2023.12.15

300の事例から見えたデータマネタイゼーションの事業創出アプローチ

【第4回】データマネタイゼーションの実現へ向けたアプローチと検討すべきポイント

和田 真洋 

Summary

  • データマネタイゼーションは、ビジネスモデルキャンバスで整理すれば、「保有データ」を「資源」と見なした新規事業創造の取り組みとなる
  • 事業創造へ向けて、「データマネタイゼーション全体戦略の検討」と「具体的なサービス企画・構築・展開」の2つのアプローチが必要
  • 全体戦略の検討は保有データの整理など、内部・外部調査をもとに行う
  • サービス企画・構築・展開では、具体的なユースケースの作成をもとに検討を進める

データマネタイゼーションは「保有データ」を「資源」と見なした新規事業創造の取り組み

これまでの連載において、第1回ではデータマネタイゼーションの定義および日本における実現状況の概観、第2回では事例をもとにしたデータマネタイゼーションの実態、第3回では、データマネタイゼーションの事業化における障壁をお伝えした。そして最終回となる今回は、データマネタイゼーション事業の事業創造のアプローチについてお伝えしていきたい。

まず前提として押さえておきたいのが、データマネタイゼーションではデータ分析だけでなく、「新規事業創造」の観点が必要になる点である。これまでの連載でも再三触れてきたが、データマネタイゼーションでは顧客ニーズの把握やソリューション開発、そしてマネタイズ設計が求められる。データ分析の観点も必要不可欠ではあるものの、データマネタイゼーションはどちらかといえば「事業実現へ向けた主要な手法」としての位置づけである。

データマネタイゼーションの新規事業創造において特徴的な要素を整理する前に、まずは一般的な新規事業創造のアプローチについて紹介する。新規事業を検討する際によく用いられるのが、「ビジネスモデルキャンバス」というフレームワークだ(図1)。一般的な新規事業創造の場合は、ビジネスモデルキャンバスに記載されている9つ全ての要素をゼロから揃えていくこととなる。検討を進める順番としてまずは「顧客課題」「提供価値」、次に右側の「チャネル」「顧客との関係性」、そして後半に左側の「資源」や「主な活動」「パートナー」といった項目へと進めることが推奨されている。

図1:ビジネスモデルキャンバスから見るデータマネタイゼーションの新規事業創造の特徴

 
一方データマネタイゼーションでも9つの要素の内容、およびその検討が必要であることは同じだが、「資源」の検討順が大きく異なる。通常、「資源」は顧客課題に紐づく提供価値を実現する手段として、後半(=左側の項目)で検討されることが多いが、データマネタイゼーションでは“すでに保有しているデータ”を資源とする事業創造であるため、企画検討の前半から検討することとなる。顧客課題や提供価値の検討と並行して、自社の保有データが持つ価値も考慮しながら事業創造を行う点が、データマネタイゼーションの特徴的な側面と言える。

事業創造へ向けた2つのアプローチ

ここからは、データマネタイゼーションの事業創造アプローチについて述べていきたい。アプローチの構成要素は大きく分けて「(1)データマネタイゼーション事業全体の戦略検討」「(2)具体的なサービス企画やサービス構築および展開」の2つである(図2)。

図2:データマネタイゼーションの事業創造アプローチ

 
(1)の事業全体の戦略検討では自社アセットや市場環境調査などを行い、競合の動向やターゲットとする業界・セグメント、またそこにおけるポジションなどを検討する。(2)の具体的なサービス企画では、自社の保有データが持つ価値を定義しながら具体的な顧客を選定し、顧客課題やソリューションなどの検討を行う。この2つの要素を行ったり来たりしながら、事業創造へ向けた検討を進めていくことになる。
以降で各構成要素についてもう少し詳しく見ていく。
 
(1)データマネタイゼーション事業全体の戦略検討
まず、内部環境や外部環境の調査をもとに、事業全体の戦略を検討する(図3)。具体的な内容や進め方は、一般的な事業戦略の立案のプロセスと重なる部分が多いので割愛したい。

図3:データマネタイゼーション事業全体の戦略検討の要素

 
データマネタイゼーションの事業戦略の検討として忘れてはいけないのが、内部環境調査における「保有データの整理」である。整理の仕方については後述の通り「データの内容」と「データが持つ価値」という2つの観点で整理するのが良い。

 ・「データの内容」としての整理:
まずは、どのような内容のデータを保有しているかを整理する。また、内容に加えて取得対象や取得手法、日時、場所、格納場所や連携・突合できるデータなども整理しておくことで、後続する「データが持つ価値」の整理が行いやすくなる。

 ・「データが持つ価値」としての整理:
次に、整理したデータ内容の「価値」を考えていく。SNSサービス提供企業がユーザーの投稿データから価値を見出すアプローチを例に挙げると、ユーザーの写真付き投稿から食事内容全体が分析できる場合、そのデータを単なる「食事内容」としてではなく、「POSデータからはわからない、購入商品と実際の食べ合わせの内容」として整理する。このように、データ整理においては“そのデータが持つ価値は何か”の検討が重要だ。また事業全体の戦略の検討では、これらの内部環境の整理とともに、競合調査などの外部環境調査も行い、データマネタイゼーション事業としてのターゲットセグメントの明確化やポジショニング、マーケティング施策、そしてビジネスロードマップなどの検討などを行っていくことになる。

 
(2)具体的なサービス企画・構築・展開
データマネタイゼーション事業全体の戦略検討に続くのが、具体的なサービス企画、構築・展開の検討だ。(1)で整理した「データが持つ価値」の情報をもとに、具体的な顧客を想定し、課題の調査やソリューションの検討、サービス構築、展開などを行っていく。内容はフェーズ1~5に分類できる(図4)。

図4:具体的なサービス企画・構築・展開における検討要素

 

フェーズ1は「テーマ選定」として、前段の事業全体の戦略をもとに具体的なターゲット顧客を設定し、顧客課題の仮説立案および提供価値の検討などを行う。続くフェーズ2は「概略企画」であり、フェーズ1で選定したテーマについて、インタビュー調査などにより得た顧客課題の仮説検証を行い、事業企画の大枠を整理していく。ビジネスモデルキャンバスに当てはめて、顧客や課題、提供価値、顧客との関係性、パートナーなどが検討されている状態を目指す。フェーズ3は概略企画をもとに、事業企画としてまとめていく。フェーズ3が終わる時には、ビジネスモデルキャンバスのほとんどの項目が埋まっている状態にする。そして実際にサービスを構築し提供準備を進めるのがフェーズ4であり、顧客に対してサービス提供を始めるのがフェーズ5となる。本項では、データマネタイゼーションの特徴を含むフェーズ1の「テーマ選定」に焦点を当て解説する。
 
フェーズ1で検討する内容は、次の6つ(A~F)の項目に整理することができる(図5)。

図5:フェーズ1で整理する6つの項目(A~F)

 
「A:データの価値の概念化」は、前述の全体戦略の際にも検討している内容である。全体戦略で検討した内容(概念化した価値)を基に検討を進めていく。もし検討に行き詰まった場合などには、Aに戻りデータの価値を再度整理した後、「B:ターゲット顧客」を再検討すると良い。AとBの検討の後に行うのが、「C:現在の顧客課題」、「D:顧客課題に対する現在の対応策(競合・代替品)」、「E:提供価値」である。
 
Eでは顧客が抱える課題の中で、顧客が現在保有するデータや競合のサービスでは解消できていない課題を対象とし、そのうち自社が保有するデータ(あるいは、それに加えて他社データも連携したデータ)の活用により解決できることを「提供価値」として整理するため、A~Dの要素を先に検討しておく必要がある。
 
ここで失念しがちなのは、“顧客自身もデータを保有・活用しており、課題解決を行っている”ということだ。
例えば卸売企業が販売先である小売店に対して、自社の販売データを活用した「需要予測サービス」を検討しているとしよう。初期仮説の検証として、顧客となる小売店に実際に話を聞いてみると、顧客企業が保有するPOSデータや会員情報などをもとに、既に自社よりも詳細な観点で需要分析を行っているケースなどがある。こういったケースは、ターゲットとする顧客企業の保有データの内容とその活用状況を、事前に十分に想定できていない場合に起きてしまう。
このような“甘いユースケース”設定では、仮に価値のあるデータを自社で保有していたとしても、事業化および収益化を実現することは難しい。そのため顧客が保有するデータの活用状況とその際の課題を想定し、その課題に対して自社データを活用するとどのような価値が提供できるのかは予めしっかり検討しておきたい。
 
さらに言えば提供価値を経済的なメリットとして定量化し、より具体的なユースケースとして想定しておけると顧客への説得力を増すことができる。ユースケースの作成に関しては、本連載第3回「データマネタイゼーションの実現を阻む障壁」の「障壁4:リアリティのあるマネタイズ設計が困難」もご参照いただきたい。

A~Eを検討した後、最後に「F:実現に向けた障壁」として、想定したユースケースを実現する際に障壁となるデータの内容や環境、技術、制度などを整理する。こうして整理したユースケースを初期仮説として位置づけ、顧客へのインタビュー調査や詳細調査などで仮説検証を行っていく。各ユースケースを収益性や実現性などの観点で評価し、今後の検討における優先順位をつけてフェーズ1は完了となる。
フェーズ2では、作成したユースケースの一覧を事業責任者などと一緒に確認をしながら、本格的に概略企画へと進めるユースケースの選定から始めると良いだろう。

おわりに

ここまで4回の連載を通して、データマネタイゼーションの概要や日本における取り組み状況・事例、および実現へ向けたアプローチについてお伝えしてきた。

第1回でも触れたが、世界のデータマネタイゼーション市場は、今後の成長が予測されている。世界市場同様に、日本のデータマネタイゼーション市場も、各企業の保有データ量の増加とともに今後成長していくことが予想される。現状はまだまだ黎明期ではあるが、各企業は今から取り組んでおくことで、将来、先行者優位を築くことができるのではないだろうか。本連載で述べてきた通り、データマネタイゼーションの実現にはさまざまな障壁があり、それらを乗り越えていく必要がある。トライアンドエラーを繰り返しながら、自社独自の勝ちパターンを見つけていくことが重要だ。

本連載がデータマネタイゼーションに挑戦する企業にとって一助となれば大変幸いである。

和田 真洋

新規事業戦略担当

シニアコンサルタント

※担当領域および役職は、公開日現在の情報です。

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