QUNIE

2020.12.14

デジタルトランスフォーメーション(DX)への第一歩 ~DX推進編~

【第6回】DXを加速するデータドリブンカスタマージャーニー

ユーザーの行動をマーケティングアクションにつなげるために

江下 俊彦 

マーケティング業務に携わる方であれば、「カスタマージャーニー」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないか。カスタマージャーニーはサービスデザインのツールの1つであり、顧客が商品/サービスを認知してから、購入して使い続けるようになるまでの道のりを接点の流れ(ジャーニー)と捉えるアプローチである。
カスタマージャーニーの多くの事例では、インタビュー調査などの定性的手法を活用したものが多く、定性的手法のウィークポイントがカスタマージャーニーの課題として浮かび上がってくる。一方で、Web業界やデジタルマーケティングの世界では、Cookieなどのデータを活用したカスタマージャーニーのアプローチが実践されている。本稿では、定性的手法の限界をカバーすべく、データ活用により定量的な観点を加えた、データドリブンカスタマージャーニーを提言する。

定性的手法を用いたカスタマージャーニーの課題

カスタマージャーニーは、顧客接点を軸にユーザーのパーセプション(商品/サービスに対する認識・印象)形成過程を可視化するアプローチであり、マーケティング業務におけるタッチポイント・提供形態の改善、新サービスの開発などに用いられる。カスタマージャーニーマップの作成手順は事例によって異なるが、そのコアアクティビティを大まかにまとめると図1のようなフローとなる。

図1:カスタマージャーニー作成手順

図1中③のアクティビティであるジャーニーを構成する情報を引き出す過程において、現在紹介されている多くの事例では、ユーザーインタビューや顧客接点を持つ担当者へのヒアリングなど、定性的な手法が用いられてきた。そのため従来のカスタマージャーニーによるアプローチは、定性的手法に付随する以下3つの課題を内包している。

1. アクションに直結する情報が得にくい

カスタマージャーニーの特長の1つがタッチポイント戦略に活用できる点だが、タッチポイントについて顧客にインタビューしても、顧客が覚えているのはチャネル(TV/ Web/ 雑誌)レベルで、その詳細(どのWebページを/どんな順番で見たかなど)までは引き出せないだろう。加えてアスキング調査(インタビュー/アンケート)で引き出せる情報は、パーセプションチェンジが進んだ後の主観に基づくという点にも留意すべきである。情報収集を始めた初期段階では、パーセプションは十分に形成されていないはずだが、その後商品購入/サービス利用までの間にさまざまな情報に接触することで、当時の認識は歪められている可能性がある。例えば、家庭の電力会社をスイッチしたユーザーに契約先を切り替えたきっかけを聴くと、インタビューでは「光熱費を節約したかったから」と回答されることが多い。しかし実は、寒くなり始めた11月頃にコストパフォーマンスのよい暖房器具を調べたことに起因しているにも関わらず、以前から節約について考えていたかのように(本人の自覚もないうちに)認識がすり替わっていた、というケースは珍しくない。このように、インタビュー調査が人の記憶を掘り起こすアプローチである以上、タッチポイントやイベントについて得られる情報は限定的で、そこから具体的なアクションを導き出そうとすることには限界があるのだ。

2. 確からしさの共有が難しい

インタビュー調査では論拠を量的指標で示すことができないため、分析者/インタビュアーと事業担当者間での合意形成が重要になる。例えば、インタビュー対象者を呼集する際に、ペルソナ情報の中からターゲット像を表すキー要素を選定し、その条件に合致するユーザーをリクルートする。インタビューにおいて、ユーザーの記憶が曖昧なまま話されている発言と、ユーザーの本質的なインサイトを反映している発言を区別する。いずれの工程でも、一定の主観に頼った判断が求められ、その確からしさは調査に関わる者の間で認識を合わせることで担保される。
したがって、調査に参加した担当者は結果を受け入れられるのだが、それ以外の者にとってインタビュー調査は説得力が弱いと受け取られてしまう可能性がある。そのため、調査担当者がインタビューから示唆を得てアクションを立案できたとしても、その予算取りや協力を仰ぐための上司/他部署担当者への説明に苦慮するケースがある。

3. 既存業務の改善には活かせない(と思われている)

カスタマージャーニーは新規事業開発や既存商品/サービスの抜本的な改革など、平時には取り組まないようなチャレンジングな取り組みに活用されるアプローチだと考えている人も少なくないのではないか。定性調査では、インタビューの専門家を外注し、直接ユーザーから話を聴くための場所と時間を確保したり、量的指標ではなくユーザーの声という定性的なエビデンスを基にアクションを考えたり、あるいは、顧客対応を行っているスタッフに話を聴く機会を調整してもらう、といった活動を行う。これらの活動は普段の業務ではほとんど行われず、そのことが、定性的手法を取ることが多いカスタマージャーニーを、日常業務とは縁のないアプローチと認識させているのではないか。
しかしカスタマージャーニーというアプローチのユニークさは、顧客接点から商品・サービスの在り方を考える点にあり、本来的には、既存業務の定期的な振り返りや改善にも活用できるはずである。

上述のような定性的手法のウィークポイントをカバーするためには、データ分析による定量的な観点を加えたカスタマージャーニーマップの作成が有効と考えられる。以降の章では、Cookieデータやログデータといった顧客の行動様式を示すデータの活用が、ジャーニーとしてユーザーが商品/サービスに到達するまでの道のりを示すのにどのように寄与するかを述べていく。

自社サイトにおけるジャーニー可視化

デジタルマーケティングの世界では、1st partyデータ(企業が自社の顧客やwebサイト訪問者に関して収集・保有しているデータ)や、DMP(Data Management Platform)を通じて提供される統計データ[1]が活用されてきた。これらのデータを用いたカスタマージャーニーとして、自社サイト内でのコンバージョン(CV)シナリオを可視化する手法が挙げられる。商品購入など特定ページへのCVに至るまでの導線を最適化するために、目的ページに到達したユーザーがサイト内で通過した経路をジャーニーマップに当てはめて分析するアプローチだ。これにより流入元ページ(リファラー)と自社サイト内での遷移について正確に追跡することができる。またこのアプローチは、販売/成約を目的としたサイトに限らず、例えば、コンテンツマーケティング用サイトの場合でも、CVを会員登録や一定頻度以上のサイト来訪などと定義できれば同様の手法が適用できる。

ここで重要なのは、データを人(共通のニーズを持った集団)として扱うために、セグメンテーションした上でそれぞれのジャーニーを描くことである。例えば、化粧品・美容品ECサイトにおいて、年間購入金額が中程度のミドルユーザーを分析する時、低価格帯のメイクアップアイテムをさまざまに購入しているユーザーと、高価格帯ブランドの基礎化粧品をライン買いしたユーザーとでは、明らかにニーズが異なる。したがってターゲットユーザーを見極める際には、あらゆる変数を考慮し、そのジャーニーやタッチポイントに差異が生じやすいと考えられるセグメンテーションを分析に反映する必要がある。その際に役に立つのが、パートナー企業から得ることができる2nd partyデータや第三者が提供する3rd partyデータ、ユーザーによって入力される会員情報などだ。これらのデータは、ユーザー属性や興味関心、Web上での行動といったジャーニーに影響を与え得る変数を補完してくれる。

パーセプション形成初期のジャーニー可視化

前章では、自社サイト流入後、すなわちユーザーによる商品/サービスへのパーセプション形成が進んだ段階のジャーニー可視化について述べたが、一方で、パーセプションが進んでいないユーザーに対し、どのようにターゲティングし、自社チャネルまで誘導するかという点も重要なテーマだ。この領域については、検索エンジンのログデータが有効と考えられる(図2)[2]。

図2:カスタマージャーニー例とデータソース(化粧品・美容品ECサイトを例に作成)

例えば、検索ポータルサイトにおいて、自社商品名や競合商品名を検索したユーザーが、それ以前にどのような検索やアクセスをしたかを遡ることで、各ブランドへのパーセプションを形成する以前のジャーニーを可視化できる。商品名検索以前に検索されたワードからは商品を必要としたきっかけ(インサイト)が、検索後のアクセス先からは商品の認知源や情報源(タッチポイント)がそれぞれ分かる。

また検索データと1st partyデータを連携することができれば、自社サイトでのCVを基点として、パーセプション形成過程からCVまでのジャーニーを描くことも可能だ。例えば図3のように、自社商品を購入したユーザーの購入日時をCVとし、それ以前の検索ワードの変化を分析できれば、ニーズが発生し始めた段階からCVまでのユーザーのインサイト/Web上のタッチポイントを明らかにすることができる(図2で言えば、左側の「ニーズ発生」~「商品理解」の部分が埋められる)。

図3:検索ログを用いた分析のイメージ(化粧品A購入をCVと想定して作成)

以上を踏まえると検索エンジンのログデータを用いたカスタマージャーニーには以下の特長があると言える。

  • インサイトの把握
    検索ワードからユーザーの関心事が把握できる
  • Webタッチポイントの把握
    検索後にアクセスしたサイトのURLが取得できる
  • 正確性
    検索ワード/アクセス先の日時を辿れるため、その順序や間隔を正確に算出できる
  • バイアスの小ささ
    アスキングデータとは異なり、ユーザーの関心や疑問がそのまま検索ワードに表れている
  • 顧客接点を持つさまざまなミッションで活用可能
    デジタルマーケティング領域に関わらず、顧客が購入/利用検討のためにWeb上で情報収集をする業界/商材であればジャーニーが描ける

これらの強みは、前述の定性的手法の課題を解消(タッチポイントに関して正確な情報を得られる/定量的に立証できる/既存業務の振り返り・改善に活用できる)し、従来の方法論では実現できなかったアクションに直結するカスタマージャーニーを具体化する。

データドリブンカスタマージャーニーの今後の進展

本稿では、これまで定性的に導出されてきたカスタマージャーニーの課題を解決すべく、データ活用を組み入れた「データドリブンカスタマージャーニー」について提唱した。中でも、検索データによってパーセプション形成初期の顧客行動を明らかにするアプローチは、ジャーニーの本質である顧客の行動様式・思考の把握をより具体的に実行し、潜在的な需要を洞察することが可能となる。

また、新型コロナウイルス感染症の影響で消費者の購買行動が大きく変化している現況において、その変化を迅速にとらえていく必要があるが、データドリブンカスタマージャーニーは定性的手法と比べてより短い時間でユーザーの行動を捉えることができる。これをPDCAに組み入れることより、マーケティング手法を飛躍的に向上させることが期待できると同時に、データ活用がマーケティング上の競争優位を生み出す仕組み、まさにDXが実現するのではないだろうか。

  1. [1] 実際にユーザーが入力した検索ワードやアクセスしたサイトのURLなどの詳細が特定できないように加工されたデータや、それらから類推されたセグメント
  2. [2] 検索ログを活用したカスタマージャーニーは、全ての業界・商材で有効という訳ではなく、例えば、保険・金融商品やブライダル業界、耐久消費財など、ユーザーが商品購入/サービス利用までに、複数回情報収集や検討を行うカテゴリーが適している

江下 俊彦

デジタルトランスフォーメーション担当

コンサルタント

マーケティングリサーチの企画・分析業務の経験を経てQUNIEに入社。CDOチームに所属し、消費者データを用いたマーケティング戦略立案、データ活用事業の企画・実行、データサイエンティスト育成研修開発支援などに携わる。

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