QUNIE

2020.05.21

SDGs17ゴールの達成に向けた事業開発

【第2回】アフリカで加速するヘルスケアビジネスの可能性

人口急上昇中のウガンダ、その裏側にあるビジネスチャンスを探る

大島 佳菜 

Summary

  • 途上国政府はユニバーサルヘルスカバレッジ達成に向けてヘルスケア分野への財政支出を増やすとともに、開発援助機関からの同分野への投資も増加傾向にある
  • 日本国政府と民間連携を推進しているウガンダでは、国民皆保険制度が開始されることとなり、プライマリヘルスケアに関連するビジネス機会の拡大が予測される
  • 制度改革による市場変化のタイミングで、ルールメイキングも視野に入れた有力なローカル企業とのパートナーシップが、日本企業のアフリカヘルスケア市場進出への鍵となる

ウガンダ首都カンパラで目にする光景は、朝から民間病院の前に並ぶ患者の姿だ。また、国立病院の敷地内には、民間による医療サービスの病棟が設けられ、最新の設備が立ち並ぶ。ウガンダの民間医療機関は全体医療施設の約30%を占め、ケニアを除く周辺国のそれが10%~20%であることと比較しても、民間の進出が著しいことがわかる。その背景の一つとして、ウガンダの人々は自己負担が高くても、質のよいサービスを求め、公的医療機関より民間医療機関を利用する傾向があるといわれている。いまだ低所得国であるウガンダのヘルスケア市場では今、何が起こっているのか。

国民皆保険制度に潜むヘルスケア需要の拡大

2015年9月の国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、前目標MDGs(ミレニアム開発目標)では実現できなかった民間セクターとの緊密な連携を重視したことで、近年、公共や社会セクターのみならず、民間セクター間でも同用語が広く浸透してきている。SDGsでは17のゴールが設定されているが、その中でもヘルスケア分野の目標は、ユニバーサルヘルスカバレッジ(Universal Health Coverage: UHC)の達成である。UHCの定義は「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられること」とされる[1]。2015年以降の世界のヘルスケア分野への支出総額は2015年から3.1%増加し、2016年の時点で800兆円に達した[2]。途上国においても政府や開発ドナーによるヘルスケア分野への投資がここ20年で増加傾向にある(図1)。特に後発開発途上国が多いサブサハラアフリカでは、個人の支出も含めヘルスケア分野への支出増加が顕著だ(図2)。

図1:途上国におけるヘルスケア分野支出傾向

 

図2:サブサハラアフリカにおけるヘルスケア支出

出典:世界銀行[3]、IHME[4]のデータをもとに筆者が作成

サブサハラアフリカに位置するウガンダも、その達成に向けて動き出した国の一つとして挙げられる。現在の同国の人口は4200万人で、年間都市人口増加率は5.2%と世界で最も高い水準にある[5]。ウガンダでは一部の治療を除き、原則として公的医療施設で無料の医療サービスを受けることができる。しかし、これまで、ヘルスケア分野に対する政府支出は一般財源から毎年捻出されていたため、政治や経済動向などに左右される不安定かつ不十分な財政基盤であった。これにより、一次レベルの医療機関のみならず、上位レベルの病院でさえも人口の増加に追いつかず、医師、薬、医療機器などが不足しているのが現状だ。患者はこのような公的医療機関の不十分なサービスに満足がいかず、特に都市部では、自費であっても質の高い民間医療機関などに患者が集中する傾向が見られる。しかし、すべての人が医療費を支払えるわけではなく、病院に行かず症状が悪化するケースや医療費によって貧困に陥るケースも存在している。このような状況を踏まえ、政府は今後の人口ボーナス期を支える人的資源を強化すべく、本格的に医療制度改革に着手し始めた。その一つが2019年に内閣で承認された国民皆保険制度案である。これにより、これまでヘルスケア予算の大半を占めていた開発ドナーによる資金援助に加え、今後は健康保険料による莫大な資源が動員されることとなる。健康保険料の設定基準については国会で審議中ではあるものの、2020年3月時点の情報によれば、政府および民間の従業員は月給の4%を拠出し、雇用主は各従業員の月給の1%を拠出することになる。また 年金受給者は毎月の年金支払いの1%を拠出し、自営業者は年に100,000ウガンダシリング(≒$26)を支払う予定である[6]。今後、国民皆保険導入により適切な資金が動員され、すべての人がサービスを利用できるようになれば、同国でのヘルスケア市場はさらに拡大していくと推測される。

日本企業のヘルスケア市場開拓の切り口

国民皆保険導入の動きに並行して、日本政府は、2019年8月、第七回アフリカ開発会議(TICAD7)で宣言されたアフリカ健康構想の一環として、ウガンダ保健省との間で、ヘルスケアと健康分野における協力覚書を交換した。これはウガンダのヘルスケア分野における日本企業の投資促進を目指しており、同国の持続可能な事業環境整備に向けた支援を約束している。今後ウガンダでは、プライマリヘルスケアに重要な、医薬品、ワクチン、医療機材・資材、情報技術、人材育成などにかかる需要増加が予測される。その中でも、外資企業との競争が激しいとされる医薬品・ワクチン分野においてはインドが51%、次いでベルギーが10%、中国が8%のシェアを占めており、既に競争が激化している[7]。一般的に開発途上国では高額な先発医薬品ではなく、安価なジェネリック医薬品が処方されるため、既にウガンダで製造・販売を行っているインドの最大手ジェネリック医薬品メーカーCipla社のような新興国企業と、価格競争で対等に渡り合うのは決して容易ではない。しかし、日本の製品・技術・サービスが活躍できるフィールドは存在する。それらフィールドとして、高額でも品質が良く耐久年数が長い医療機器や、精度の高い画像診断技術などが挙げられる。現在の公的医療機関には、これら設備が十分に整っていないが、今後は民間医療機関とのサービスギャップを埋めていきたいという政府のねらいが垣間見られる。また疾病の切り口からいえば、感染症予防・治療にかかる日本企業の高い技術・製品のニーズも引き続き存在する。ウガンダに進出している日系企業は限定的であるものの、疾病対策の分野では大阪府の衛生製品メーカーサラヤ株式会社が、医療機関への消毒剤販売の事業展開に成功している。同社はJICA等の支援を受け、ウガンダ医療機関で問題となっている術後感染症等に対して、国内バリューチェーン構築や現地のニーズに沿った商品開発を行った。また、現地ではもともと手を洗う習慣がなかったため、現場への啓発活動やトレーニングも行った。このサラヤの事例のように、一般的に途上国でビジネスを行う際は、人々の生活習慣や行動変容などにも配慮する必要がある。前述した日本政府との二国間協力覚書による公的支援等も大いに活用し、現地に寄り添う事業モデルを模索することが、今後拡大していくウガンダのヘルスケア市場の進出において欠かせないだろう。

ウガンダの医療改革に挑む若手起業家たち

現地に寄り添うビジネスを行うという意味では、現地のニーズや商慣習を熟知しているローカル企業とパートナーシップを組むことも一つのアプローチとして検討される。ウガンダのローカル企業には、若年人口が多いことからも、若手起業家たちによるスタートアップが多く存在する。それを代表するかのように、首都カンパラの郊外には“イノベーションビレッジ”という起業家たちのコワーキングスペースが設けられている(写真)。ビレッジはマスターカード財団、国連資本開発基金(UNCDF)、大手通信企業、研究所などの資金によって運営され、ビジネスツールの共有や、マッチングプログラム、スタートアップ向けの資金調達スキームなどを通じて、140人以上の起業家へ支援が行われている。

写真:Innovation villageの様子

 

質に価値をおく同国のヘルスケア分野では、特に高いヘルステック技術を活用した起業家たちの活躍が著しい。clinicPesaは、登録済みの診療所、病院、または薬局で、必要な時に医療費を支払えるヘルスファイナンスサービスを提供するスタートアップである。これまで包括的な健康保険制度が確立していなかったウガンダでは、少額の医療費でさえも支払えない患者が多数存在した。そのためclinicPesaでは大手通信会社MTNとの協業のもと、1200万人のユーザーに対し、無利子のデジタルマイクロローンと貯蓄プラットフォームを構築した。これにより医療保険のない人々が必要な時に安心して医療サービスを受けられる仕組みをつくりあげた。ユーザーはインターネットなしで使えるUSSDコード[8]や電子マネープラットフォームを使用して、日、週、月の単位で自動送金をしたり、金銭的に余裕のあるときに少額のお金を自身の口座に送金したりして、医療費の支払いや薬購入のための貯金をする。マイクロローンについては、ウガンダ国民は節約文化が乏しいこと、生活費から教育費までほぼ電子マネーを活用することを踏まえて、ユーザーの電子マネー取引記録に基づき信用力審査を行っており、所得レベルに応じて医療保障枠を設定している。この取り組みは、グーグルやマサチューセッツ工科大学からも支援を受け、現在はケニアでもサービスが普及し始めている。

また、モバイル端末を医療に利用するモバイルヘルスサービスのスタートアップも存在する。その中でも社会起業家で構成されたHerHEALTHは、女性特有の尿感染症のスクリーニング検査ツールを開発し、個々の患者への健康診断事業を実施する企業として有名である。ウガンダの女性の多くは男性の医師に対して健康問題について話すことを不快に感じ、体調の悪いときは市販の薬でセルフテストを行う傾向がある。このような傾向を踏まえて、女性に焦点を当てたモバイルヘルスサービスが考案された。ユーザーはスマートフォンのアプリケーションを使用して、尿または膣分泌物のサンプルを検査してPH値を検出し、体内の健康または不健康な細菌の量を特定することができる。これまで医療施設へのアクセスが困難であった女性たちの健康管理を実現させたHerHEALTHは、国内外のビジネスコンテストで表彰されており、今後は南米のチリでも同サービスを開始する予定である。

最後にウガンダ発の電子カルテ事業会社ClinicMasterは、統合された医療情報管理および医療費請求ソフトウェアを提供している。ウガンダではいまだ多くの医療機関が紙ベースで患者情報を管理しているが、同社が開発したソフトウェアによって、 診療所における患者の診療内容のオートメーションや医療記録の電子化が実現している。2020年3月時点で約40の医療機関に導入されており、顧客の大半が大規模、中規模民間病院である。本事業は、ウガンダに限らず、南スーダンの病院にも導入が始まっており、今後ウガンダ発のヘルスケアビジネスは、国民皆保険が導入されていく中でますます本格化されていくものと考えられる。

現地企業とのパートナーシップの構築

日本企業がウガンダのヘルスケア市場に進出するために、これら現地企業とのパートナーシップを模索するのであれば、日本企業側からは技術や資金的投資の面で協業していくことが一つの形態として考えられる。例えば、ClinicMaster の場合、現在は医療機関ごとに蓄積している個々の患者の医療データを、将来的には公共機関も含めて異なる医療機関で相互に共有できるよう、より面的なヘルスケア情報サービス事業を構想している。しかし、現状では情報セキュリティ等を含めた技術や導入資金面に課題が残る。よってClinicMasterは電子カルテ市場のシェアをさらに拡大していく上でも、ヘルステックに強みをもつ企業とのパートナーシップが欠かせないと考えている。特に、日本企業が有するブロックチェーン等を活用した地域医療ネットワークシステム技術や設備投資における協業が高く期待される。その他、現地企業とのパートナーシップを締結する際は、共通目標設定や責任・役割分担等の基本事項に加え、外部環境についてもお互いの認識を合わせておくことが重要だ。日本のように情報管理にかかる規制や政策が十分に確立されていないウガンダでは、これら外部環境も自ら働きかけていくことが求められる。情報管理制度を担当するウガンダのICT省職員によれば、これから公共サービスのデジタル化促進のために、ヘルスケア情報関連の法整備を開始するという。整備していく過程には、サービス提供側である民間企業の意見を特に取り入れたい、と制度構築における民間連携に高い意欲を示していた。民間企業の中でも、現地企業のみならず、すでに経験を有している日本のような企業との連携を望んでいる。このように、連携が期待されている日本企業は、早い段階からICT省、保健省等の現地政府、そして国際協力機構(JICA)、日本貿易振興機構(JETRO)、現地日本大使館等の日本政府機関も巻き込み、ルールメイキングも視野にいれた現地企業とのパートナーシップを構築していくことが望ましいと考えられる。

おわりに

ウガンダは近年の人口上昇により、ヘルスケアに対する需要が高く、都市部の人々を中心にサービスの質への期待も大きい。それを象徴するかのように、現地のニーズに合った高度な技術を持つ民間企業も数多く存在する。今後は国民皆保険導入により、公的医療機関も含めさらにヘルスケア市場は拡大していくことが推測される。同国ではビジネス環境として法整備や人材育成などの課題はまだあるものの、逆に発展途上だからこそ、現地パートナーとともに日本企業が参入できるフィールドは大いに存在する。国民皆保険のような制度改革による市場変化を早い段階でとらえ、日本政府や現地政府による公的支援を味方に、日本企業のアフリカヘルスケア市場への進出を期待したい。

  1. [1] World Health Organization, “Universal Health Coverage”, https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/universal-health-coverage-(uhc), (参照 2020年5月15日)
  2. [2] Institute for Health Metrics and Evaluation, “Financing Global Health 2018”,
    http://www.healthdata.org/sites/default/files/files/policy_report/FGH/2019/FGH_2018_full-report.pdf, (参照 2020年5月15日)
  3. [3] World Bank, “World Bank Open Data”, https://data.worldbank.org/ (参照 2020年5月15日)
  4. [4] Institute for Health Metrics and Evaluation, “Financing Global Health”, https://vizhub.healthdata.org/fgh/,
    (参照 2020年5月15日)
  5. [5] World Bank, “Uganda Overview”, https://www.worldbank.org/en/country/uganda/overview, (参照 2020年5月15日)
  6. [6] Ministry of Health Republic of Uganda, “Questions and Answer Booklet on the Planned National Health Insurance Scheme 2019”, https://www.health.go.ug/resources/, (参照 2020年5月15日)
  7. [7] Pharmexcil, “Uganda Market”,
    https://pharmexcil.com/uploadfile/ufiles/201360076_Uganda%20market%20report.pdf, (参照 2020年5月15日)
  8. [8] Unstructured Supplementary Service Dataの略。GSM(Global System for Mobile)で利用可能なメッセージ交換技術をさす

大島 佳菜

途上国ビジネス支援担当

コンサルタント

米国NGO、製薬会社、政府開発援助(ODA)機関を経てQUNIEに入社。医療政策、保健システム、医療財政を専門分野とし、定量・定性分析、モニタリング・評価、途上国政府へのアドバイザリー業務を実施。世界銀行と協業しケーススタディを執筆。現在は、ヘルスケア分野のビジネスコンサルティングに特化し、アフリカを中心とした途上国への企業進出と現地の課題解決に従事。開発学修士、公衆衛生学修士。

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