QUNIE

2020.10.30

Withコロナ/Afterコロナにおける製造業の海外事業再構築

【第2回】新規拠点におけるビジネス立ち上げのためのアプローチ

ビジネスモデルを軸とした業務プロセス視点、ITシステムの視点

湊 貴也 

Summary

  • 変化の激しい事業環境において、グローバルサプライチェーンの停滞リスクに対応するための海外事業再構築を実現するには、事業拠点の移転・新設を速やかに実行し、ビジネスを素早く立ち上げることが重要となる
  • 新規拠点のビジネスを支える業務プロセスの策定とITシステムの選定・導入には、ビジネスモデルの視点をもって取り組むことが欠かせず、また拠点設立先の法令や商慣習などへの対応も求められる
  • これらの実行には、各領域で知見やノウハウを持つ複数のパートナーとの協業が有効である一方、整合性を保ちながら各種取り組みを推進する水先案内人の役割を社内外から探し据えることも重要となる

変化対応のカギとなる迅速な拠点立ち上げ

変化の激しい事業環境において、製造業はグローバルサプライチェーンの停滞リスクを織り込んだ事業戦略の立案が求められている。たとえば、これまで一定地域に集中していた製造拠点の分散によるサプライチェーンの多重化や、ターゲットとする市場により近い地域での調達・生産・販売の完結を目指すリージョナルサプライチェーンへの移行などが考えられるが、いずれの方策も製造拠点の移設や新規設立を伴う。そのため、いかに速やかに拠点のビジネスを立ち上げ軌道に乗せるかが、激しい変化の中で事業継続性を維持し、競争力を向上するための成否を握るといっても過言ではないだろう。具体的には、業務プロセスの策定とそれを支えるITシステムの迅速な構築が求められる。また、昨今の政治・経済・社会の動向に鑑みると、既に日系企業の進出が進む中国・東南アジアとは異なる国や地域を拠点移設・新設先の候補地とすることも充分に考えられ、一般的に知見の浅い法規制や商慣習などへの対応が必要となる。

本稿では、海外に拠点を新設しビジネスを立ち上げるために必要な業務プロセスの策定、ITシステムの選定・導入のアプローチと、そこで重要となる視点、また海外固有要件に対応するための要諦について、新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえながら、筆者の経験などを交えて解説していく。

ビジネスモデルに立脚した業務プロセスの策定

新規拠点の業務プロセス策定には、モデルとなる拠点の現状業務プロセスを調査・分析し、可視化することから始めるのが有効である。筆者がこれまで携わってきた案件では、製造業の業務機能を網羅的に記述したBFC(Business Function Chart:業務機能一覧)や、部署間の連携なども含めて業務手順を可視化したBPF(Business Process Flow:業務プロセスフロー)等の資産を活用し、最短で3週間程度でモデル拠点の業務を可視化してきた。

ここで整理・可視化したものをもとに、新規拠点の業務プロセスを策定していくが、この際に重要なのがビジネスモデルの視点である。現状業務の中には非効率な手順や規定が残っていることがある一方、競争力の源泉となる知見やノウハウが蓄積されているものも多くあり、ビジネスモデルの視点からそれらを取捨選択することが重要となる。

メキシコの新規製造拠点立ち上げの事例を見てみよう。ある大手輸送機械製造業は、北米工場の分散先としてメキシコに新規拠点を立ち上げようとしていた。そのため、まずは既存の北米拠点の現状業務を調査した。そこでは、希望納期の2週間前を受注数量確定期限とするのが原則だが、実際は期限を切った顧客のオーダー変更にも柔軟に対応するため、生産計画担当者と製造ライン担当者が随時相談し、いわば職人の勘と阿吽の呼吸で、ライン作業者の人数を調整したり、使用する生産ラインを変更したりしていた。その結果、当該製品の市場シェアを20年以上にわたり拡大し続けていた。

このような生産計画の調整業務は北米工場の競争力の源泉だが、メキシコ新規拠点でも同様の業務プロセスが必要だろうか。

メキシコ拠点は、北米の生産量の一部を毎月定常的に生産・供給しつづけることで、安定した利益を確保し、北米の生産キャパシティに余裕をもたらすことが目的とされた。このことから、生産計画の確定を直前まで引き付ける必要性は低く、それよりも安定供給のための品質管理業務などがより重視された。そのため、生産計画の業務プロセスはより簡易で、従業員の業務負担の軽いものにつくりかえた。

このように、同じ顧客向けに同じ製品を製造する場合でも、どのようなビジネスを営むかにより必要な業務プロセスは異なる。単純に現状を当てはめるのではなく、新規拠点に必要なものを取捨選択し、具備すべき業務機能の種類や複雑性を検討するためには、ビジネスモデルの視点が欠かせないのである。

業務機能起点と適材適所のITシステム選定・導入

ITシステムの選定・導入において起点とすべきは業務プロセスと業務機能であり、それらをカバーするシステム機能が備わっているものを選択していく。業務機能・業務プロセスを可視化したBFCとBPFをITシステム導入のパートナーに提供し、各社の推奨するITシステムとの機能適合性を評価することで、自社に適したものを選定していく。

BFCやBPFといった形で可視化した文書類を使うことにより、業務要件の認識のずれを防ぎ、より効率的にITシステムを選定できる。筆者の経験したプロジェクトでは、海外のパートナー候補5社にBFC・BPFを提示して適合性診断を実施し、オンライン会議などを交えながら完全リモートで選定を行ったこともある。新型コロナウイルス感染症の影響で移動制限が課される中、プロジェクトを進めるうえで有効な手段と言えるだろう。

現在は購買、販売、在庫、会計などの基幹業務をカバーする機能がパッケージとして備わる基幹業務システム(ERP)がソフトウェアベンダー各社から提供され、またERPをすぐに利用できるよう事前セットアップが施されたテンプレートも用意されている。適合性診断の結果、自社業務とERPに乖離がある場合、業務プロセスをシステムに合わせて変更するのか、業務プロセスに合わせてシステム機能を追加開発するかを判断する。ここでの判断基準となるのも、ITシステムを利用する拠点のビジネスモデルの視点である。

ビジネスの競争優位に影響の少ない領域の業務プロセスについては、より早く比較的低コストでITシステムを導入するために、ERPやテンプレートに合わせて業務そのものを変えることが有効となる。一般的に間接材購買や会計などは、ITシステムに業務を合わせることでシステム化の効果を得やすい。一方、自社の競争優位の源泉となる領域の業務プロセスは、必要なシステム機能の追加開発や業務に合った別システムの導入を検討する。

一例をあげると、生産計画において、ERPの生産管理機能だけでは、設備やライン従業員などの操業キャパシティの上限値を設定できないなど、日々の生産スケジューリング策定には機能が充足しないことが多くある。また、機能自体は備えていても、それを使用するには設備ごとの生産能力値や従業員の勤務シフトなどの登録に加え、システム上の種々のパラメータを設定する必要があり、IT部門の人員が少なくなりがちな海外拠点では実運用に耐えられないこともある。そのため、生産スケジューリングの機能が充実しており、なおかつ実業務の運用にも適うITシステムを別途導入し、ERPと連携することで、業務の強みを維持したうえでのシステム化を選択する場合もある。

いずれにおいても、ITシステムは業務プロセスを起点に、実際に運用する際の負荷も考慮した上での、適材適所の選定が重要となる。その際も、ビジネスモデルの視点で判断軸を持つことで、業務プロセスに資するITシステムを選定することができるのである。

現地固有要件対応におけるパートナー探しと協業

ここまで新規拠点ビジネス立ち上げにおける業務プロセスとITシステムの構築とそこで重要な視点を解説してきたが、これに加えて避けられないのが、拠点を立ち上げる国・地域の法令、商慣習、文化への対応である。

新興国も含め、海外ではビジネス上の各種手続きのために専門の現地サービスプロバイダーとの契約や、専用ツール・ソフトウェアの利用が事実上義務付けられている場合がある。本連載で取り上げているメキシコでも、請求書の発行や一次輸入の保税手続きには、政府機関が定めた電子署名や電子データ送受信が求められ、これらサービスを提供する政府認定のプロバイダーとの契約がデファクトスタンダードとなっている。また、法制化されているもの以外にも、例えばその国の労働観や慣習を考慮した人事制度を設計しなければ、従業員が定着せず安定的なビジネス運営が困難となる。これらの情報収集、業務プロセスやITシステムへの反映を怠ると、保税の取り消しや従業員との労働争議など、思わぬコストを支払うことになりかねない。特に新興国では、これらの法令は変更の頻度が高く、常に最新情報の収集が必要となる一方で、日本語の情報は限られており、また日本語で提供される情報が自社のビジネスに必要十分とは限らない。

思わぬ落とし穴にはまらないようにするためには、自社のビジネスに関係する事項を洗い出し、特定の一社に依存せず、各分野で知見や支援実績のあるパートナーを探すべきであろう。また同時に、パートナー各社の動きと業務プロセス策定やITシステムの選定・導入などの活動について、互いに整合性を取りながら進めるための水先案内人の役割を社外も含め探して据えることも重要となる。

おわりに

本稿では、製造業が海外新規拠点のビジネスを立ち上げる際のアプローチとそこで重要となる視点を解説してきた。新規拠点の立ち上げを経験したことのある読者にとっては、当時の苦労が思い出される内容もあったのではないかと思う。

業務やITシステムは陳腐化していく。筆者もこれまで、誰もが非効率に感じている業務プロセスがなぜそのようなやり方になっているか尋ねても、誰も答えられない場面を見てきた。その一方、業務刷新のためにITシステムに合わせて業務を設計した結果、現場からは運用に耐えられないという悲鳴が、顧客からはサービスレベルの低下に対するクレームが吹き上がり、立て直しのためのプロジェクトを行ったこともある。

新規拠点立ち上げは苦労の多い取り組みだが、過去のしがらみに囚われず、自社が持つ良いところ・変えるべきところを吟味するよい機会となる。コロナ禍の苦境においてサプライチェーンの変更を強いられているこの状況は、新たに強い業務をつくりあげるチャンスとみることもできるのではないだろうか。本稿の内容が、変化の激しい時代において強くしなやかに適応していくための一つのヒントになれば幸いである。

次回は、本稿で触れた業務プロセスやITシステムに取り込むべき現地固有の法令・商習慣・文化に関して、その具体的な内容や業務プロセスとITシステムへの取り込み方、またそれらの情報を収集し対応していくために重要となるパートナーとの協業の考え方について述べる。

湊 貴也

グローバルITマネジメント担当

マネージャー

大手外資系コンサルティングファームを経て現職。製造業を中心に、国内外におけるプロジェクトに多数参画し、新会社立ち上げ支援における戦略立案や事業構造改革支援、標準業務プロセスとルール策定・定着化やシステムの導入と展開などの各種コンサルティングを手掛ける。

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