2022.07.28

ジョブ型雇用を定着化する職務と人のデータドリブンマッチング

生産性2.5倍、人材価値を最大化するジョブアサイン

萩野 亮 

Summary

  • ジョブ型雇用運用定着化のためには、現場責任者・人事・社員が社員の職務適合度と職務成果を客観的なデータで議論し、人事の意思決定精度をあげることが肝となる
  • 職務適合度とは、社員の職務遂行に関する特性と、職務で成果を出すために必要な特性がどれだけ合うかであり、アセスメントツールを活用し見極めることができる。これにより、現場の人事力向上と本人特性に応じた説得力ある話し合いが可能になり、ジョブ型雇用運用定着化が進む
  • アセスメントツールを活用したデータに基づく意思決定は、個々の社員が自律的なキャリアをデータに基づき選択するData-Driven Personalized Career実現の第一歩となる

ジョブ型雇用を導入/検討する日系企業における運用課題

ジョブ型雇用導入/検討状況

ジョブ型雇用とは、職務に適したスキル・経験を持つ人材を採用・配置する雇用である。日系企業における従来のメンバーシップ型雇用(職務を決めずに新卒採用・育成をし、組織状況・本人適性で配置)とは異なり、グローバル市場や人事戦略上、ジョブ型雇用を導入/検討する大手日系企業も出てきた。ジョブ型雇用の要素であるジョブ型人事制度は、日本において職務等級、場合によっては役割等級を含めた考え方として利用されている(人事制度における代表的な等級制度比較は図1の通り)。労政時報が2022年に全国5,706社を対象に等級制度導入状況を調査しており、その調査結果では、管理職向け等級制度は、職務・役割等級制度が42.3%で(職務等級16.3%、役割等級26.0%)、職能資格等級が39.3%となっている[1]。メンバーシップ型雇用に相性が良い職能資格等級を採用する企業より、会社が求める仕事上の役割や職務を基軸とした人事制度を採用する企業が多いことが分かる。

図1:代表的な等級制度比較

 

ジョブ型雇用の運用課題

そのような中で、ジョブ型雇用導入であまり表沙汰にならないが、企業が苦戦している点として「現場への人事権限委譲」と「ポジション解任による降格/降給の労務トラブル」がある。
1点目は、人事部から現場へ職務定義や配置・昇格権限を委譲することがあり、キャリアパス・評価・報酬・後任者育成など、人事の専門知見なしに現場で意思決定されることで、それが経営リスクとなる場合があるというものだ。ジョブ型雇用は、職務基準で採用・配置を行うため、経営・組織戦略に大きく影響を受ける。ビジネスの変化と実務面を理解した俊敏な人事処遇が必要となり、閉じた人事部では現場の実態を想像することが難しい。そのため、現場に権限委譲することで俊敏な人事を目指すが、「この職務は勤続20年のベテランAさん。後任はAさんが退職する時に考える」「売上実績はいまいちだが、他候補者不在のためBさんだ」というように、業務繁忙による後任者育成の放置や、採用を考慮せず成果を重視しない配置決定がいつの間にか現場でなされていることが課題として想定される。
2点目は、ジョブ型雇用を導入した環境で起こり得る労務トラブルである。例えば経営戦略上そのポジションがなくなる場合や、社員の業績が悪い場合、社員にそのポジションから離れてもらう、つまり人事権を行使してポジションを解任し、社員の降給・降格を実施する必要が出てくるのだ。しかし、制度・ルールを就業規則・周知文書で明確に規定し、社員が理解した上で当事者同士が上手くコミュニケーションしないと、降格・降給時の対応が人事権行使無効や過度な退職勧奨と判断される場合もあるため、そうならないよう慎重な取り組みが求められている。

ジョブ型雇用運用定着化のための2つのポイント

上記課題に関して、現場に権限委譲しながらも労務トラブルを避けるためには、社員の配置・採用の意思決定精度を上げることが必要となる。それを実現するためには、現場責任者・人事・社員間で、職務適合度・職務成果を客観的なデータで議論することが近道だ。職務適合度はその職務に当該社員がどの程度合うかを表し、職務成果は当該社員が実際に仕事をした場合の成果を表している(図2)。

図2:職務適合度と職務成果

 

職務成果に関しては、成果評価を取り入れている企業であれば想像がつく内容であるが、職務適合度の活用方法に関しては、まだ十分に考え方が浸透していないと筆者は考える。20年間36万人のキャリアを追跡した調査より、職務に合う人材は、そうでない場合と比較して2.5倍の生産性を生み出す、という研究結果もある[2]。職務適合度が高い人材をデータで見極めることは、権限委譲された現場の意思決定力の強化と労務トラブル発生の抑止に繋がり、ジョブ型雇用運用の定着にも寄与すると考えられる。次章ではその職務適合度をどのように活かしていくか、について述べていく。

職務適合度の具体的活用

職務と候補者の職務適合度は、アセスメントツールで測定することができる。アセスメントツールの中には、個人の職務遂行に関わる思考形式・行動特性・仕事への興味という潜在的特性を20項目で測るオンラインツールもある。アセスメントツールは、図3のように、アセスメント対象者の質問回答結果から測定した個人の結果と、各職務で成果を出すために必要となる職務特性を定義したものを比較して、職務適合度を数値(%表示)で示してくれる。それだけでなく、アセスメント結果に基づき、採用面接やキャリア面談の際に深掘りすべき具体的経験に関する質問項目や、育成のためのコーチングのポイントについて示唆あるレポートを確認することができる。

図3:職務適合度の活用

 

上記のようにアセスメントツールにより測定した個人特性と職務適合度を活用すれば、現場責任者-人事-社員がデータに基づく人事の意思決定をすることができる。現場の人事力向上と、本人特性に応じた説得力ある話し合いで、労務トラブルリスク軽減にも寄与する。具体的には、図4のように、採用・配置・育成の各領域で強い示唆を出してくれるため、社員の状態に応じた新しいキャリア構築の選択肢を引き出すことが可能になる。例えば、営業職の社員であっても、数学能力・社交性があり、人的サービスに興味があるという特性を有していれば、「採用目標値を追う採用担当者」との職務適合度が高く出ることがあり、このような場合には、営業から人事へのジョブ転換も選択肢になる。また、社内新陳代謝の必要性から50代部長のグループ企業転籍をはじめとした代謝を考えることがあるかもしれない。当事者が意外にも独立性が高く、事業開発に興味あることが判明し、立ち上げ時のグループ会社のある職務に職務適合度が高く出れば、積極的な転進を提案することが可能となる。

図4:ジョブ型雇用における職務適合度活用例

 

訪れる未来:Data-Driven Personalized Careerの実現

社員一人ひとりに合ったキャリアの推奨

ここまで、ジョブ型雇用運用定着化のために、職務適合度の観点から現場責任者・人事・社員が客観的なデータで議論していくことの必要性を述べてきた。今後はアセスメントデータをタレントマネジメントシステムに保持し、人事給与システムや関連システムとの連携を考え、その分析の仕組みを構築すれば、社員一人ひとりに合ったキャリア提案が可能になる。社員一人ひとりが自分だけの「おすすめジョブとそれに向けた今後のキャリア構築への助言・推奨研修コンテンツ」が記載されたメールを定期的に受信し、主体的にキャリア形成できる状態が実現される。人事部は、社員一人ひとりの悩み相談に忙殺されることなく、会社が提供するジョブから社員の職業特性を基に最も合うキャリアを推奨することができ、社員はそれを基に意思決定するという時代が来ることを、筆者は予測する。

人事DXの踏ん張りどころ

先の状態を実現するには人事部によるDX(Digital Transformation)の取り組みが必須となる。まずは、人事給与システムの社員基本情報・発令・給与情報や今回紹介したアセスメントデータ、タレントマネジメントシステムに登録されているであろう1on1・自己申告・キャリアカウンセリングのデータを集める必要がある。加えて、社員の業績を俯瞰的に確認・分析することや高業績者を特定するために、営業/顧客管理システムの部門/個人売上データや顧客満足度データなどを集め、人事統合データベースを整備する。そのデータベースと採用管理システムの公開ポジションやジョブディスクリプション、各ジョブで設定している特性を相互照会・分析して、年次評価やジョブ求人の際に、社員に職務適合度が高いポジションを推奨する。このような仕組みを構築することが人事部のDXミッションとなる。もちろん、これを実現するには専門の知見と多大な工数を要し、通常業務に加えて推進しなければならない。ジョブ型雇用の運用定着化を機に、あるべき状態を実現するための人事部の踏ん張りどころである。

図5記載の通り、人事部は社員一人ひとりに対して、会社が提供する職務との適合度に応じたキャリアの選択肢、それを目指すために今後必要となる経験やスキル・知識を自動で提示できることが、筆者が考える「あるべき」状態である。社員にパーソナライズされたキャリア示唆を出す仕組みを構築し、自動運用を軌道にのせること、つまりData-Driven Personalized Careerを実現することではじめて、社員の最適配置による人材価値の最大化ができるのではないかと筆者は考える。

図5:Data-Driven Personalized Careerの実現イメージ

 

おわりに

ジョブ型雇用運用定着化のためには、社員の職務適合度と職務成果を現場責任者・人事・社員が客観的なデータで議論し、意思決定精度をあげることが必要であることを述べてきた。今まで、勘と経験と度胸で人事の意思決定を行ってきた場合、アセスメントツールで職務適合度を測定するように、科学的なデータに基づく意思決定には多少の抵抗感を持つ方もいるかもしれない。しかし、アセスメントツールは意思決定要因となるデータを示してくれるのみで、最終的な判断は人が実施するのである。より良い意思決定を可能にする技術を活用しながら、社員一人ひとりが会社の提供する環境・仕事の中で、自律的に自らに合ったキャリアを選択することが生産性向上に繋がる。本稿により、データに基づく人事の意思決定の重要性およびメリットを理解いただき、人事部がその実現に積極的に取り組む一助となれば幸いである。

  1. [1] 労務行政研究所(2022), “等級制度と昇格・昇進、降格の最新実態”, 労務時報 第4036号
  2. [2] Harvard Business Review (1980), “Job Matching for Better Sales Performance by Herbert M. Greenberg and Jeanne Greenberg”, https://hbr.org/1980/09/job-matching-for-better-sales-performance (参照2022年7月11日)

萩野 亮

人材マネジメント担当

マネージャー

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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