2024.02.14

広告代理店との連携強化か依存脱却か?

マーケティング・コスト最適化/ROI最大化に向けた「マーケティング・リーダーシップ」の取り組みとは

堀内 直太郎 

近年のデジタル化社会の進展に伴い、企業のマーケティング活動は一層の高度化が求められている。一方で、従来の体制で組織的に高度化対応をしていくためには、広告代理店等の外部パートナーとの一層の連携が必要となり、これに伴い多額の外注コスト(広告宣伝費・販促費)が発生してしまうというジレンマを抱えている。外注コストの増大はマーケティングROI(Return on Investment)の圧迫要因(営業利益の減少)にもつながりかねず、「マーケティングの高度化への対応」と「マーケティング・コスト最適化対応」の両立は大きな課題となっている。
この課題に対応する取り組みのコンセプトとして、クニエは「マーケティング・リーダーシップ」というキーワードを提案する。これは、自社のマーケティング・ケイパビリティ(組織能力)を高めることで折衝力を発揮し、「外部パートナーとの連携を高度化」していく考えだ。その結果として、「広告代理店依存からの脱却」につながるが、同時に「広告代理店との連携強化」にもつながっていく。
本稿では、一層の高度化が求められるマーケティング組織において、外部パートナーとの連携のあり方を変革する「マーケティング・リーダーシップ」の取り組みについて解説する。

1. 「マーケティングの高度化への対応」と「マーケティング・コスト最適化対応」のジレンマ

近年、消費者はオンライン、オフラインを問わず、様々なチャネル/タッチポイントを使い分けた購買行動をとっており、企業はこれに対応すべく、「マーケティングの高度化」を図っている(図1)。例えば、顧客ロイヤルティ・マーケティングでは、パーソナライゼーション、OMO(Online Merges with Offline)、D2C(Direct to Consumer)といったITを活用したマーケティング手法を駆使し、顧客接点強化を図っている。また、米国市場ではECサイトやデジタルサイネージなど小売事業者が提供するリテールメディアの活用が先行しており、日本市場においても「2023年はリテールメディア元年」と呼ばれるなど活用が進みつつある。これらの背景から、デジタルマーケティングやデータ分析などの専門型人材の確保・育成も急務となっている。

一方で、悩ましいのは「マーケティング・コスト最適化」対応との両立だ。従前より、年間で数十~数百億円超に及ぶ広告宣伝・販促費をかけているような企業は、様々なマーケティング業務を広告代理店等の外部パートナーに頼っているケースが少なくなく、コスト管理においても十分に詳細を把握していないことから最適化が難しいのが実状である。また、リテールメディアの活用においては、小売事業者との窓口となる営業部門とマーケティング部門の間で、部門間連携を行っていくことがハードルとなっているケースもある。高度化するマーケティングへの組織的対応として、外部パートナーとの連携は不可欠であるものの、コスト最適化対応との両立というジレンマをどのように解消していくかが大きなポイントである。

図1:「マーケティングの高度化への対応」と「マーケティング・コスト最適化対応」のジレンマ

 

2. 「マーケティング・リーダーシップ」の考え方は「外部パートナー起点」から「自社起点」に逆回転させる発想

従前からの手法でマーケティングの高度化に対応していくには、外部パートナーへの外注強化を行わざるを得ず、相応の外注費の発生を許容した上で、マーケティングROIのさらなる向上を目指すことになる(図2)。また、これを実現するためには、適切な外部パートナーを選定したり、外部パートナーから提案される企画の評価や施策効果の評価を、社内や外部パートナーとやり取りしたりする“調整型”の人材強化が必要である。この状況では、重要アセット(マーケティング業務のノウハウ)は外部パートナーに蓄積され、自社内の空洞化が広がることになるため、今後も同様の手法を継続していくべきかどうか再考してみても良いのではないだろうか。

そこでクニエでは、今後の方向性の一つとして、「マーケティング・リーダーシップの取り組み」を提案したい。従前からの手法が「外部パートナー起点」であるとするならば、本取り組みの発想は「自社起点」であり、逆回転させていくことが重要となる。マーケティングDXや専門型人材の育成など、「自社のマーケティング・ケイパビリティを高める」ことで、「外部パートナーに対して折衝力を発揮し、連携を高度化」し、マーケティング・コスト最適化とマーケティングROIの向上を目指す取り組みである。このような方向性に変革していくことによって、重要アセットは自社に蓄積されることとなり、それがさらなるマーケティング・ケイパビリティの強化につながっていくような好循環に変わっていくのである。

図2:マーケティング組織が取り組むべき方向性「マーケティング・リーダーシップ」の考え方

 

3. 「マーケティング・リーダーシップ」実践に向けた3つの重要テーマ

マーケティング・リーダーシップを実践していくに当たっては、自社のマーケティング・ケイパビリティを高めていくことが重要となるが、参考までにこの中のマーケティングDXの取り組みテーマとして3つの重要テーマ(図3)を挙げておきたい。

(1)外部パートナーに多くのマーケティング業務を外注したPDCAサイクルの改善
例えば「本来行うべきマーケティング業務でなく、外部パートナーの選定・管理・調整業務が中心になってしまっている…」などの現状を総括し、どのように改善していくべきか、基本方針を定めることが重要である。その上で、PDCAサイクルにおいて、例えば「手作業や加工作業が多い効果測定・データ分析業務」「外部パートナーに頼った評価・統制業務」「組織が縦割り構造でサイロ化してしまっている戦略/企画業務」など、業務面からの見直しを行っていく。また、PDCAサイクルを支えるIT面からの見直しとして、「顧客データ基盤整備として、必要なデータが収集できていない/散在している/活用できていない」などへの対応を行っていくことが重要である。

(2)見えづらいコスト構造の改善
広告宣伝費・販促費の詳細が見える化されていないケースも少なくない。そのため、外部パートナーとの商慣習や各種マーケティング業務のプロセスの見直しまでを含め、広告宣伝費・販促費の詳細を管理していく仕組みづくりに取り組むことが重要となる。また、現状において、外部パートナー依存型の組織構造・人員配置になっていると思われる場合には、中長期的な視点から組織改革まで踏み込んでいくことも有効である。

(3)わかりづらい施策効果の改善 
現状において、体系的なKPI管理が出来ておらず、一部のKPI管理が外部任せになっていることも少なくない。また、これが結果として、外部パートナーに頼った評価・統制業務となっているような場合には、戦略/企画業務も外部依存のPDCAサイクルとなってしまうため、KPI管理についても対処すべきである。

図3:「マーケティング・リーダーシップ」実践に向けた3つの重要テーマ

 

おわりに

マーケティング・リーダーシップは、ボトムアップで進めて行くことができるような取り組みではなく、CMO(Chief Marketing Officer)などの経営層・幹部層がトップダウンで組織方針を示さなければ難しい取り組みである。一方で、マーケティング・リーダーシップを実践していくに当たり、最初から広告代理店等の外部パートナーとの関係を大きく変える必要はない。様々な取り組みを少しずつでも進めることで、自社のマーケティング・ケイパビリティが高まり、それにつれ、外部パートナーとの連携が高度化(強化)されていくのである。数十~数百億円超に及ぶ広告宣伝・販促費をかけているような企業は、数%の改善が大きな利益貢献につながっていく。ぜひ本稿を参考に、マーケティング・リーダーシップの取り組みを実践して行ってほしい。
 

関連サービス

「マーケティングリーダーシップ支援サービス」提供開始(2024年2月14日)
https://www.qunie.com/release/20240214/

堀内 直太郎

マーケティング戦略/営業改革担当

シニアマネージャー

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