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2021.08.25

企業の成長を支援する人事部の役割

「人」を知るための効果的な可視化

住田 祐二 

Summary

  • 労働人口が年々縮小して優秀な人材の獲得が難しい状況の中で、企業が継続して成長していくには、社員一人ひとりの生産性を高めていくことが求められており、それに対する打ち手の1つが、「人材の可視化」である
  • 多くの企業で人材の可視化を目的としたシステム導入が進められているが、通り一遍の対応に終始している事例が多く、効果的な「人材の可視化」が実施できている企業は少ない
  • 効果的な「人材の可視化」を進めていくためには、人材情報の特性を理解したうえで、情報を活用する場面にあわせた仕組みが必要となる

なぜ人材を可視化しなければならないのか

企業の中で人事部門が担う役割として、近年「二つの支援」が強く求められている。それは、「経営層に対する支援」と、「部門や社員等の現場に対する支援」である。
経営層に対する支援とは、経営層が描いた目標に向けて戦略や施策を実行するため、現有資産である人材をより有効に活用することへの支援である。例えば、業績向上の鍵を握る事業の推進を担う人材の配置は、企業の命運をかけるような重要な決定だ。そのような意思決定の支援を通じて経営戦略の適切な実行へ貢献することが、人事部門に強く求められている。
部門や社員等の現場に対する支援とは、社員のエンゲージメントとパフォーマンスを高めるために、一人一人の特性を理解し、社員にあった労働環境を提供しながら、現場での人材育成を支援していくことだ。

このようなニーズの解決策として、昨今では人事部でもデジタルトランスフォーメーションを推し進める声が多くなっている。しかし、業務のデジタル化や人事データ分析などへのハードルは高く、一足飛びには進められないというのが実態だろう。
そこで、求められている二つの支援を実現するための第一歩として、「人材の可視化」に焦点を当て、その進め方について述べたい。

人材の可視化自体は、人事部門が主導して進めていくものである。しかし、決して人事部門のためだけではなく、図1のように、経営層や部門・上司、社員それぞれの目的に応じ、人材の可視化を進めていく必要があることを改めて理解しておきたい。

図1:人材情報可視化の目的

 

どのような情報を可視化すればよいのか

人材情報と一口に言っても、その中身は多様で、例えば人材の基礎情報、経験・スキルを表す情報、状態を表す情報、その人の特性を表す情報などがある。

図2:人材情報の例

 

これら人材情報の一元管理を目的に人材マネジメントシステムを構築したが、なかなか効果的に可視化が実現できていないという企業が多いのではないだろうか。その理由として考えられるのが、情報の収集方法と社内への提供方法の両方の問題である。

情報の収集方法の問題は、そもそも情報の質が多様であることに起因している。更新頻度が高いもの/低いもの、収集・把握が難しいもの/簡単なものなどさまざまだ。それぞれの特性にあわせて収集すべき情報を取捨選択しないと、効果的な可視化にはつながらない。

情報の提供方法の問題は、可視化の時点で特に強く現れる。一元管理した情報を経営層にも現場にも同じ表現で提供すればよいかというと、そういうわけではないのだ。
可視化する目的に応じて、見るべき情報の力点は異なる。例えば同じスキル情報であっても、経営層は、組織の成長戦略の検討材料として「現時点でどういうスキルを持った人材が、どこに何人いるのか」という現状を把握するために見るのに対し、現場は、個人ごとの育成施策検討の材料として、「どのようにスキルレベルが推移してきたのか」という過去からの履歴も含めて把握するために活用する。このように、目的によって情報の見方は異なるため、現時点の情報を見せるのか/過去からの推移を見せるのか、個人の詳細を見せるのか/集計された結果を見せるのかなど、目的に適合した見せ方を慎重に検討する必要がある。

どのように可視化を進めるべきか ~情報の収集・管理~

効果的な「人材の可視化」を進めるために必要なことは何か。それは可視化する情報の「質」、つまり、「鮮度」と「正確さ」を担保することが重要になる。

しかしこれが意外と難しい。手に入る情報の種類や量が増えるにつれて、情報の収集方法も多岐にわたり、その登録作業も増えることになる。そうした作業が増えるにつれ、ミスが発生する確率も上がり、情報の信頼性が下がっていく傾向が見られがちだ。また、大量の情報を整理することに時間がかかれば、情報を更新する頻度も減り鮮度も落ちていく。その結果、それらの情報は誰にも使われない情報となってしまう。

では、どのようにすれば情報の「鮮度」と「正確さ」を維持できるだろうか。そのためには収集する情報を絞ることと、テクノロジーをうまく活用することという2つのポイントがある。

ポイント①:収集する情報を絞ること

収集する情報を絞るためには、最初から一度に全ての人材情報を集めようとするのではなく、情報の特性を理解したうえで、必要な情報の種類を精査し収集量を絞ることだ。例えば、最初は更新頻度が低く、収集・把握が簡単なものに絞る。こうすれば、結果として作業ミスの削減や、情報更新のリードタイム短縮につながり、精度や鮮度の維持が可能と考える。

ポイント②:テクノロジーをうまく活用すること

またテクノロジーを活用することで、システム間のデータ連携を自動化したり、RPAを活用したりすることで人為的なミスはなくすことができる。
とはいえ、実際には本格的なシステム導入に二の足を踏んでしまうことも考えられる。そのような場合は、テクノロジーの活用とまではいえないが、Excelマクロ等の簡易的なツールを介すことで、作業工数や作業ミスを減らし、鮮度と正確さの維持が可能と考える。
上記に加えて、社員から情報を収集する際の観点についても触れておく。
自己申告や業務経歴などを社員から個々に収集する情報は、記入される情報の量や表現にバラツキがあるため、その後の施策検討等に活用しにくいといった声もよく聞く。
そうならないためにも、社員から情報を収集する際には、目的や活用方法をしっかり理解できるように周知することはもちろんだが、収集した情報の共有も重要だと考える。自分自身が入力した情報が経営層に見られており、配属先の決定に利用されているなど、その活用方法を理解することで、情報収集にもより協力的になるだろう。
その他、集計や分析に利用する情報は選択形式する、業務経歴やスキルなどは、他に定期的に収集している情報(例えば自己申告等)とタイミングを合わせて収集するなど、社員にかかる負荷を下げるなどの工夫をし、収集する情報にバラツキが出ないようにすることも押さえておきたい。

どのように可視化を進めるべきか ~情報の見せ方~

次に、可視化を進めた情報をどのように見せればよいのかを考えてみよう。
これまでは、基礎情報や経験・スキル情報が人事施策の中で多く活用されていたが、今後は、状態や人材特性を表す情報の活用がより重要になってきている。それぞれ活用シーンによって重要度が異なるため、ここでは、人材マネジメント全体のサイクルの中でも特に人材の可視化が効果を発揮する「A. 育成計画」、「B. 配置検討」の場面を例にあげて考えてみる。

図3:活用シーンに応じて可視化する人材情報イメージ

 

A. 育成計画立案時の可視化

上司が部下の育成計画を立案する際は、部下の目指すキャリアと保有するスキルや経験から、育成すべきポイントを明確にする必要がある。また、部下の特性をふまえ、効果的な育成方法を検討できるように可視化できるとよい。
「経験・スキル」を表す情報と、本人の目指すキャリアや希望などの「状態」を表す情報から、現状と本人の目指す方向とのギャップを可視化することで、それを埋める方法として、育成計画の立案が可能となる。そして最も重要なのが、人材アセスメントの結果などの「人材特性」を表す情報だ。この情報から、各人への支援の仕方、経験の積ませ方など、個人に適した育成方法を見出すことが可能となり、育成計画の精度の高度化へと繋がっていく。

B. 配置検討時の可視化

上司が部下の配置を検討する際には、能力・生活の両面で、問題がないことを明らかにするとよい。異動先が望む経験やスキルなどの配置要件を満たしているかに加えて、本人の「状態」情報をもとに意向を確認することで、異動による社員のモチベーション低下を防げるだろう。
例えば、海外赴任の場合を含め、はじめから異動を希望しているのか。転勤を伴うような異動の場合は、家族の状態から転勤可能な状態なのか。単身赴任中であれば、帰任させたほうがよいのか。このような観点で、社員の状態・意向情報を見るとよい。
さらに、異動先の上司との相性等、「人材特性」を見るということも重要だ。実際に確認できている企業はまれかとは思われるが、エンゲージメントを高め、異動先で能力を発揮してもらうには、これらが必要になってくる。
忘れてはならないのは、異動元と同じように、異動先でも人材情報を見る必要があることだ。異動先の上司は、配属される人材の自己申告や上司との面談記録、申し送り事項をできるだけ早くキャッチアップすべきである。これらの情報をもとに、働きやすく、パフォーマンスを上げやすい環境を早い段階で整えられると考える。

このように、情報を活用するシーンに応じて、見るべき情報が異なってくることを理解したうえで、誰に、どの情報を、どのように可視化するかを検討することが重要となる。

おわりに

社員や企業が継続的に成長し続けるためには、人事部門による支援が必要不可欠だ。そして、人事部門だけでなく、経営層や現場が人を正しく知るための仕組みを整備することは、今後非常に重要となる。
人材マネジメントの第一歩でもある人材の可視化を実現することで、人材情報の活用の場面を広げていき、社員や企業の成長に効果的につなげていただきたい。

住田 祐二

人材マネジメント担当

マネージャー

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