QUNIE

2020.09.18

Withコロナ/Afterコロナにおける製造業の海外事業再構築

【第1回】米国市場をターゲットとした製造業のビジネスシフト

リージョナルサプライチェーン構築拠点としてのメキシコ

宿谷 俊夫 

Summary

  • 米中貿易摩擦と新型コロナウイルス感染症蔓延の影響により、中国で製品を作り米国向けに販売するような製造業のビジネスモデルは、“自ら解決できない“グローバルサプライチェーンの停滞リスクに直面している
  • 多くの日系企業が進出してきた東南アジアは、“自ら解決すべき”課題も多く、さらに米国への輸送費や人件費等のコスト、米国の品質基準や規制への対応力の観点から、米国向け製造拠点としては困難が伴う
  • 米国市場に対し、リスクを抑制したサプライチェーンを実現するには、同一経済圏であるUSMCA、特に人件費等のコスト面にも優れたメキシコを生産拠点としてサプライチェーンを再構築することが一つの選択肢になる

製造業のグローバルサプライチェーンに潜むリスク

筆者らが携わる中国や東南アジア、欧州などの製造拠点改革プロジェクトにおいて、各製造拠点で生産された製品の一定数は当該域内だけでなく、日本はもちろん米国へも3国間貿易などで輸出されていくことが見受けられる。

したがって、筆者らは、一海外拠点についての活動を顧客に依頼されたとしても、単一拠点だけのビジネスやITの状況を分析するのではなく、複数国にまたがる有機的な経済活動の一つの機能として、当該拠点を捉えた視野でのコンサルテーションを行うことが必要になる。

そのような経験を重ねてくると、中国をはじめとした新興国の人件費などのコスト高騰、それに伴う新興国工場の労働集約型からの脱却とその困難さが、将来の日本製造業のビジネスに禍根を残すだろうことに当然ながら気が付く。最近では、これに付け加え米中の貿易摩擦、そして今回のコロナ禍が加わり、リスクの高まりは加速度を増していると考える。

本連載では、こうした現状をふまえて、米国を主眼とした製造業の海外事業戦略の考え方から、その戦略を実現するためのメキシコ拠点の優位性、メキシコ固有要件を含む業務プロセスやシステム、各種ITはどのように設計・構築していくのか、さらには工場などの建設や設備装置の整備の具体的なポイントを解説していく。

中国の工場と米国市場

海外マーケットで最も重要なところは米国である、と位置付ける日本企業は多いだろう。しかし、中国に大きな工場を設立し、そこから米国に輸出するグローバルサプライチェーンを構築しているいくつかの会社では、昨今の関税政策によってすでに大きな痛手を負っているともいう。そして今回のコロナ禍では、中国のロックダウンが終了し、中国工場にある程度労働人口が戻ってきたとしても、米国のロックダウンが始まると米国市場が閉じられ、結局輸出ができない、さらに米国のロックダウンが解除されても再度感染爆発が起こったりするという事態も予測される。各企業は、このような“自ら解決できない”問題に直面していると言え、気が遠くなるほどの時間をひたすら耐え忍ぶしかない状況に置かれているのではないだろうか。

では、少し時間が経てば米中貿易摩擦も妥結点を見出し、新型コロナウイルス感染症も沈静化され、これまでと同じく世界の工場である中国で生産し、米国へ製品を売る、という日常が戻ってくるのだろうか。答えがYesであるならばビジネスの構造を変える必要がなく楽なのだが、少なくとも経営側としては願望で戦略を立てるべきではないだろう。

米国市場の回復が大前提にはなるが、これからの時代、どのように米国市場へアクセスすれば、リスクを抑制しつつ一定の成果をあげることができるのだろうか。

東南アジアの工場と米国市場

東南アジアが中国に代わる将来の製造拠点の一つであると位置づけることは、不可能ではないと考える。数字の精度に誤差はあるかもしれないが、新型コロナウイルス感染者数も比較的少なく、日本企業の工場や販売拠点もすでに非常に多く展開しており、一定の成果をあげている。

とはいえ、インドネシアなど東南アジアにおいてすでに日本企業が展開している地域では、人件費や光熱水費の高騰、内部統制上の問題などが散見され、設備投資の抑制による製造設備の老朽化が著しく、歩留まりが悪化している場合もある。また、米国への輸出のリードタイムが長く、そのため、在庫切れおよび機会損失のリスクを低減するために米国販社などで在庫の上積みをせざるを得ない状況がある。

筆者らは重要な課題(またはその兆し)が存在する拠点の分析や改善活動を依頼されることが多いが、東南アジアの日本企業の拠点においては、“自ら解決すべき””自拠点の課題を解消することで手一杯であり、米国向けの品質基準や各種レギュレーションを満たしつつ、米国のニーズに合致した製品を生産することが非常に困難な状況にあることが多い。この状況を打破するには、現地法人でなく本社によるテコ入れの戦略と、それを裏付けする予算の確保が大前提となる。

また、日本製造業は欧米の企業と比較してグローバルサプライチェーンの構築があまり得意でない場合も多い。当該国のサプライヤーから原材料を購入し、当該国で製造し、そのほとんどを当該国で販売する、といった地産地消型のビジネスをとっていることが多く、あまり東南アジアを米国と結びつけるサプライチェーンの構築に積極的ではない。そのため、企業の考え方としては米国向け製造拠点として東南アジアを位置付けることは難しいだろう。

USMCA(新NAFTA)経済圏内におけるサプライチェーン構築

コストを抑えつつ米国市場へのアクセスがいい製造拠点となると、地理的に近接したUSMCA経済圏、中でも人件費等の面からメキシコが考えられる。

これまでも日本企業は比較的小規模な工場などをメキシコに設立してきた経緯がある。だが、日本のような成熟した国における工場と比較すると、一部の工程のみをメキシコに移管する場合もあり、あまり戦略的な製造拠点として位置づけられているとは思えないケースが見受けられる。

メキシコは日本人があまり話せないスペイン語圏であるし、文化も異なり、治安面でも不安に感じられることがあるかもしれない。しかしながら、NAFTAからUSMCAと中身は変われども貿易圏としては歴史のある、比較的状態の安定した地域であり、かつサプライヤーのサプライヤーから、顧客の顧客までの距離を近くしうる地勢を活かし、リージョン内での地産地消型のサプライチェーンを構築していけば、不安定さを十分に抑制しうるビジネスを展開できるのではないだろうか。

メキシコシティには、成田からの直行便であれば14時間程度で到着する。メキシコに進出している日本企業の多くは、日系または日本企業が多く集まっている工業団地に立地していることが多い(特にメキシコに限ったことではないが)。つまり、言い方を変えれば、中国や東南アジアと比較して進出している会社数は少なく規模は小さいかもしれないが、それらの国々と同様の環境がすでに存在しているということである。例えば、近郊の工業団地に多くの日本企業が進出しているメキシコ第三の都市であるモンテレイは、米国国境まで200キロあまりの近さであり、多くの現地ビジネスマンが米国向けのビジネスを企図する空気が醸成されている。

とはいえ、実際に製造拠点を設置する際には、もちろん困難が付きまとう。工場や販売拠点の立地はどこにするのか。そもそも自前で進出するのか、それともM&Aや合弁か。サプライヤーはどの会社にするのか、製造オペレーションや品質検査などの業務をどうやって一から作り上げるのか。情報システムも必要であるし、サーバーなどのインフラ構築も必要になるかもしれない。特に、良い現地人材を採用するにはどうしたらいいのか。悩みは色々と沸いてくる。

また、日本企業は拠点ごとのシステムを構築することが多く、事業ごとで異なる場合もあるが、グローバルにシステムの連携ができていないことが多々ある。例えば、米国などの販売拠点が自拠点のシステムで作成したPO(Purchase Order:注文書)をPDFに落として中国などの製造拠点にメールを送信する。製造拠点ではそれをExcelなどで他販売拠点からのPOとマージし、自工場のシステムで製造計画を更新し、在庫を引き当て、納期の回答を再びメールで各拠点へ送信する。こうした手作業が随所で発生しているのだ。このような拠点最適の視点ではなく、グローバルなシステムを有機的に連携させる業務プロセスの設計と、それを可能とするアプリケーションアーキテクチャの構想およびその実装がビジネスの土台として必須のものになると考えられる。しかし、日本企業ではそういった構想を持つ企業もそう多くはなく、実現には困難が付きまといがちであるように見受けられる。

本稿で主眼としてきた、米国市場に向けたメキシコという考え方を実践するためには、これまで述べてきたようにメキシコ拠点の戦略的位置づけや、標準業務プロセスとアプリケーションアーキテクチャの構想と導入、定着化などをグローバルの視点から検討しつつ、メキシコローカルの法制度や商習慣に合致した人事、経理制度、税務報告、その他諸々の各種ルールを議論していかねばならない。特に、物流や人事、会計などにおいては、メキシコ独特の法制度・商習慣を踏まえた法令・コンプライアンス対応が必要となる。今後の連載ではその詳細についても述べていきたい。

おわりに

これまでコロナ禍という言葉を何度か使ってきたが、これらの言葉を読み飛ばしたとしても筆者の論述の方向性は変わらないと考えている。昔から、“アメリカがくしゃみをすると、日本が風邪をひく”などと言われてきた時代があったが、最近は“中国がくしゃみをしても日本が風邪をひく”こともあるかもしれないし、世界のどこかで感染症が流行れば、グローバル経済が風邪どころではない影響を受ける。さらに世界中の政治的指導者の政策による重大な影響もある。このような予測が困難な環境のなかで、企業はビジネスをグローバルに展開、拡大し収益をあげていかなければいけない運命を背負っている。そのためには、リスクを最小化しうる視点でビジネスをもう一度見直していくことが必要となると筆者は考えている。

本稿では米国市場をターゲットとした製造業のビジネスシフト、リスク抑制について述べてきた。とはいえ、今後も中国市場の開拓が重要であるという会社、業界や、東南アジアへのさらなる投資を必要とする会社など、企業戦略は多様なものがある。このような米国または米州以外へのビジネスについても、別の機会に述べていきたい。

宿谷 俊夫

グローバルITマネジメント担当

マネージングディレクター

国内のみならず米州・欧州・アジア現地を含むグローバルプロジェクトにプロジェクトリーダーとして多数参画し、日本企業の海外製造拠点や販売会社立ち上げに関する戦略立案からグローバル標準業務プロセス・ルール策定、グローバル標準テンプレート(各種ERP)導入・展開、ITガバナンス構築までのコンサルティング活動を手掛ける。

  • facebook

ページ先頭へ戻る

CLOSE