QUNIE

2020.05.01

デジタルトランスフォーメーション(DX)への第一歩 ~DX推進編~

【第4回】Withコロナ/AfterコロナのDX・デジタル技術活用とは

コロナ禍の今こそ、真のDXへ変革のとき

井出 昌浩 

新型コロナウイルス感染症が全世界で猛威を振るっている。この状況が広範囲かつ長期戦になるにつれ、経済に与える影響はさらに大きくなっていく。また、リーマンショックとは違い、これまでの社会やビジネスにおける前提となっていたものが崩れ、テレワーク/リモートワーク化などへの変化を余儀なくされている。
いずれは新型コロナウイルスが収束する日がやってくると考えているが、既にその時には、Before コロナ(コロナ以前)の社会、ビジネスの価値観とは大きく変わっているのではないか。
当然、経済状況、社会とビジネス、個人の価値観・行動様式などの前提が変わり、DXという取り組みにも大きな影響があると考えられる。以前と違い、行動・消費が制限されることから、その一面でも社会やビジネスにおけるデジタル技術活用が命綱になる。
そのことから、我々はWithコロナ/Afterコロナ(コロナ以後)のDX、その先に訪れるコロナ時代のニューノーマル(構造的な変化による新たな常識・常態となること)のDXを考えていかざるをえない状況だ。したがって、現在策定中や実行中のデジタル戦略、DXの推進方法について、早期の見直しが求められている。
今回は、DX推進にあたり、Withコロナ/Afterコロナでのデジタル戦略の見直し方、プロジェクト運営を停止させない方法、そして今こそ求められる、将来を支えるデジタル人材育成の進め方について解説していく。

Withコロナ/AfterコロナのDXに向けて、今すべきこと

デジタル戦略の策定・実行担当者は、この状況を踏まえてまず何をすべきなのか。

デジタル戦略は、ビジネス戦略(経営戦略、事業戦略)との整合性を確保したうえで策定していたはずである。ところが、Before コロナとWithコロナ/Afterコロナでは、社会構造、価値観が刻々と変化し続けることから、当然ながらビジネス戦略も大きく変わっていくだろう。したがって、環境変化に適応して変わりゆくビジネス戦略に対し、どのようにその実現に寄与するべきかという観点から、早急なデジタル戦略の見直しが求められる。

デジタル戦略はビジネス戦略と同時に策定する

 

近代マーケティングの父と称されるフィリップ・コトラー教授は、新型コロナウイルス感染症の影響で、マーケティングの在り方も変わると述べている[1]。今回の影響は、マーケティングだけでなく、サプライチェーンマネジメント、エンジニアリングチェーンにも及ぶであろうし、社会・業界構造、バリューチェーン全体にも及ぶはずである。そうなると、ビジネス戦略の前提が抜本的に変わることは明白だ。

果たして、この流れはDXにとって悲観的なものなのだろうか。筆者は、慣習や制約を外すことができずに限定的なデジタル技術活用であったDXが、この機会に大きく変革すると期待している。Withコロナ/Afterコロナでは、Before コロナの慣習や制約を外して、社会・業界構造、ビジネスの在り方を抜本的に考え直す必要に迫られ、あらゆる視点・視野でデジタル技術活用が検討されることであろう。これはまさにDXそのものであり、DX推進の最大で最後のチャンスではないか。

では、ビジネス戦略の見直しが終わるまで、デジタル戦略の見直しの着手も待つべきであろうか。答えはNOだ。まずWithコロナ/Afterコロナの変化を推測して、ビジネス変革の方向性を定める。そして、さまざまな局面で活用が試行されているデジタル技術の応用を分析しつつ、社会の状況にあわせてDXを推進できるように、今このタイミングでデジタル戦略の見直し、もしくは策定に着手すべきである。

Withコロナでは、国内/国外を問わず現場に訪問すること、人(顧客、取引先、他の従業員など)に会うことが制限されている。Afterコロナでも、対面式コミュニケーションは最後の一部分に限定化されることが想定される。その状況下では、デジタル技術(5G、AR/VR、モバイルなど)を活用してビジネスを止めないことが一般的になるであろう。例えば、さまざまなデータを収集して、遠隔地同士で可視化・分析し、判断・伝達・制御などのあらゆるコミュニケーションをデジタル化することになるだろう。つまり、デジタル技術の活用は不可欠で、その活用方法・頻度・レベルでますます企業間の競争力に差がつくのだ。

このようなビジネス環境が到来することを前提として、価値を提供すべきステークホルダーは誰なのか、そのステークホルダーそれぞれに対して提供すべき価値は何なのか、価値を提供するためには、どのようにデジタル技術を活用して業務を変革していくのか、という点を改めて検討する必要がある。企業運営の停滞を長期化しないためには、早期にこの検討に着手すべきだ。まさに、DXの見せ所の一つである。

プロジェクトを停滞させない、そのためのデジタル化

この状況下で、推進中、もしくは新規に予定しているプロジェクトの運営に影響があったというケースは少なくないだろう。

その原因の一つは、集合・対面形式を前提としたプロジェクト運営およびプロジェクトマネジメントだと考えている。Before コロナでは、集合・対面形式の会議体での報告、情報共有、レビュー、意思決定をプロジェクト運営の基本としていた。Withコロナ/Afterコロナのプロジェクトでは、Before コロナの運営・マネジメント方法のままでは、DXに限らず、あらゆるプロジェクトを推進できなくなり、プロジェクト停止、新規プロジェクト組成の見送りにつながる。それでは、企業の競争優位性の確保や獲得はより困難になってしまう。

これを回避するためには、プロジェクト運営・マネジメント形態の変革が必要だ。具体的には、デジタル技術の活用と、その技術にあわせたプロジェクトマネジメントプロセスの変革だ。ここでいうデジタル技術とは、オンライン会議ツールだけでなく、チャット、Wiki、タスク・成果物の管理・共有など、プロジェクトに関する情報やコミュニケーションの管理ツールなどを指す。端的に言えば、プロジェクトのデジタル化が必要なのだ。企業は、プロジェクトを止めないためにも、早急にプロジェクトのデジタル化、それを実行できるための環境整備とマネジメントプロセス変革、デジタルリテラシーの向上と意識変革を進める必要がある。

これによって、場所と時間の制約を外すプロジェクト2.0(次世代プロジェクト)の運営ができ、グローバルレベルで複数のプロジェクトを効率的・効果的に運営ができる。実際に、ロックダウンされているイタリアでコンサルティングをしているNTTデータグループのメンバーは、デジタルを活用したプロジェクト運営方法に変えることで、実施が困難と考えられていた構想策定段階のアイディエーションとワークショップを問題なく実行し、Before コロナと成果は変わらなかった、と話している。

上記のプロジェクト運営と関連して、DXのために必要となる情報システムの開発と運用の現場では、この機会に開発の自動化、オンライン開発、運用自動化、遠隔運用などのIT開発DX、IT運用DXが進むものと思われる。それによって、以前から言われている、人月ビジネスから脱却したビジネスモデル変革が進む。また、働き手であるエンジニアの観点では、勤務地や時間に縛られることのない多様な働き方がさらに進むだろう。この領域のビジネスモデル変革、働き方変革が進むように、日本発のIT業界・IT部門に対するDXソリューションが開発され、適用されることを期待したい。

Withコロナ/Afterコロナの情報システム開発、情報システム運用は、重要な内容と考えているため、今後の連載で取り上げ、別途論じていく。

今こそWithコロナ/Afterコロナのデジタル人材育成を加速せよ

連載第1回で、DX推進のために不可欠なデジタル人材育成は一階層や一部門に限られず、全社の人材に関係することから、時間をかけて育成すべきと論じた。しかし、新型コロナウイルスの影響によって、営業活動の自粛、生産ラインストップなど、Before コロナと比較して通常業務が減少している今、時間の確保が期待できるという点で、人材育成を加速する好機と考えられる。このコロナ禍においては、時間を要する人材育成に対して時間的な投資を図り、人材育成の優先度を上げるべきだ。そして、早期にデジタル人材育成の施策や実行タイミングの見直しを図り、実行するべきではないだろうか。

人材育成では、新しい知識の獲得が必要となることから、育成施策として研修が多く、Beforeコロナでは集合研修(会場に参加者、講師が集まり、リアルな場で対面での研修)が通常であった。しかし、Withコロナ/Afterコロナでの集合・対面形式での研修開催は、当面困難と考えられる。その場合、オンライン形式を前提とした研修を企画・開発しなければならない。

筆者らは、2020年2月から、複数の企業でデジタル人材育成研修をオンライン形式で開催した。その際、基本的な準備さえしていれば、参加者の理解度・満足度について集合・対面形式と差が出ないことがわかった。さらには、集合・対面形式と比較して参加者の理解度が向上している研修も存在している。これは、チャットでの気軽な質疑応答や、参加者同士の意見の可視化など、オンラインツールならではの機能に利点があるからだ。これらの利点を活かすには、はじめからデジタル技術を活用する前提で研修内容を企画し、参加者とのコミュニケーションを仔細に設計することが求められる。

オンライン研修で高い教育効果が見込めるようになると、今までの研修の制約だった時間(移動、回数など)、経費(会場までの移動、会場手配など)がなくなり、容易に研修開催が可能となり、育成を加速できる。

デジタル人材育成に取り組んでいる企業、取り組もうとしている企業は、早期にオンライン研修開催に着手すべきではないだろうか。それによって、研修参加者のデジタルツールのリテラシーもあがり、DXの取り組み自体にも好影響を与えることが期待できる。自社での研修開発が困難な場合は、外部のオンライン研修も豊富にあるため、それをコース化して案内することも可能だ。表情分析や講師の講義内容のテキスト化などのオンライン研修におけるデジタル技術も進化しつつあり、大学でもオンラインで講義が実施されはじめている(筆者が非常勤講師を担当している大学でも、オンラインでの講義を開講中)。これを機に教育現場のデジタル変革(教育DX)が進み、教育サービスが高度化されることを期待しつつ、そのことを企業も積極的に適用することで、企業のデジタル人材の育成が加速することが望まれる。

最後に

このコロナショックを機に、ビジネス、個人の価値観・行動様式などの前提が大きく変わると考えられる。人と直接会うことは難しくなるため、対面式コミュニケーションを最小化する前提で、DXを進める必要がある。その状況を踏まえ、Withコロナ/AfterコロナのDXの在り方、プロジェクトの進め方、デジタル人材の育成に関して、現段階の見解を解説した。

今後の連載でも、日本のDX推進が加速するよう、刻々と変化する新型コロナウイルスの情勢を分析しながら、Withコロナ/Afterコロナ、その先に訪れるニューノーマルの社会環境、価値観の変化の予想とともに、デジタル技術の活用、DXの進め方について論考を展開していく。

最後に、新型コロナウイルスの収束を願う。

  1. [1] 日経 BP 社, 「時事深層 「ニューノーマル」への覚悟を」, 『日経ビジネス,』 No.2039, 2020.4.27, p12.

井出 昌浩

ITマネジメント/デジタルラボ担当

マネージングディレクター

メーカーにてITを活用した生産技術の研究開発業務に従事後、SIerを経てNTTデータビジネスコンサルティング(現QUNIE)入社。ビッグデータ、アナリティクス、AI、IoT等のデジタルテクノロジーに精通し、デジタルテクノロジーの活用、デジタルビジネスモデルの開発、データサイエンティスト/デジタル人材育成など多岐にわたるプロジェクトをリードする。また、研究開発機関であるQUNIEラボ/デジタルラボをリードする。博士(数理情報学)、東京農工大非常勤講師、複数大学の客員研究員を兼ねる。

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