2021.03.24

なぜ91%のサブスクは失敗するのか?

【第2回】サブスク事業企画の進め方

サブスクと売り切りのビジネスモデルの違い

渡部 嵩大 

Summary

  • サブスクリプション(以下、サブスク)事業と売り切り事業はビジネスモデルが異なり、サブスク導入時には、単に課金方法を変えるだけでは失敗する
  • 失敗するサブスク事業の特徴として、事業化検討時に既存の調査データや文献を調べず、インターネットで表面的な調査のみを行うという傾向がある
  • サブスク事業では顧客との継続的な関係構築が重要となるため、ターゲット顧客やその課題を具体化して検討する必要がある
  • 財務の観点からも、サブスクはユーザーが継続的に利用することで初めて利益回収できるモデルであるため、顧客との継続的な関係構築が求められる

前回の連載では、サブスクの本質が「企業と顧客の継続的な関係構築」であることと、「91%のサブスクが失敗している」という調査結果を紹介した。
連載の第2回として、本稿ではサブスクの事業企画フェーズについて、失敗事例を踏まえた注意すべきポイントとして「ビジネスモデル」「調査」「ターゲットの課題」「財務モデル」の観点から解説する。

サブスクの事業化プロセスと連載予定

 

サブスクと売り切りのビジネスモデル

「サブスク」と「売り切り」はビジネスモデルが異なる。
解説に進む前に、言葉の定義を整理しておきたい。まず「売り切り」とは、商品・サービスを一回の課金で売り渡すことを指す。継続課金が前提となる「サブスク」の対義語として捉えるものとする。
「ビジネスモデル」は論者によって定義が異なるが、本稿では「顧客に価値を与えることで、企業が利益を得る仕組み」と定義する。ここでいう「仕組み」には、人材や商品・技術、流通チャネルなどの経営資源や、業務プロセス、組織形態が含まれるものとする。

ビジネスモデルの定義に照らすと、サブスクと売り切りの違いが明らかになる。すなわちサブスクと売り切りは、課金方法の違いだけでなく、課金方法に合わせて、顧客への提供価値や社内の業務プロセス、組織、流通チャネルなど、多くの観点で求められるものが異なるのだ。
売り切り事業における事業のゴールは「商品の販売」であり、「販売」を目的とした業務プロセスや組織、評価指標、流通チャネルが構築されている。しかし、この体制のまま課金方法だけを変更してもサブスクはうまくいかない。サブスク事業におけるゴールは、「顧客との継続的な関係構築」だからだ。

具体例として、耐久消費財である家電業界で考えてみよう。売り切り事業の場合、その事業のゴールは「家電商品の販売」であり、マーケティング担当や販売店の評価指標は「販売台数」となる。また、顧客に対する購入後のカスタマーサポートは、収益につながらないコストセンター(コストだけが集計され、収益は集計されない部門)とみなされているだろう。
一方、サブスク事業では、「顧客との継続的な関係構築」というゴールの達成に向け、マーケティング担当の評価指標は「契約者数と継続率」に変更する必要がある。また、カスタマーサポートはもはやコストセンターではなく、顧客に継続利用を促して継続率を高める、プロフィットセンター(利益を生み出す部門)として位置付ける必要があるだろう。

このように、サブスクは売り切りとビジネスモデルが異なり、特に既存事業として売り切り事業がある場合には、業務プロセスや組織、財務などあらゆる観点での変革が必要となる。社内外の抵抗を恐れて、サブスクを売り切り事業のままの体制で行おうとした場合、そのサブスクは失敗する可能性が高いだろう。

こうしたビジネスモデルの違いを前提として、次章以降ではサブスクの事業企画フェーズにおいて注意すべきポイントについて解説する。

表面的な調査しか行わないサブスクは失敗する

まずはサブスク事業の調査について解説する。
自社でサブスク事業に取り組むことになった際、まずどのような調査を行うだろうか?
我々がサブスク事業経験者500名を対象として行った調査結果によると、失敗するサブスクの特徴として、「既存の調査データや文献を調べず、インターネットで表面的な調査のみを行う」という傾向があることがわかった。
具体的には、サブスク事業に関わる業務で実施した調査・情報活用について、失敗層は成功層よりも「インターネットリサーチ」を2.5pt多く行っているが、「社内保有データ」は4.5pt、「既存の調査データや文献」は6.8pt、それぞれ調査・活用している割合が低かった。

サブスク事業に関わる業務で実施した調査・情報活用

 

要因

では、なぜ手軽な調査だけだと失敗するのだろうか? その理由は、調査不足がサブスク事業の検討不足を招くためである。前章で説明した通り、サブスクは売り切りに対し、課金方法だけでなく、顧客への提供価値や業務プロセス、組織、財務など、あらゆる点で求められるものが異なる。調査が不十分な場合は、何を検討し、何を変更すべきかの見通しが立たず、検討不十分なまま事業化を進め、失敗という結果に至る事例が多いといえる。

加えて、既存の調査データや文献、書籍を調査したとしても、そこで語られている内容は対象事業にとって十分ではない可能性がある。なぜなら、世のサブスク関連の記事や書籍で挙げられる事例は動画・音楽配信やソフトウェアなどのデジタルコンテンツを前提としていることが多いからである。
特に製造業では、以下の特徴があるため、検討すべきポイントはデジタルコンテンツよりも格段に多くなる。

  • バリューチェーンの長さ
    研究開発・製造・マーケティング・販売・物流・アフターサービス…と、デジタルコンテンツよりもバリューチェーンが長い
  • モノに伴う検討事項の多さ
    在庫管理や物流、原価管理、(耐久消費財の場合は)メンテナンスや廃棄など

具体例として自動車業界を考えてみると、既に多くの販売店網を抱えていることから、サブスクを導入する際にはチャネルをどう巻き込むか、販売とサブスクのカニバリゼーションにどう対処するか、販売店の評価体系は変更すべきか…など、チャネルだけでも多くの検討すべきポイントがあることがわかる。

対応策

これらの調査不足に対する対処法としては、調査データや文献、書籍を読むことは当然として、そこに書かれている内容を鵜呑みにせず、「自業界や自社に当てはめると何に気をつけるべきか?」という観点を強く意識する必要があるだろう。また、自社だけで検討を進めると視野狭窄に陥りがちなので、ビジネスマッチングサービスを利用して社外のサブスク事業経験者にヒアリングすることも有用と考えられる。
なお、本連載では今後、こうした世の中の記事や書籍では語られていない、製造業やB2B(企業向け)商品についてのノウハウも解説していく。

「商品」ではなく、「顧客の課題」を考える

続いて、新規事業の立ち上げに必要となる、顧客やその課題の見極めについて解説する。
自社でサブスク事業に取り組むことになった場合、顧客やその課題についてどのレベルまで具体化して考えるだろうか?
我々の調査では、失敗するサブスクの特徴として、「ターゲットや課題・ニーズの具体化が不十分」であるという結果が出ている。失敗層は成功層よりも、ターゲットの具体化が「非常に具体的だった」と回答した割合が18.4pt、課題・ニーズの具体化については7.9pt、それぞれ低かった。

ターゲットの具体化

 

課題・ニーズの具体化

 

要因

なぜターゲット顧客や課題の特定が不十分だと失敗するのだろうか?
その理由は、サブスクのビジネスモデルの特性として、顧客に継続的にメリットを提供し続ける必要があるためである。
多くの製造業や小売業にとって、売り切りモデルでは「商品を売る」ことがゴールのため、顧客が購入後にどのようにその商品を利用しているかについて、理解する必要性を感じていないだろう。特にバリューチェーンやサプライチェーンの長い製造業だと、中間流通や販売店が介するためエンドユーザーとの接点も少ないため、顧客課題に向き合う機会も少なくなる。
しかし、サブスクでは顧客が継続利用することが前提となるため、顧客が商品の契約(売り切りの「販売/購入」に相当)後にどのように利用しているか、利用に際しどのような課題を抱えているかを理解する必要がある。

顧客課題に関する有名な事例として、ドリルと穴の事例がある。ドリルを買う人はドリルという「商品」を求めているのではなく、(ドリルを利用した結果としての)穴という「課題解決」を求めているのだ。「穴」を得るための課題解決の手段は、ドリルの購入だけにとどまらず、他の手段で穴を開けるか、もしくはあらかじめ穴が開いた板を買えば済む場合もあるだろう。
これをB2Bサブスクの事例として建設機械メーカーの事例に当てはめると、顧客である建設業者は建設機械そのものではなく、建設業者のミッションである建設業務を円滑に、低いコストで完遂させることを求めている。実際に、小松製作所はIoT技術を用いた「KomConnect」というクラウドサービスをサブスクで提供しており、建設機械の稼働状況をデータ化することで、建設機械の「モノ売り」にとどまらずに、建設業者の課題解決に貢献している。
このように、「商品の販売」をゴールとせず、販売後も含めて顧客の課題に向き合うことで、新たなサービスを提供する機会が生まれ、継続的に顧客にメリットを提供できるといえるだろう。

対応策

顧客課題を特定する方法としては、顧客への「デプスインタビュー」や「行動観察」、自身が顧客として体験する「体験調査」などが有効である。その際に、ターゲット顧客とその課題をどのレベルまで具体化する必要があるかを考える参考例として、ブランドバッグのサブスクを例に示す。

  • ターゲット顧客
    「20歳~35歳の独身女性」という抽象的なレベルではなく、「(価格的に手が届かないので)ブランドバッグに興味がないと思い込んでいるが、機会があれば利用してみたいと思っている27歳、吉祥寺在住の独身女性」など、実在する人として想像できるレベルで設定
  • 課題・ニーズ
    「ブランドバッグを低価格(定額制)で使いたい」という抽象的なレベルにとどまらず、「高級品のブランドバッグを借りるのは恥ずかしい(心理的なマイナス要因)」や「コーディネートに合わせてブランドバッグを使い分けたい(プラス要因)」というレベルで設定

このように具体化できれば、「全てオンラインで完了する利用手続き」や「利用シーンに合わせたタグ検索」など、具体的なサービス設計に活かすことができる。

特に既存商品をサブスク事業化する場合は、顧客がその商品を購入している理由を「なぜなぜ分析」の手法で掘り下げ、背景にある課題意識や利用に付随する課題を特定する方法も有用である。
例としてビール飲料で考えてみると、購入の背景にある課題意識としては「仕事が終わった後に、自分へのご褒美が欲しい」や「家で過ごす時間が増えたので、良質な時間を過ごしたい」というものがある。一方で利用に付随して「缶ビールは店で飲む生ビールのような泡が出ない」という課題を抱えていることがわかれば、「生ビールが注げる専用のビールサーバーのレンタルと、ビール樽の定期配送」というサブスクサービスの施策立案に活かすことができるだろう。

サブスクとは、顧客との継続的な関係構築である。「商品の販売」をゴールとせずに、顧客が抱える課題を理解し、その課題解決に資する価値を提供し続けることができれば、「モノ売り」に留まらない新たなサービス提供の機会が広がるのだ。

サブスクの利益回収には忍耐が求められる

最後に、サブスクの財務モデルについて解説する。
どれだけ顧客ニーズを捉えたサブスクサービスを作り上げたとしても、サブスクは売り切りに比べ、財務の観点では忍耐が求められる。
売り切りの場合は販売時に利益が確定するのに対し、サブスクは契約時には利益が確定せず、継続的に顧客にメリットを提供し、顧客が継続して利用することで初めて利益が回収できる。一方でサブスクのメリットとしては、顧客が損益分岐点を超えて継続利用する場合には、長期的に売上・利益回収をする機会があることだ。
サブスクの本質としている「顧客との継続的な関係性構築」は、財務モデルの観点でも説明できることがわかる。

売り切りとサブスクの財務モデル(ユーザーあたりの利益回収)

 

事業企画段階から試験導入など次のフェーズに進むためには、社内の承認手続きが必要となる会社が多いだろう。しかし、一般的な事業化や投資判断の基準は、販売時に利益が確定する売り切りモデルを前提としている。そのため、承認者や関係部門に対し、サブスクでは利益回収までの時間が長期にわたることを説明し、合意を得なくてはならない。このタイミングで合意を得ておかないと、事業化の承認を得るタイミングで「利益回収が見込めないため事業化NG」という判断に至りかねないためだ。

おわりに

事業企画フェーズにおいては、サブスクと売り切りのビジネスモデルの違いを念頭に検討を進める必要があることについて解説した。課金方法だけでなく、顧客への提供価値や業務プロセス、組織、財務など、必要な検討事項を事前に把握しておくことで、より具体的な事業計画を策定でき、次フェーズの事業開発へとスムーズに進むことが可能になるだろう。
なお、本連載で言及している調査結果は、調査レポート「サブスク事業に関する実態調査 なぜ91%のサブスクは失敗するのか?」にて整理している。コンサルティング現場での経験を踏まえ、サブスク事業の成功・失敗に関わるノウハウを提言としてまとめているため、本稿と併せて参照されたい。
これらの取り組みが企業のサブスク事業を進める一助となり、サブスクの成功確率が高まることを願っている。

資料申し込み>>サブスク事業に関する実態調査 なぜ91%のサブスクは失敗するのか?

渡部 嵩大

新規事業戦略担当

コンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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