。オフィスの流し台の掃除当番は女性だけが担当している(男性は担当しない)
  • B企業:女性管理職比率の向上に取り組んでいる企業。事務方の女性管理職が管理職会議に出席したところ、「お茶は?」と言われた

大々的な制度や施策が動いている一方で、上記の例のように日常では全く悪気もなくバイアスがかかった行為や発言で溢れており、企業の方向性と矛盾が生じている。これでは、社員側から信用されず、制度・施策そのものが形がい化していくか、狙い通りの成果までは至ることができない。
当然ながら、当事者である女性側は制度と実態の乖離に気づく。なお余談ではあるが、このエピソードを教えてくれた友人たちも、A・B企業内で女性がキャリアアップすることは難しいと感じ、別の企業へ転職して活躍を遂げている。A・B企業の女性活躍施策にとっては痛手であるが、企業側は彼女たちが退職した本当の理由に気づかない。
 
A・B企業は極端な例かもしれないので、もうひとつ例を挙げよう。読者の企業でこのようなことはないだろうか。

  • X企業:社内活性化施策として、知識・情報共有の場を設ける。皆忙しいので、全社員が参加できるように、業務終了時間付近の17時過ぎか、業務終了後の18時以降開始にしよう。

是非、リード文に戻ってほしい。17時30分には夜育児に向けた全力疾走開始のゴングが鳴っている人がいるのだ。
ここに隠れた役割バイアスがかかっていることに気づいただろうか。“皆忙しい=皆業務で忙しい”、“全社員が参加できる=全社員、業務終了付近なら空いている”、つまり、「家を守る役割の人は、外で働いていない」という役割分担のバイアスがかかったままであることに。

【女性活躍の促進に向けた意識改革ー役割バイアスの払拭】1. 取り組みの本質探求×2. 仕掛け×3. 草の根運動

企業の女性活躍推進制度・施策立案時によくあるケースとして、人事部に女性活躍推進施策を考えさせ、経営層はその検討内容を聞いて決裁し、運用はまた人事部に任せる企業が多いと感じる。このプロセスの中で、経営層の役割バイアスは解消されているだろうか?制度や施策の内容だけを見て、その本質を理解できていないままに決裁されていないだろうか。
 
まずは経営層~管理職の役割バイアスを外すための取り組みを3つの観点で紹介する。
 
【1. 取り組みの本質探求】「何故、今女性活躍推進に取り組む必要があるのか」を決裁者の言葉で表現してもらう
前述のA、B、X企業例を参考に是正すべき社内の取り組み等を洗い出し、それらの内容について決裁者はどのように考えるか、問いかけると良いだろう。そして回答に至った理由、詳細、他に気になる点は無いか、など、掘り下げて質問しよう。これにより“決裁者自身では外せない(気付いていない)バイアス”を外すきっかけ作りになる。
 
【2-(1)仕掛け】女性活躍推進のターゲットに関するデータを集める(People Analyticsを用いた例)
NTTデータの事例で、育児中の女性管理職の労働状況を調査したところ、他の属性と比べ、1日当たりの労働「時間の長さ」よりも、「時間帯」に大きく差があったことや、時短勤務者は昇格前提試験の「合格率」ではなく、「受験率」が低いことがデータとして示された。このように、データから女性活躍推進を阻害している可能性の高い要因を特定できれば、経営者や管理職も是正の必要性を認識しやすいだろう。
 
【2-(2)仕掛け】テーマ別コミュニティを複数同時に立ち上げ、「拡散」「推進」する
制度や施策を作っても、知られていなければ意味がない。知られていても使われていなければ改善が必要だ。どちらにしても、社員の声が必須となる。例えば「ライフイベントと向き合う」「育児中(未就学児・小学生・受験前など)」「介護中」「管理職になりたい・なりたくない」「優秀な女性部下を持つ管理職」などといった多様なテーマ別でコミュニティを立ち上げて、各コミュニティ内で集まった“当事者”の声を社内報や関連するコミュニティ・社内会議などで公表する。情報の拡散が目的であるため、コミュニティが孤立しないよう、複数同時に運営し、コミュニティ間の情報連携も図ると良いだろう。これにより、当事者のみならず“非当事者”へも情報を拡散でき、課題感の認知等につながる。同時に、そしてここで顕在化した課題等については企業制度や施策の見直しにつなげることが重要だ。着々と改善サイクルを回して欲しい。
 
【3. 草の根運動】施策に該当する女性候補を、管理職を通じて探す
もし役割バイアスによる女性活躍阻害要因を特定できたならば、管理職に対し問いかけ続けるといった草の根運動も必要だ。例えば女性であること、育児中であることなどが理由で管理職候補から外されてしまっているケースであれば、「部下に管理職候補の女性はいませんか?」、「育児中でも高い成果を上げている人はいませんか?」など、今までの役割バイアスによる思い込みを覆せるような問いかけ方が良いだろう。そもそも昇進=時間的に自由に労働できる男性を優先すべきという思い込みもあり得るため、もしそのようなバイアスが見つかった場合は、定期的に何度でも問いかけて意識づけすることがポイントである。
 
筆者は基本的に在宅勤務×フルタイムだが、月に1度出社する日がある。
夫は他社の管理職で完全出社型×フルタイムだが、その日だけは保育園のお迎えのため、会社を早退して帰路につく。その夫も、朝早く出て夜遅く帰宅するために第1子がなかなか懐かなかったにもかかわらず、第2子出産の際もいまだ男性の産休取得に抵抗を感じるといった役割バイアスの持ち主だったが、日々の帰宅も早まり、家事育児分担も大幅に見直しがあり、家庭単位でのバイアス是正は少しずつ進んでいる。しかし“企業“単位ではどうだろうか。
18時以降の社内活性化施策の運営を頼もうとしているあなたの部下も、妻の仕事の都合で早退する必要があるかもしれないので、くれぐれも気を付けて欲しい。

おわりに

「女性活躍推進の在り方」について、シリーズ3回を通じて解説してきた。
女性活躍推進の本質とは、「女性をただ優遇すること」はなく、「性差による不平等や機会損失を無くし、全社員を活性化することで、経営基盤を確固たるものとする」ことである。貴方の日々の努力による意識変革の成果は、やがて社内の常識となるだろう。
 
「女性活躍推進」との単語そのものが違和感となる日をイメージしながら、その実現を目指して取り組んで頂きたい。

辰巳 綾夏

人材マネジメント担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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