QUNIE

2020.08.12

デジタルトランスフォーメーション(DX)への第一歩 ~DX推進編~

【第5回】日本のものづくりにおけるWithコロナ/AfterコロナのDX

DX化の新たな視点「人を守り、社員を守るためのDX」へのパラダイムシフト

辰巳 綾夏 

新型コロナウイルス感染症の蔓延が収まらない中、世界の2020年DX向け投資は前年比10.4%増、1兆3千億ドル超と予想されている[1]。一方、日本の国内ICT市場は前年比5.3 %減の27兆5,927億円に留まる予想となった。日本国内でも、一部の先進企業を中心にDX投資が活性化することや、政府によるICT投資が選択的に行われることを前提としているが、それでも前年より減少の予想である[2]。

そもそも、日本企業のDX化は欧米企業に比べて何周も遅れていると言われている。また、2020年7月16日に発表されたIMDの世界競争力ランキングでは、日本は過去最低の34位に凋落している。日本の順位を大きく落としているのは、「ビジネス効率」の指標だ。これは、経営者や熟練技術者の高齢化が進む中、事業承継やシステム化はそれほど進まず、急激な環境変化や不確実性に意思決定のスピードが追い付かなくなり、対応しきれていない企業が多いことが大きな要因と考えられる。DX化の遅れが結果として国際競争力の順位に表れており、近年の後退を続けているのではないだろうか。今、世界中が新型コロナウイルス感染症への対応でデジタル化による非接触・リモート化を進める中、日本は他国に比してDX投資を減らし、さらに国際競争力を失っていくのだろうか。

世界の2020年DX投資額のうち、支出額が大きいと予想されているのは製造セクターのユースケースが多い。日本では、製造業がGDPの約2割を占め、今もなお経済活動の中心的存在であり続けているため、製造業のDX化は国際競争力を上げる大きな要因になる。逆に時流から後れを取れば、更なる国際競争力の低下につながるだろう。本稿では、With/Afterコロナの世界で製造業のDX化に新たに加えたい視点と、DX実現を阻む要因について、一つの見解を述べたい。

製造業(ものづくり)の現場 +「人を守り、社員を守るためのDX」という視点

今までのデジタル化は、既存のビジネスを前提とした業務効率化や省力化を目的としていたが、そもそもDX化とは、ビジネスモデルやステークホルダーの変化を伴う革新的なデジタル化を指す。新型コロナウイルス感染症の表出をきっかけに、感染防止のためのニューノーマル(構造的な変化による新たな常識・常態となること)への適応が求められており、人と人との”物理的空間”や”時間”を超えるためのデジタル化が進んでいる。「人を守ること」を目的としたDX化は医療業界や小売事業で注目されることが多いが、人と人が介する場がある限り、業界・分野を問わず徐々に広がりをみせている。

製造業(ものづくり)の現場に視点を移してみても、人を感染から守る、すなわち非接触・リモートで”物理的空間”や”時間”を超えるために活用できるデジタル技術は既に出揃っている。

<“物理的空間”や“時間”を超えるためのデジタル技術利用例>
  • クラウドを経由した3D設計ツール(3DCAD等)の利用
  • 3Dデザインレビューによる試作レス(オンラインで共有し、現物の試作を代替)
  • 3Dプリンティングによる部品製造(パーツをデータ化し、自動で製造)
  • デジタルツイン[3]の技術を用いたサイバー空間からの設計品質改善
  • 無人ロボットによる工場消毒作業
  • コグニティブサービス[4]による画像認識や音声認識、ジェスチャー操縦、オペレーション分析を活用した遠隔機械操作
  • AIやAR/VR技術+5Gの通信技術を組み合わせた、熟練技術者による遠隔現場指導
  • IoT技術による機械センサーやビデオ監視データからのリアルタイム監視・分析
  • IoT技術+AI・機械学習による異常感知や予兆保全 等々

また、導入時には全てオンプレミス(自社の独立したサーバ上)で準備するのではなく、クラウド利用や両者をつないだハイブリッド型でも導入ができ、従来のシステム導入に比べれば実現もしやすくなっている。

技術の進歩は今後も続くものではあるが、今の時点でも最新のデジタル技術は出揃っており、「人を守り、社員を守るためのDX化」は十分検討を進められる段階にあると考えられる。

DX化の大きな阻害要因は、技術ではなく「部分最適化したデータ」と「難しさが増した合意形成プロセス」

コロナ禍で技術革新が数十年先まで一気に進んだと言われている。前述のとおり、最新技術は手元に揃ってきている。それにもかかわらず、他の先進国に比して日本だけがDX投資を渋っているのはなぜか。なぜ、DX化の追い風があっても一歩を踏み出しにくいのだろうか。そこには技術の進歩ではなく、別の要因があると考えている。

1つは、既存システムごとの「部分最適化したデータの存在」である。

過去には各工程・拠点等で別々に構築し、当時としては使いやすく画期的なものとして導入されたシステムは、今もそれぞれのシステムとしては最適な状態で運用されているのではないだろうか。しかし、システム同士をつなぎ始めたところで、データの読み替えや編集・加工作業が発生し、1つのモノがシステムごとに別のデータとして定義されたまま、なんとか運用されているケースが散見される。部門、拠点、事業所、子会社…同じモノが4つの別データとして存在していることもある。これでは、データを見ただけでは何を指しているのかすぐに判断できない。つまり、せっかくデータが蓄積されていても、分析の難易度が上がってしまい、利活用できないまま放置されてしまう。

DX化を進めるにあたり、データとは収集するだけではなく、分析し、予測や機械学習に使えることが前提となる。例えばIoT技術の活用では、製品が出荷された後、実際にどのように使われ、どうすれば品質を上げられるのか、設計段階までフィードバックできてこそ、DX化と言える。部分最適なデータのままでは、何段階も前の工程までフィードバックすることは難しい。

誰でも同じデータは同じモノを指すように判定できる状態を目指し、データの統一化を図ること。データそのものが全ての工程をつなぐキーとなり、技術者から経営者に至るまで、皆が共通言語として用い、つながりを作ること。部分最適から全体最適へとデータ定義そのものが変貌を遂げる必要がある。

ものづくりの現場で「全体最適化されたデータ」の実現を考える際には、5M+1E[5]の観点で整理するとよい。高い品質を保ちながら、決められた数量を属人化せずに生産するには、5M+1Eをデータ化し、統合管理しておくことでデータ駆動型の仕組みとなり、状況変化に耐え得る品質の確保や顧客対応力の向上にも役立てることができる。

経済産業省のDXレポート[6]によると、約7割の企業[7]が既存システムはDXの足かせとなると認識している。一方で、多くの企業は、既存システムのランニングコストが大きいことも、保守・運用の属人化による継承の難しさも、既存システムを長きに渡り運用してきたからこそ実感があり、またここで多額のIT投資をしても同じことの繰り返しになるのではないかという恐れがあるのではないだろうか。

確かに、デジタル技術そのものは進化を遂げていくが、データなくしてデジタル化は実現しない。例えばデータ分析の手法や速さ、予測精度が変わっても、現状を把握するためのデータ自体が不要になることはない。利活用しやすいデータを早いうちから蓄積し、必要に応じて取り出せる状態にしておくことは、DX化の土台になる。

「人を守る、社員を守るためのDX化」でのデータおよびデジタル技術活用例

 

2つ目に、新型コロナウイルス感染症の影響で、「合意の難しさが増したこと」も歯止めをかけていると考えられる。

企業の意思決定こそ、三密に三密を重ねてやっとの思いで一つの案にゴーサインが出ていたのではないだろうか。内容の検討打ち合わせから始まり、関係部署への聞き取り、プレ会議、根回しに意見交換、実行関係者の本会議、決裁権者との最終承認会議…等々、多くの対面型説得による合意を経て、重要な意思決定がなされてきた。しかし、ソーシャルディスタンスを守るため、会議のオンライン化や在宅勤務、時差出勤、少人数短時間での打ち合わせの推奨等、今までの調整プロセスが踏めなくなり、以前よりも情報を伝えづらく、掴みづらくなった。会議室から帰る途中で「ちょっとあの人を捕まえて、『今のどうでした?』と訊ねて巻き込もう」といった戦術もとれなくなった。例え会議室で会議があったとしても、今はむしろ近距離で話しかけてほしくない、と直感的・心理的に嫌がられるかもしれない。 もとよりDXの案件では、新しい技術・アプローチを利用するため、プロジェクトの目的や実現イメージを理解しにくく、合意形成の難易度は通常より高い。だからこそ、コロナ禍において従来のプロセスを踏めないこの状況は、DX化推進に歯止めをかける要因となっている。

それでも合意を取って前に進めるには、社員としては、リモートであることや物理的空間が隔たりになることを前提とし、自ら関係者に連絡を取り、言葉を尽くすしか方法はない。日本で通用してきた「空気を読む」ことが通用しなくなる分、言葉や図で表現することの重要性は増してくる。「伝える」のではなく、「伝わる」ことを意識した言葉の選択をし直して話すのはもちろん、相手がどう理解したかを問いかけて相手の言葉で言い直してもらうだけでも、認識に齟齬がないかを確認することができる。言い方を工夫して相手の理解度を確認することも一つの手段になるだろう。

一方、企業側としては、第4回でも述べた通り、社員が自らの声を発する機会を増やせるよう、リモートワークに必要な機器の供給や補助、ツールの導入を早期に検討すべきである。社員にただツールを配布するだけの突貫工事的な導入ではなく、離れていてもオフィスに出勤した時と同等の業務ができる状態を目指し、運用面の整備にも配慮すべきだ。例えば、社員同士が気軽に声かけできるようなチャットルームを用意したり、正式な会議ではなくちょっとした質問でも顔の見えるビデオ通話を利用した会話を推奨したり、オンラインで頻繁に意思疎通を図ることのハードルを下げる仕組みづくりとその浸透への努力が必要になる。オフィスの席で声をかけるかのように、チャットで「今2~3分コールしてもいいですか?」と聞き、相手がOKであればビデオ通話でコールして短時間で相談し解決するような流れが当然の文化となるレベルを目指したい。今後しばらくの間、Withコロナの状態は続くと言われている。一時的なものだと捉えて整備を怠れば、社員間での新たな付加価値・アイデアの創出は生まれなくなる上、合意や意思決定のスピードが落ち、企業としての競争力の低下の一因となるだろう。

本件については、どちらかが努力すればよいわけではない。社員側、企業側共にニューノーマルに適応し、今だからこそDX化の取り組みに前向きな合意形成をして欲しい。

おわりに

今は新型コロナウイルスの感染から「人を守る」という観点が強く意識されるようになり、人々の行動様式はニューノーマルへと変わりつつある。そして不確実で見えない敵への不安はまだまだ大きい。各企業がデジタルの力で1人でも多くの人が安心・安全に働ける環境づくりを進め、日本としてはDX化の遅れも一気に取り戻せれば、国際競争力の巻き返しも叶うだろう。私見だが、人との距離を保とうと意識すると、自身の行動を選択するにあたって、その相手を思いやる意識がおのずと強まるように感じる。「人を思いやる」という“人間しか持ちえない能力と最新のデジタル技術の融合”こそ、“真のDXの具現化”と言えるのではないだろうか。ものづくり大国日本のプライドにかけ、製造業における「人を守る、社員を守るためのDX」の加速に大いに期待したい。

  1. [1] IDC Japan, “新型コロナウイルスの試練にも関わらず2020年もデジタルトランスフォーメーションの成長は続く見通し”,
    https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46511720, (参照 2020年8月12日)
  2. [2] IDC Japan, “新型コロナウイルス感染症の2020年6月末時点での影響を考慮した国内ICT市場予測アップデートを発表”,
    https://www.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prJPJ46660920, (参照 2020年8月12日)
  3. [3] デジタルツイン:デジタル上の仮想世界(サイバー空間)に、現実世界(フィジカル空間)の空間やモノをデータとして送り、リアルタイムに再現する技術
  4. [4] コグニティブサービス:数値やテキストのみならず、自然言語や画像、音声や人の表情などの空気感を理解し、結果を推論立て、さらに自己学習するシステム
  5. [5] 5M+1E :製造工程における品質管理の要素。人(Man)、機械・設備(Machine)、方法(Method)、原料・材料(Material)、測定・検査(Measurement)、環境(Environment)
  6. [6] 経済産業省, “DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~”,
    https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html, (参照 2020年8月12日)
  7. [7] 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会, “デジタル化の進展に対する意識調査”.加盟企業のうちシステム関連業務の管理職以上を対象(n=180), http://www.juas.or.jp/cms/media/2017/03/digitalization2017.pdf, (参照 2020年8月12日)

辰巳 綾夏

ヒューマンキャピタルマネジメント担当

シニアコンサルタント

大手外資系コンサルティング会社にて大規模会計基幹システムの構想策定や業務プロセス改革支援等に従事し、プロジェクトの成功は、技術のみならずやはり「人」にあると実感。人事分野に移り、企業向け研修の企画営業職として業界・業種・規模を問わず、多数の企業の人材育成を中長期に渡り支援。その後QUNIEに入社し、現在は人材育成構想、人事制度改革等、人事分野のハード面のコンサルティングに幅を広げて従事。

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