QUNIE

2020.03.16

SDGs17ゴールの達成に向けた事業開発

【第1回】観光振興によるSDGsへの貢献

大洋州地域における「持続可能な観光」の実現を目指して

三浦 雅子 

Summary

  • 観光は世界的に成長が見込まれる市場であり、地域経済への貢献度も高い
  • 国連では、観光の振興をSDGs達成のための重要な要素と位置付けている
  • 大洋州の島しょ国では、「手付かずの自然」「多様な文化」など、国際市場からのアクセスの悪さゆえに得られた強みを活かし、独自の観光戦略を立案することが求められる

SDGsが掲げる「持続可能な観光」とは

世界の観光市場は拡大を続けており、今後も大きく成長していくことが見込まれている。国連世界観光機関(UNWTO)の調査によると、2018 年の国際観光客到着数は14.1億人となっており、前年から8,000万人増と約6%の増加を見せた。また、UNWTOは最良のシナリオでは2030年までに18億人(年平均成長率6.5%)に達するという長期予測を示している。この成長市場を取り込むべく、多くの地域において観光開発が進み、地域の経済発展・雇用創出・格差是正につなげる動きが増えてくると見込まれ、観光開発の支援ニーズは今にも増して高まると想定されている。

UNWTOや国連開発計画(UNDP)では、観光振興をSDGs達成に向けての重要な要素と位置付けており、SDGsが掲げる17ゴールのうち、ゴール8、12、14の中の各ターゲットにおいて「観光(Tourism)」が直接言及されている(表1)。

表 1:SDGsにおける観光に関するゴール、ターゲット、指標

出典:ゴール・ターゲット・指標は外務省”Japan SDGs Action Platform”[1]、
分類・所管機関は国連統計局 ”Tier Classification for Global SDG Indicators 11 December 2019” [2]より作成

さらにUNWTOやUNDPでは上記の3つのゴールだけでなく、SDGsの全17ゴールで観光開発が開発課題の解決に貢献し得るとしている[3]。SDGsが「持続可能な開発」のために達成すべきゴールであることに鑑みれば明らかであるが、ここでの観光開発は、「観光業」の振興のみを指すのではなく、SDGsの理念に沿った「持続可能な観光」の実現であることが求められる。UNWTOは「持続可能な観光」について「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」と定義しており[4]、持続可能な観光を実現するには、「環境」、「社会文化」、「経済」の3領域の適切なバランスが求められる。特に「環境」との関連性については、さまざまな観光地が気候変動による深刻な影響を受けていることに鑑みても、観光開発において最重要課題の一つと言えるだろう。

大洋州地域における「持続可能な観光」開発の課題と展望

観光業を基幹産業として持続可能な開発を目指しているのが大洋州の島々である。大洋州は、地理上の分類としてはメラネシア・ポリネシア・ミクロネシアの3つのサブ地域に分割され(図1)、現在、日本の政府開発援助(ODA)による支援の対象となっているのは14カ国である(表2)。世界銀行の報告によると、大洋州11カ国(表2のクック諸島、ニウエ、ナウルを除く)の2014年の訪問者数は約137万人、そのうちの3分の2はオーストラリアとニュージーランドからであり、他はアメリカ、中国、日本、ヨーロッパ各国から訪れている [5]。大洋州の島しょ国には海外からの観光客に訴求しうる十分な自然環境(4S : Sea, Sand, Sun, Sky)と文化資源(固有の伝統芸能、民芸品、食文化など)があるにも関わらず、多くの国では戦略的な観光投資の不足、アクセスの悪さ、インフラの未整備などがネックとなり、比較対象とされる東南アジア各国やハワイ、マリアナ諸島などに比して地域全体としての観光競争力が非常に低い。こうした観光後発国に対して、パラオやフィジーなどの一部の国では観光開発が非常に進んでおり、エコツーリズムの推進や積極的な観光客誘致戦略など先進的な取り組みが行われている。その一方で、これらの国では外国の民間資本によるマスツーリズムが中心となっており、観光による収益が自国内にとどまらず、地元経済への貢献は限定的であると考えられる。

図 1:メラネシア・ポリネシア・ミクロネシアの区分

出典:クニエ作成

表 2:大洋州各国の人口、主要産業と経済状況

出典:外務省ウェブサイト国別情報ページ[1]よりクニエ作成

14カ国すべてを合わせても人口は約1,100万人、国土面積合計も約530,000㎢(日本の約1.4倍)と非常に小さい。一方で、排他的経済水域(EEZ)は19,780,000㎢(日本の約4.4倍)で、その豊富な海洋資源は注目に値する。パプアニューギニアのように潤沢な地下資源に恵まれている国もあれば、パラオやFSMのように旧宗主国からの財政的支援に依存している傾向のある国、キリバスやツバルのように大きな財政的支援がなく自立そのものが困難であると目される国など状況はさまざまであるが、地域全体としては以下のような開発課題を抱えている。

  • 国土が狭く、複数または多数の島に分散し、電気や水道などの社会インフラ・サービスが行き渡らない
  • 主要な国際市場から離れているため、基幹産業が育ちにくい
  • 自然災害や気候変動に対して脆弱で、影響を強く受けやすい

観光地の優位性を大きく左右する「アクセス」という点で見ても、同じく島しょ地域であるカリブ地域、東南アジアと比較すると、国際的にみた大市場からのアクセスの利便性は大きく劣る。距離だけでなく、主要都市からの航空便の本数が限られているとなれば、北米主要都市からのアクセスの良いカリブ地域や、アジアの主要都市からのアクセスの良い東南アジア地域と比較して劣ってしまうのは明らかである。しかし、いずれの島しょ地域も「手付かずの自然」「多様な文化」という観光資源を有していると言え、特に大洋州地域においては国際市場からの遠隔性などによって他の地域と比較しても独特の文化資源を維持している国が多い。

「コト消費」重視の観光業に見る大洋州地域の可能性

近年の観光産業では「体験」、いわゆる「コト消費」を重視する傾向が一層強まっている。世界最大の旅行口コミサイトであるTrip Advisorの調査では、近年は体験型アクティビティへの予約が増加しており、2018年は2017年に比較して歴史遺産ツアーは125%増、サンセットクルーズは85%増、日帰りプライベートツアー79%増、シュノーケリング70%増、料理体験は57%増と軒並み増加している[8]。日本においても訪日外国人が「爆買い現象」に象徴されるようなモノ消費から体験、アクティビティを重視するコト消費に移行している傾向は顕著である。日本政府観光局の調査では、コト消費には体験そのものを消費するだけでなく、訪問先の文化や生活をよく理解したいという欲求から現地でのガイド付きツアーなどにニーズがあり、新たな雇用を生む可能性がある。さらに実際に体験した内容にかかわるモノに興味を持ち、それを購入するケースが見られるように、コト消費がモノ消費を活性化するという側面もある[9]。

独自の歴史や文化的背景、豊かな環境資源を持つ大洋州各国の観光振興は、「コト消費」を求める消費者の要望に十分に合致している。そのため、大洋州地域において環境保全と並行して「手付かずの自然」「多様な文化」をこれまでにない新しい体験を重視する「コト消費」へのニーズに対する観光資源としてアピールしていくことは、現在の世界的な観光潮流にマッチしている。自然や伝統文化などの観光資源の高付加価値化を推進しつつ保全・継承を担保することが望ましいと考えられ[10]、それは同時に前述のSDGsにおいて想定されている「持続可能な観光」に資する。「持続可能な観光」推進のためには、「関連するすべてのステークホルダーの参画」「(幅広い参加と確実な合意形成のための)強いリーダーシップ」「観光の影響をモニタリングする継続的な取り組み(必要に応じた予防的・調整的措置の導入)」が必要とされ[11]、そのための人材育成、ガバナンス体制構築なども優先度の高い取り組みとして検討することが求められる。今後の観光振興施策としては以下のような対応が優先課題として挙げられる。

  • 空港・港湾の拡張や航空便の増便を通したアクセスの改善
  • 各国における観光関連施策立案、モニタリング体制構築および関連人材育成
  • 観光関連マーケティングスキルを持つ人材の養成
  • 地域全体をカバーする観光専門家の育成
  • 自然・歴史・文化遺産の活用
  • 宿泊施設の増設・拡張
  • 公共インフラ(電気、交通、インターネットなど)の整備
  • 廃棄物管理・廃棄物処理能力強化

観光産業は雇用吸収力が大きく、地域への経済波及効果があり、従業員のスピンオフによる起業も期待できる。そのため、上記優先課題への対応のみならず、各国の経済全体の振興に貢献するような観光関連戦略の立案が重要となる。SDGs達成の一助となる「持続可能な観光開発」を大洋州地域で促進していくことで、観光後発国においては、魅力的な観光資源を持ちながらもこれまで開発がされてこなかった地域の発展が望まれる。同時に、観光先進国においてもオーバーツーリズム解消や自然環境保全を重視した観光開発を目指し、従来の大規模リゾート開発などによるマスツーリズムとは差別化された新しい観光戦略立案が可能となりうる。

日本は大洋州各国と長く良好な外交関係を持ち、1997年以降太平洋・島サミット(PALM)を開催し3年ごとに地域の安定と繁栄を目指し議論を行う首脳レベル会合を実施している。歴史を遡れば日本が国際連盟の委任統治を行った国もあり、今も多くの日系人がいるほか、太平洋戦争の舞台となった激戦地では現在でも遺骨収集団・慰霊団が訪問している[12]。このように深い歴史的関係性があり、かつ太平洋という国際公共財を共有していることに鑑みて、日本が大洋州地域とより強固なパートナーシップを築いていくことは大きな意義を持っている。日本社会、国際社会の発展に寄与することを目指し、大洋州における持続可能な観光開発の可能性を模索していきたいと考えている。

  1. [1] 外務省 Japan SDGs Action Platform
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/index.html、(参照 2020年1月10日)
  2. [2] “Tier Classification for Global SDG Indicators 11 December 2019”, 国連統計部
    https://unstats.un.org/sdgs/files/Tier-Classification-of-SDG-Indicators-11-December-2019-web.pdf, (参照 2020年1月10日)
  3. [3] 「Tourism and the Sustainable Development Goals –Journey to 2030」UNWTO, UNDP, 2017年
  4. [4] 同上, 15, 翻訳は弊社.
  5. [5] Pacific Possible “Tourism”, World Bank, 2015, 1
  6. [6] 外務省ウェブサイト国別情報ページ
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/index.html, (参照 2020年1月10日)
  7. [7] 「2018 Travel Trends Report: Experiences, Tours & Activities」, TripAdvisor, 2018
  8. [8] 「訪日外国人旅行者の消費動向とニーズについて―調査結果のまとめと考察―」日本政府観光局 インバウント戦略部 調査・コンサルティンググループ, 2016年, 3.
  9. [9] 「大洋州地域JICA国別分析ペーパー」、独立行政法人国際協力機構、2014年2月, 49.
  10. [10] 2017年度国土交通政策研究所「持続可能な観光政策のあり方に関する調査研究」, 国土交通省, 2018年4月, 3.
  11. [11] 大洋州-外務省ウェブサイト
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ps_summit/pif_3/kankei.html, (参照 2020年2月4日)

三浦 雅子

途上国ビジネス支援担当

コンサルタント

大学院修了後、青年海外協力隊、開発支援・緊急人道支援を行うNGOなどを経て現職。主にODA資金による緊急人道支援、開発支援のモニタリング・評価の実施、ジェンダー関連事業のアドバイザリー業務などを担当。QUNIEでは、新興国・途上国のビジネスコンサルティングに特化し、アジア・大洋州・中東などさまざまなフィールドで、日本企業などのビジネス展開における事業戦略立案や現地体制構築などに従事。2018年度より、筑波大学非常勤講師も務める。

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